第168話 ひまわりの館

 王宮内に『向日葵の館』が完成した。

 国王が第2王女アリエスの我儘を聞き改装した別邸だ。

 王宮内では小さ目な別邸であるが、ジェスティーナの『秋桜の館』同様、王宮から500mの距離にあり、空中回廊で繋がっていて外に出ることなく行き来できるのだ。


 『向日葵の館』は湖に面し、白で統一された落ち着いた2階建ての建物で2階にはバルコニーがある。

 中に入ると部屋は広くゆったりした造りで、リビングダイニング、主寝室の他に部屋が5つ、書斎、衣装部屋、パウダールーム、広めの浴室、トイレが2箇所と専用庭園と専用プールがあり、概ね『秋桜コスモスの館』と同じ作りだ。

 庭の一画には飛行船の停泊スペースが確保されており、ここへ直接着陸できるようになっていた。

 専属の使用人5名の他、警備兵が常駐し、周囲の警戒にあたる。


 夏から秋にかけて庭いっぱいに向日葵ひまわりが咲くよう種を植えたと言う。 

 館内の内装は淡い山吹色で統一され『花の女神のパレード』で『ひまわりの花の女神』を務めたアリエスのイメージにピッタリだ。


 今日は落成記念として、オレとジェスティーナが招待されのだが『私は遠慮するからアリエスと水入らずで楽しんでね』とジェスティーナは辞退したのだ。


 オレがアリエスに案内され邸内を見ていると、チャイムが鳴った。

 聖騎士隊所属の女戦士ヴァルキュリー、アンジェリーナ・レイシスとレイフェリア・ブルーアイズが到着したのだ。


 アリエスの専属護衛として国王が選任してくれたのだが、オレに紹介するために二人を夕食に呼んだのだ。

 聖騎士隊の制服である、白と群青色に金の縁取りのアーマースーツに身を包んだ美女二人が、姿勢を正して立つととても凛々しく見える。


 入口で立ち止まりアンジェリーナがオレたちに挨拶した。

「シュテンオンベルグ伯爵閣下、アリエス王女殿下」

「お二人の専属護衛に任ぜられましたこと、光栄至極に存じます」

「私共2人、聖騎士隊女戦士ヴァルキュリーの名に恥じぬよう、命を賭けてお仕えすることを、ここにお誓い致します」


「丁寧な挨拶ありがとう、これから宜しくね」とオレが声を掛けた。


「さあ、夕食を用意しましたから、こちらへどうぞ」とアリエスが2人をダイニングへ招き入れた。


 オレは『向日葵の館』の落成を祝ってアクアスター・ワイナリーの『スター・シルバー』と言うスパークリング・ワインを持参した。

 もちろん、執事長のローレンが造ったワインだ。

 よく冷えた白銀色の液体をフルートグラスに注ぐと銀色の泡が立ってキレイだった。


「それでは『向日葵の館』の落成とオレたちの出会いにカンパーイ」

 女性たちはカンパーイと言ってオレのグラスに自分のグラスを合わせた。


 乾杯が終わると侍女たちが、美味しそうな料理を運んできた。

 この日はアリエスが侍女たちと一緒に作った料理が振る舞われた。

 牛ヒレステーキ、ボルチーニ茸のパスタ、生ハムサラダ、カプレーゼ、舌平目のムニエル、オマール海老のビスク、7種類のピンチョスなど豪華な料理が並んだ。

 料理が得意と言うアリエスの家庭的な一面を見て、オレの好感度が上がったのは言うまでもない。


 ワインも入り、舌も滑らかになったところでオレが聞いてみた。

「ところでアンジェリーナの名字のレイシスってセレスティーナと同じだけど、何か関係があるの?」


 オレがそう言うとアリエスがこう答えた。

「カイトさん、何言ってるの、アンジェはセレスティーナの3番目の妹なのよ」


「え~、そうなんだ、それは知らなかった」


「はい、私はレイシス家4姉妹の3女で、セレスティーナが長女なのです」

 アンジェリーナの話ではレイシス男爵家は、代々王国軍の要職を務める誉れ高き名家で、男子3名と女子4名の7人兄妹なのである。

 全員王国軍に所属し、4姉妹は何れも聖騎士隊の女戦士ヴァルキュリーなのだと言う。


「それじゃ、レイフェリアのブルーアイズって言う苗字もリリアーナ・ブルーアイズと関係あるってことかな?」


「はい、私とリリアーナは従姉妹です」

 レイフェリアの父とリリアーナの父は兄弟であり、ブルーアイズ男爵家も代々王国軍の要職を務める名家なのだ。

 ブルーアイズ男爵家一族からは男子5名、女子5名の計10名が王国軍に従軍しているそうだ。


 因みにリリアーナ・ブルーアイズはジェスティーナの専属護衛である。

 セレスティーナ・レイシスは、元内務省官僚で今はオレの内政担当補佐官を務めているが、元々は聖騎士隊所属の女戦士ヴァルキュリーで、並外れた剣と弓の達人であり護衛任務も兼務しているのだ。


「へ~、2人とも名門の出なんだね~、驚いたよ」

「多分、セレスティーナやリリアーナと一緒に行動する機会も多いと思うよ」


「そうですね、実はそれが楽しみなんです」

 女戦士ヴァルキュリーの二人は顔を見合わせ、悪戯っぽく笑った。

 アンジェリーナは18歳、レイフェリアは17歳、こう見えても聖騎士隊の中でもトップクラスの実力者なのだ。

 そうでなければ、第2王女の専属護衛に選ばれたりしないだろう。


 オレたちは美味しい料理とワインに舌鼓を打ち、アンジェリーナとレイフェリアの厳しい訓練生活の話で盛り上がった。

 聖騎士隊の日常訓練は過酷で気が抜けず、訓練中は化粧など以ての外だそうだ。

 また、男子禁制の女だけの世界なので、休憩中は男の話で盛り上がったりすることもあるそうだ。

 しかし、今回のように王室の護衛任務に就くこともあるので、女の操を守ることが義務付けられているそうだ。


「へ~、聖騎士隊って相当規律が厳しいんだね~」

「あまり厳しくすると、成り手が居なくなるんじゃないの?」


「そんなことは、ありません」

「聖騎士隊は、志ある女子にとって憧れの職業ですから」

 アンジェリーナの話では、聖騎士隊の入隊試験は約15倍の狭き門らしい。

 武術剣術の他に学力試験があり、文武両道に秀でた女性でなければ合格できないそうだ。


 しかし聖騎士隊の待遇は抜群に良く、初任給は金貨5枚と一般人の平均給与の5倍で、6年以上勤めれば希望省庁へ推薦されると言う出世コースでもあるのだ。

 その分、在隊時には文武両道の厳しい教育・指導・訓練が待っているのだ。


「なるほど、女性の出世コースって訳か」

「道理で憧れの職業の筈だ」


「ところでアリエスには国王陛下から、王宮からの外出許可が出たから、オレに同行してアクアスターやシュテリオンベルグ領にも行ってもらう予定だ」


「はい、カイトさん、どこへでもお供しますわ」


「おいおいアリエス、婚約者フィアンセなのに、さん付けはないんじゃないの」

 オレは笑いながらアリエスをたしなめた。


「ごめんなさい、まだ慣れなくて」

「じゃあ改めて、カイト、これから宜しくお願いするわね」

 そう言って、ドキッとするくらい魅力的な笑顔をオレに見せた。


 オレたち4人は2時間ほど、美味しい料理とお酒を楽しみ歓談した。

 時計が夜8時を回った頃、アリエスが立ち上がった。

「それじゃあ、お食事会は、そろそろお開きにして、儀式の準備を始めましょうか」


「はい、畏まりました」

 アンジェリーナとレイフェリアは揃って席を立った。


 オレはアリエスが言った『儀式』が何のことかすぐに分かった。

 それは、女戦士ヴァルキュリーが、主人への忠誠を示すために女の操を捧げる『忠誠の儀』のことだ。

 それは毎月1回行われ、今日が初回となるわけだ。

 二人はその儀式のために、浴室で身を清め順番にオレの待つ寝室へ現れるのだろう。

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