第131話 カイト、資金調達に奔走する
新領都シュテリオンベルグへ戻ったオレは山積する問題解決に知恵を絞った。
問題を要約すると下記のようになる。
◎租税免除により税収不足となる金貨30万枚の資金調達
◎生活困窮者への資金援助や復興資金、金貨30万枚の資金調達
◎流出した住民の呼び戻し(人口回復策)
◎官公庁の中核人材の採用
◎新市庁舎の建設とその資金調達
◎領都振興策の策定
一番大きな問題は資金調達だ。
金貨60万枚(円換算で600億円)にも及ぶ資金調達は、並大抵のことではない。
ジェスティーナが国王陛下に国庫納付金の減額を相談してくれると言っていたが、恐らく全額は難しいだろう。
エレーゼ元伯爵が残した資産を処分し、美術品や調度品の売却で幾ばくかの資金を捻出できるが、焼け石に水だ。
近隣諸領へ流出した住民の呼び戻しは、宣伝広告しか方法が無い。
一番多く流出したとされるのは、景気が良いセントレーニアで50%の1万人強だとの調査結果が報告されており、セントレーニアを重点地区に選定し、集中的に宣伝広告活動を行うこととなった。
広告内容は住民全員の1年間の租税免除、旧サンドベリア地区へ戻る住民には1家族当たり金貨5枚を上限とする無償資金援助を行う事となった。
現状残っている住民にも金貨3枚を上限とする無利子資金貸付を行うこととした。
官公庁の中核人材採用は、旧サンドベリア地区の住民を対象に公募することとなった。
行政職は筆記試験と面接試験を実施し、一次面接はアーロン・リセットとヴァレンス、二次面接はブリストール領主代行と領主であるオレが直接面接することとした。
領軍と警察官の採用試験は、実技試験と面接試験を実施し、面接はレガート司令官とヴァレンス、アーロン・リセットに任せることにした。
新市庁舎の建設は資金の問題もあるし、建設に時間が掛かるのもあるが、ただでさえ人手不足なのに建築を引き受けてくれる建築業者があるかどうかというのが一番の問題だ。
この件は、女神フィリアに何か良い方法がないか相談してみようと思った。
領都振興策は、差し迫った問題ではないが、領都として恥ずかしくない魅力的な都市にするために、どうすべきか今後じっくりと考えなければならない。
やはり最大の問題である資金問題を解決しなければ先に進めない。
そう考えたオレは一つの案を持ち、サクラと護衛のステラを連れて飛行船でセントレーニアへ飛んだ。
そして、その足で旅亭アルカディアへ赴き、セントレーニア最大の企業集団「アルカディアグループ」総帥であるゼビオス・アルカディアに面会を求めた。
案内されたのはゼビオスの執務室であった。
オレはエミリアを引き抜くためにゼビオスと
アポ無しの突然の訪問だったにも拘わらず、ゼビオス・アルカディアは快く迎え入れてくれた。
「これはこれは、ご領主様、いやシュテリオンベルグ伯爵閣下とお呼びした方が宜しいでしょうか?」
「いや、どちらでも構いません。
突然押しかけて、申し訳ない」
「いえいえ、ちょうど時間が空いておりましたので問題ございません。
今日はどのようなご用向でしょう」
「単刀直入に申し上げる。
アルカディアグループに資金を出して欲しいのです」
「資金ですか?
これはまた唐突な話ですなぁ」
突然の話にゼビオス・アルカディアは驚いた。
「実は、旧サンドベリア領主の尻拭いで、些か困っておるのです」
オレは新領都とした旧サンドベリアの現状をゼビオスに話した。
前領主の悪政により住民が2万人も離散したこと、住民の呼び戻し策として無償資金援助を考えていること、過去の重税負担の見返りとして1年間租税負担を免除すること、そのためには金貨60万枚の資金調達が必要なことを説明した。
「金貨60万枚(円換算600億円)とは、途方もない金額ですなぁ。
ご領主様のお話はだいたい分かりましたが、出資とは何に対しての出資ですか?
私どもは営利目的の企業ですから、資金を供出して欲しいと言われましても、寄付には自ずと限度がありますぞ」
「寄付を求めているのではありません。
我が領が新たに展開する事業への資金提供です」
「なるほど、伯爵様が陣頭指揮を執り新事業を展開されるのですな。
それは、どのような事業ですか?」
オレはゼビオス・アルカディアを真っすぐ見据え、
「エメラルド諸島のリゾート開発です」
オレは以前から温めていた腹案をゼビオスに披露した。
これまで王室直轄領であったエメラルド諸島での開発行為は禁止されていたが、オレの領地となりリゾート開発が行えるのである。
エメラルド諸島の開発は国王陛下からも了承を得ているのだ。
オレはゼビオス・アルカディアにエルメ島、クリスタ島、シュピーレン島の空撮動画を見せた。
最初は絵がリアルに動くこと自体に驚いていたが、それぞれの島の映像を見て、その美しさや、そこにリゾートを建設したらどうなるか、そしてこれらの島が秘めるポテンシャルを一瞬で理解した。
「確かに、これは素晴らしい島だ。
つまり、領主様はこれらの島にリゾートを作る計画があり、私共のグループも参画を許すから出資しないかと、こう言う話ですか?」
「さすがはゼビオス殿、有能な経営者は理解が早くて助かる」
「これらの島が素晴らしいのは分かりましたが、交通手段はどうされるのですか?
船だと3時間はかかりますぞ。
それに集客はどうされるので?」
オレは国王陛下からの要請で王都と王国内主要都市間に飛行船の定期航路を開設する計画があり、近々セントレーニアにも飛行船が飛来すると話した。
その話を聞いたゼビオス・アルカディアは目を見開いた。
セントレーニアと王都間の飛行船による定期航路開設が、この地にどのような変革を持たらすのか、自分の脳をフル回転させ答えを導き出したのだ。
「そ、それは一大事ですな…」
ゼビオス・アルカディアは興奮を隠せないでいた。
またとないビジネスチャンスの到来だと直感したのだ。
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