王都遠征編

第20話 王都フローリアへの旅

 旅というのは、どんな時もワクワクするものだ。

 ましてや美女4人との旅は楽しいに決まってる。


 王都まで馬車で5日以上もかかる距離を車で2日で走破するのだ。

 比較的人通りの多い街道なので、道路は踏み固められているものの、現代日本のように舗装されている訳ではない。

 幸いなことに、この車は4輪駆動車で、悪路に強く振動を軽減してくれるが、ある程度の揺れは覚悟しなければならない。


「けっこう揺れますね~、酔っちゃいそうです」

 トリンが不満を口にする。


 しかし、現在の走行速度は時速60kmほど。

 そんなに速く走っているわけではない。

 レーダーで生体反応を確認しながら、馬車や人と衝突しないように、すれ違う時は徐行して摺り抜ける。

 それでも3~40km位は出ているので、すれ違った人は、突然の突風に見舞われ、何事が起きたかと思うに違いない。


 車内から見える景色は、左手に海、右手に森、その奥に山、天気は概ね晴れ。

 初めて見る景色なので運転していても飽きることはない。


 バックミラーに映る後席の3人は、同年代であり、女子トークに花を咲かせていた。

 聞き耳を立てると、誰から聞いたのか知らないが、王都の美味しいケーキと紅茶の店の話で盛り上がっていた。

 これは他の2人がトリンに話を合わせていると言った方が正しいようだ。


「ソニア、そろそろ国境検問所が見える頃だけど、どこか人気ひとけのないところで車を降りないと…」


「はい、あと7キロほどで検問所ですので、もう5分ほど走ったら車を降りましょう」


 オレたちはレーダーで周りに人がいないことを確認し、検問所の3km手前で車を降り、徒歩で検問所へ向かった。


 国境沿いには長く高い壁が築かれ、街道から中へと通ずる検問所には、常駐の国境守備兵240名が昼夜交代で警備していた。

 検問所には出入国管理官が待機しており、越境する者を審問していた。

「止まれ、通行証を見せろ」

 出入国管理官がぶっきら棒に言った。


 オレはローレンが事前に用意してくれた身分証を見せた。

「レオンハルト・ミラバス?」

 これはオレの偽名だ。

「デルファイ公国の商人で間違いないか?」


「はい、間違いございません」


「商人と言う割には荷物を持ってないし、護衛もいないが、どう言う訳だ?」


「はい、私はストレージ魔法を使えますので、荷物はそちらに全て収納しております」

 これは、あながち嘘ではないし、実際に商品を取り出して見せることも可能だ。


「この者たちは護衛です」とソニアたちを指差した。

「この者たちは女ですが、実は腕利きの強者つわものでございます」


 実際にソニアと2人のメイドは戦闘訓練を受けていると聞いており、あながち嘘ではない。


「この女達が?

 どう見ても、そのようには見えんが…

 詰め所で詳しく話を聞かせもらおうか」

 そう言うと出入国管理官はオレの手を掴んで引っ張って行こうとした。


「お待ち下さい…

 何卒これで良しなにお取り計らい下さいませ」

 ソニアは小声でそう言うと大銀貨1枚を出入国管理官の手に握らせた。

 大銀貨は日本円で1枚2万円くらいの貨幣価値がある。


 手の中の物を見た瞬間、出入国管理官は、思わず頬が緩んだ。

「お、そうかそうか」

 まあ、身分証は本物のようだし、通行税さえ払えば通してやろう。

 通行税は1人、小銀貨1枚だ」

 ソニアはすぐに小銀貨5枚を出入国管理官に渡した。

 ちなみに小銀貨1枚は日本円で千円くらいの貨幣価値だ。


 確かに出入国管理官の疑問はもっともかも知れない。

 何も持たない男が4人の女を連れて、商人だ、ストレージ魔法だ、女は護衛だと言われても疑問に思うのは当然だ。


 今回はソニアの機転で何とか通過できたが、次回は疑われないように何か策を講じなければ…

 それにしても袖の下と言うのは、万国共通なのだとオレは思った。


「ソニア、ありがとう…

 面倒なことにならずに済んで助かったよ」


「いいえ、使用人として当然のことをしたまでです」

 ソニアはそう言って笑った。


 国境を抜け、暫く街道を歩き、また人気ひとけのないところで車に乗った。

 国境検問所の通過に予想より時間が掛かってしまった。


 明日は早めに王都に着きたいので、今日はなるべく距離を稼ぐことにし、その日は夕方までに行程の6割に当たる360kmを走った。

 途中の徒歩を除くと、平均時速は60kmくらいだろうか。

 明日は残り240kmを走れば良いので、昼過ぎには王都に到着するだろう。


 近場に街は無いので今夜は野営することにした。

 幸い、野営に必要なキャンプギア一式は異空間収納に入れてある。


 街道脇にちょうど良い空き地を見つけ、車を停めテントを張る。

 異世界宅配便で届いたオレの私物テントだ。

 ツールーム型で最大6人まで寝られるタープいらずの大型テントである。


 この空き地には、他にも野営するグループが2組いて、簡易野営場のように使われているらしい。

 今夜の気温は車の室外温度計で22℃、空は見事な満月、遠くで微かに波の音がする。


 月明かりを頼りに火を熾し、お湯を沸かして持ってきた食材で簡単な野菜スープを作る。

 あとはパンとサラダ、それとグリルでバーベキューだ。

 バーベキュー用の食材は、クーラーボックスに入れそのまま異空間収納に仕舞っているので、新鮮そのものだ。

 肉の焼ける美味しそうな匂いが辺りに漂う。

 昼も十分休憩できなかったし、昼食もパンとチーズとコーヒーくらいだったので、お腹が空いていた。


「いただきま~す」

 トリンが焼き肉に手を伸ばし、頬張る。

 実に美味しそうに食べるものだ。

「美味しいですね~」

 メイドたちも美味そうに肉を頬張っている。


 そこに隣のテントから野太い声が聞こえてきた。

「美味そうな匂いだな~、兄ちゃん、オレたちにも食わせろよ」

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