第173話 踊る銀ねこ亭と8人の美女

 錬金工房が多忙を極め、人を採用して欲しいとトリンから矢の催促があった。

 それに対応するため、魔術学園へ出していた求人に応募があったと連絡があり、面接のため王都の向かった。

 当然の如く、採用する側のトリンも同行し、たまたま休みであったマリンとリオナも同行することとなった。


 トリンが造る各種ポーションは純度が高く、各方面から引く手数多あまたで生産が追い付かない状況なのだ。

 加えて、兼業のアイドル活動も忙しくなってきて、増員が不可避となったのだ。

 今回採用するのはポーションの製造を担当する所謂いわゆるトリンの弟子4名で下級ポーションの製造の他、出荷や貯蔵作業、材料の管理なども兼任してもらう予定だ。


 魔術学園からの連絡では応募者は全部で22名いるそうだ。

 生憎の雨模様であったが、オレは飛行船『空飛ぶイルカ号Ⅱ』に乗り、王都へ向かった。

 今回の同行者はジェスティーナと秘書のサクラにトリン、マリン、リオナのアイドルトリオ、それに護衛のステラ、リリアーナ、フェリンの合計9名である。


「トリン、22名も応募があるなんて、凄いわね」

 オレの話を聞いたジェスティーナが驚いている。


「そうなんです、私もカイト様からその話を聞いた時、ビックリしました」

 トリンも応募者数の多さに驚いていた。


「そのくらい応募者がいて当然だよ、だって採用条件が良いからね。

 なんせ、報酬は月に金貨3枚で週休2日だし、飛行船は乗り放題だからね」

 この国の平均給与は金貨1枚(約10万円)が当たり前なのだが、その3倍でしかも休みもしっかりと有り、休みの日は王都へ帰れるという好条件なのだから、応募が殺到するのは当然だ。

「でも有能な人材が来てくれれば、トリンの負担が楽になるんだから安いもんだよ」


「それは確かにそうね、トリンの負担を軽くしてあげないと」とジェスティーナが言った。


「王女殿下、お気遣いありがとうございます」とトリンが頭を下げた。


「ところでカイト様、私たち今日はどこに泊まるんですか?」とリオナが聞いた。


「今日は王宮の中にある『秋桜の館』に泊まる予定だよ。

 客間も4つあるし、全員泊まれるよ」


 オレの言葉に一番驚いたのはマリンであった。

「えっ、王宮の中に泊まるんですか?

 恐れ多くて泊まれません。

 なので、私実家に帰らせていただきます」


 それを聞いていたリオナが言った。

「マリンちゃんの実家って宿屋だって聞いたんですけど、私も泊まってみたいなぁ」とオレの方をチラッと見た。


 マリンの実家は王都の繁華街にある『踊る銀ねこ亭』と言う宿屋兼食堂なのである。

 そこの名物女将がマリンの母と言うわけだ。


「あ、私もまたオバさんに会いたいなぁ~」とトリンも同調する。


「私も一度でいいから『踊る銀ねこ亭』に泊まってみたいと思ってたの」とジェスティーナまで、その話に乗ってくる始末である。


「でも王女様が街中の宿に泊まるって警備上問題あるんじゃない?」


「大丈夫よ、腕利きの護衛が3人もいるんだから」とジェスティーナは3人の護衛を見て微笑んだ。


 その話を聞いていた、リリアーナが言った。

「カイト様、万全の護衛体制を取りますから、王女殿下の願いを聞いてあげて下さい」


「ね、問題ないでしょ」とジェスティーナが満面の笑みをオレに投げかけた。


「やれやれ、しょうが無いなぁ。

 それじゃあ、今夜はみんなで『踊る銀ねこ亭』に泊まるとするか」


 それを聞いたリオナ達は、やった~と言ってみんなではしゃいでいた。

 ジェスティーナまでもが、一緒に喜んでいた。


 飛行船『空飛ぶイルカ号Ⅱ』は約1時間で王都中心部にあるソランスター航空公社の飛行船ステーションに到着した。

 そして歩いて10分ほどの距離にある『踊る銀ねこ亭』へと向かった。


 王都中心部にある『踊る銀ねこ亭』は歴史を感じさせる古い建物であるが、良く手入れされて風格さえ感じさせる。

 入口にある、踊る銀ねこの看板が実に可愛らしく、建物によく合っていた。

 マリンが勢いよくドアを開けて中に入った。

「ただいま~、お客さん連れてきたよ~」


「おや、マリンお帰り、お客さんって誰だい?」

 そう言って女将が奥から顔を出した。


「女将、ご無沙汰」

 マリンに続いて中へ入ったオレが女将に挨拶した。


「あらま~、カイトさんじゃないかい、久しぶりだね~。

 いつもうちの娘がお世話になってます~」


「いえいえ、マリンちゃんが良く働いてくれて、とても助かってますよ」


「そう言えば、プレオープンの時、お宅のホテルに泊めてもらって、とても良かったよ~」


「いえいえ、女将さんのお陰で場も盛り上がったし、逆に助かりましたよ」


「そうかい、そう言ってもらえると嬉しいよ。

 ところで、マリンがお客さん連れて来たって言ってたけど、カイトさんのことかい」


「そうそう、マリンちゃんも入れて全部で9人かな」

「みんな、中に入って」とオレは外で待っていた残りの7人を中に入れた。


「オバさん、こんにちは」とトリンがオレの後ろから顔を出して挨拶した。


「おやまあ、トリンちゃんじゃないか、相変わらず別嬪べっぴんさんだねぇ」


「またまた~、オバさんってば、口が上手いんだから~」

 女将に褒められてトリンは満更でもなさそうだ。


「あらあら、カイトさんの他は、女の人ばかりじゃないかい。

 それもみんな飛び切りの別嬪べっぴんさんだね~」


「ところで女将、部屋は空いてるかい?」


「空いてるけど、1泊でいいのかい?」


「うん、今回は1泊の予定だから」


「それじゃ、特別室が空いてるから、そことツインが1部屋でいいね。

 マリンは自分の部屋で寝ればいいしね」


「うん、それじゃ、その2部屋でお願いしようかな」


「ところで夕食はウチで食べるのかい?」


「ああ、そのつもりだけど」


「分かったよ、それじゃあ、いつもお世話になってるから特別サービスしちゃうよ」


「え、いいのかい?」


「何言ってんだい、いつも娘がお世話になってるんだから、それくらいしないとね」


「なんか、いつもいつもサービスして貰っちゃって悪いね」


 その時、女将はオレの隣りにいるジェスティーナに気付いた。

「もしかして、カイトさんの隣の方はジェスティーナ王女殿下…」


「女将さん、カイトがいつもお世話になってます。

 私も『踊る銀ねこ亭』さんに泊まってみたくて来ちゃいました」とジェスティーナが笑顔で言った。


 それを聞いた女将おかみの顔からは血の気が引くのが分かった。

「な、なんと、光栄なことでございましょう、ありがたき幸せ」と普段の言葉遣いからは想像も付かない言葉を女将が発した。


「このことは他の客には秘密にね」とオレが忠告した。


「一応、彼女たち3名はオレたちの腕利きの護衛だから問題ないと思うよ」


「はい、畏まりました」と女将も口調は直っていなかった。


 因みにこの日は特別室の3つのベッドルームにオレとジェスティーナ、サクラとステラ、リリアーナとフェリン、ツインの部屋にトリンとリオナと言う部屋割りにした。

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