第139話 新型高速飛行船『空飛ぶイルカ号Ⅱ』

 昨日の飲み過ぎがたたり、今朝はいささか二日酔い気味である。

 今日は午前10時に新型飛行船が届く予定なので、今まで使っていた船を返して、そのままアクアスターリゾートへ帰る予定だ。


 オレたちは1週間世話になったサエマレスタ・リゾートをチェックアウトした。

 アンジェラ社長が、わざわざフロントまで来てオレたちに挨拶してくれた。

 オレは謝意を述べ『近い内にまた来ます』と言ってホテルを後にした。


 飛行船『空飛ぶイルカ号』は警備員を配置し、港湾地区の広場に停泊していた。

 オレたちが待っていると、空の彼方から黄色いド派手な船体に赤い文字で『異世界宅配便』と書かれた小型飛行船が見えてきた。

 それは、見る見る内に降下して、アッという間にオレの目の前に着陸し、すぐにハッチが開いた。


「お早うございます、異世界宅配便で~す」

「ハヤミ・カイト様にお届けものです」

 配達員は、いつものパルム・シントラだ。


「ハヤミ様、いつもご利用ありがとうございます」

「飛行船をお届けに上がりました、こちらにサインをお願いします」

 と差し出された伝票にオレがサインした。


「ありがとうございます、この箱に飛行船のキーと説明書が入ってます」

 と小さめのダンボールを渡された。


「え、飛行船はどこにあるの?」


「あ~、肝心な商品をお渡しするのを忘れていました。

 今から出しますので、少々お待ち下さい」

 そう言うとパルム・シントラは、テレビのリモコンのような棒状の装置を操作し、何もない空間に向けてスイッチを押すと、そこに新型の高速飛行船が出現した。


『四次元ポケットかよ』と突っ込みたくなったが、彼は日本の国民的人気アニメを知らないだろうし、きっと『いいえ、これは異次元収納です』と言うに決まっているのでオレは黙っていた。


「え~っと、今日は下取り商品の回収もあると聞きましたが、あれですか?」と、『空飛ぶイルカ号』を指さした。


「はい、あれです」


「分かりました。

 一応、中に忘れ物がないか、確認していただいても宜しいでしょうか?」


 オレは『空飛ぶイルカ号』に乗り込み、忘れ物がないか最終確認した。

 思えばこの飛行船は、オレがこの世界に来て間もなく手に入れた最初の飛行船であり、幾ばくかの思い出もあるので手放すのは惜しいのだが、技術革新の誘惑には勝てないのだ。

 記念にとスマホで数枚写真を撮り、オレは心の中で『空飛ぶイルカ号』に感謝と別れの言葉を呟いた。


「大丈夫です、忘れ物はありません」


「はい、分かりました、それじゃ回収させていただきます」

 そう言うと、またあのテレビリモコンのような装置を操作し、ボタンを押すと『空飛ぶイルカ号』は瞬く間に虚空へと消えた。


「以上で商品のお届けと回収が完了しました。

 それでは、これで失礼致します」

 そう言うとパルム・シントラは、慌ただしく自分の飛行船に乗り込み、ハッチが締まると急速上昇して、あっという間に空の彼方に消えた。


 飛行船が、あんな速度で急上昇するのは初めて見たが、きっと彼らにすれば日常茶飯事なのだろう。


 そう言えば、以前パルム・シントラは慢性的な人手不足だとオレに愚痴っていたが、女神フィリアの人使いは相変わらず荒いようだ。


 さて、今届いたばかりの飛行船を見てみよう。


 外観は空飛ぶイルカ号と同じ流線型の船体にダークブルーの塗装。

 船体下部には着陸脚が出ており、船体を支えている。

 翼部には新開発のV型ツイン電動ジェットエンジンが両翼に2基ずつ合計4基付いている。

 尾翼は小さ目で、少し跳ね上がっており、本当のイルカの尾びれのように見える。

 背びれには、飛行の安定性向上の役目がある他、各種センサーとレーダー装置が埋め込まれている。


 旧型とスペックを比較してみた。

 ◎従来型(空飛ぶイルカ号)

 フライングドルフィンEJ18 (型式番号:FDA18-EJ)

 汎用普及タイプ電動ジェットエンジン駆動飛行船

 全長18m、全幅12m、全高6m、最大積載量2トン、座席数18、貨物1.2トン

 飛行高度3000m、最高時速250km、航続距離2400km


 ◎新型

 フライングドルフィンVT21 (型式番号:FDA21-EJVT)

 汎用高速タイプV型ツイン電動ジェットエンジン駆動飛行船

 全長21m、全幅14m、全高7m、最大積載量3.5トン、座席数28、貨物1.5トン

 飛行高度6000m、最高時速450km、航続距離6000km


 船体は一回り大きくなっただけだが、最大積載量が1.75倍に座席数が1.55倍に増加している。

 飛行性能も飛行高度は2倍、最高速度は1.8倍、航続距離に至っては2.5倍に増加しているのだ。

 多少大きくしたくらいで、これほど性能アップが図れるとは異世界の技術革新のスピードは計り知れないものがある。


 標準装備は、今までと変わりないが、オプション装備に2つ新機能が追加されていた。

 リモートコントロールシステムと簡易反撃システムである。

 リモートコントロールは、遠隔地にある飛行船を呼び寄せたり、指定の場所にリモートで移動させる機能だ。

 簡易反撃システムは、飛行船が何らかの攻撃を受けた時、相手に反撃するシステムらしいが、詳しいことはマニュアルを見ないと分からない。

 自動防御システムにもUGと言う記号が付いているので、機能がアップグレードされているようだ。

 これも後でマニュアルを確認してみよう。


 早速、新型飛行船に乗って見る。

 ノブに触れるとロックが解除してハッチが開き、中のタラップが自動的に降りてきた。


 タラップの手すりに掴まりながら、6段ほど登ると船の内部である。

「お~、新車の匂いがする」

 正しくは新船だが、確かに新車のような真新しい塗装の匂いがする。


 中は今までよりも広い。

 船内には座席が左に1席ずつ、右は2席ずつ、それぞれ8列あり、合計24席。

 あとは最前列に4席あるので、操縦席を含め合計28席と言う事になる。

 シートと同じ高さに大きめの窓があり、外が見えるように配置されている。

 前後のシートピッチは1.1mで足元はゆったりしており、手すりを含めたシート幅は約82cmと前よりもやや広い。

 左右に回転したり、リクライニングも可能でフライト中もゆったり過ごせそうだ。


 上半分が透明の壁で仕切られた船内最前部に行ってみる。

 最前列は4席あり、大きな窓から外が見渡せる。

 自動操縦時オートパイロットには最前席は客席としても利用できるのだ。


 キーを操作すると前面の壁から操作卓コンソールと操縦桿が出てきた。

 自動操縦時オートパイロットには操作卓コンソールは壁面に収納されて操作できなくなるのだ。


 操作卓コンソールを見てみると、ホログラフィ技術を使った約50インチの横長で透明なヘッドアップ・ディスプレイと、電源スイッチ、操縦桿の他には離陸、着陸、ドア開閉、ステルスモード、自動運転ボタン、非常ボタンがあるのみだ。

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