第167話 アクアスター・プロダクション

 サクラが社長を務める芸能事務所『アクアスター・プロダクション』が活動を開始した。

 会長はオレ、副社長はアスナが経営陣に名を連ねることとなった。

 サクラは芸能事務所の経営に生きがいを見出みいだし、本業であるオレの秘書を務めながら、二足の草鞋わらじを履くのだから、忙しいことこの上ない。

 『カイト様には絶対にご迷惑は掛けません』と言っているが、無理は禁物なのでもう1名秘書を雇って、サクラの仕事を少しでも楽にしてやりたい。


 そう思っていた所に舞い込んだのが、国王からのこのような話だ。

 ソフィア・レイフェリスの体調が回復したので、カイト殿の元で働かせてやってくれとのことであった。

 ソフィアはエレーゼ元伯爵の異母妹いぼまいで、地下牢に閉じ込められていたのをオレが救出したのだ。

 その際に1ヶ月以上も1日1食の食事しか与えられず、運動すら出来ない劣悪な環境に置かれていたので、救出後も体調不良に悩まされ王都で療養していたのだ。

 何かと悪評が付き纏うエレーゼ姓では、活動に支障があるので、今は母親の旧姓であるレイフェリス姓を名乗っているのである。

 当初はオレの秘書兼情報担当補佐官として勤務する筈だったが、ようやくその話が実現することになったのだ。

 次回王都へ行った時にソフィアを連れて来ることとなった。


 さて、芸能事務所『アクアスター・プロダクション』であるが、当面は次の4つをメインに活動を行うこととなった。

 ①アイドルグループASR39のプロデュース

 ②SDT(シュテリオンベルグ・ダンシング・チーム)のプロデュース

 ③新人発掘オーディションの実施

 ④スタッフ採用活動


 ASR39のメンバーは全員兼業であり、芸能活動に専念することは現状では不可能である。

 本拠地であるアクアスター・リゾートや片道約1時間の王都であればまだしも、1600km離れた領都エルドラードとなると片道3時間半もかかり頻繁には遠征できない。

 これまで王都には公演を行えるステージは無かったが、アスナに頼んでバレンシア商会の力で、王宮に近い場所の土地を買収し、そこにアリーナを建設することとなった。

 建物はオレが以前設計した小規模アリーナのBIMデータを活用し、MOGで建設するのだ。

 小規模と言っても座席数は最大8000名なので、けっこうな収容人数だ。

 名称はアスナの提案した『アクアスター王都アリーナ』に決まった。

 これには『アクアスター』をブランド化しようと言うアスナのしたたかな計算があるのだ。

 運営会社はアクアスター・アリーナと言う新会社でオレが会長でアスナが社長、サクラが副社長だ。

 将来的には複合商業施設併設型のアクアスター・アリーナ、或いはアクアスター・ドームを建設して各地に進出しようとアスナは意気込んでいた。


 アクアスター王都アリーナ1階には、下記の7店が出店した。

 ①カフェ・バレンシア

 ②バレンシア・ストア

 ③ジェラート・バレンシア

 ④アクアスター・モール

 ⑤イシュトリア・シーフード王都店

 ⑥ステーキ&ワイン黒ひげ亭王都店

 ⑦アルカディア・ストア王都店


 ①②は言わずと知れたバレンシア商会の店である。

 ③はバレンシア商会初のジェラート専門店で24種類のジェラートを販売する。

 ④はオレの領地、アクアスターの特産品であるワインや農産物加工品とASR39とSDTのグッズを販売する店だ。

 今はまだ商品数は少ないが、何れ充実させるつもりだ。

 ⑤は領都エルドラードからイシュトリア・シーフードとしては領外初進出の店だ。

 ⑥と⑦はアルカディア・グループの店であるが、セントレーニアの実力者ゼビオス・アルカディアに恩を売るために優先的に王都進出の話を振ったのだ。

 因みにアルカディア・ストアはセントレーニアの特産品を中心に販売するアンテナショップだ。

 店内にはアルカディア・ワイナリーの各種ワインや、バラ園の香水、果樹園の新鮮な果物、ハーブなどが展示販売されているが、これも飛行船の都市間定期航路が開設したからせる技である。


 これら7店舗が常時開店しているので、アリーナで公演がなくても人が入るような仕組みになっているのだ。

 アクアスター王都アリーナでは、ASR39が月4日8公演を行うことで調整中である。

 並行して未来のスターとなる人材の発掘活動も開始した。

 月2回の新人採用オーディションを実施するのである。

 当初は月1回の予定であったが、応募者が殺到し1回ではさばけなくなったので急遽2回に増やした。


 オーディションの募集対象はアイドル、歌手、ダンサー、モデル、演奏者である。

 同時にマネージャー、アシスタントも募集した。


 驚くことに美男美女率が高いこの国のポテンシャルは高く、オーディションもハイレベルなものとなった。

 初回オーディションには約1300名の応募があり、1次審査、2次審査を通過した72名が最終審査に進んだ。

 オーディションの審査員はサクラ、アスナ、リオナ、リーファの4名に何故かオレも加わることになり、来週実施される予定である。


 リーファ率いるSDT(シュテリオンベルグ・ダンシング・チーム)は、既にアクアスターで月10日20公演、領都エルドラードで月6日12公演を行い、実績を上げている。

 アクアスター王都アリーナが完成すれば、王都で月6日12公演を行う予定だ。


 リーファは、忙しく飛び回るオレとスケジュールが合わなくて、オレが構ってくれないと不満を漏らしているので、今度じっくりとその埋め合わせをしなければならないだろう。

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