第11話 アウリープ号で海までドライブ

 昼からは1時間ほど、ドロイドたちの農作業を手伝った。

 これも地道なポイント稼ぎのためだ。


 ほどなく昼食の時間となった。

 今日は1階のダイニングに昼食を用意したそうだ。

 行ってみると、すぐにメイドたちが昼食を運んでくれた。


 昼食はトマトソースの上に、海老や魚介がたっぷり乗った熱々茹で立てのペスカトーレとバーニャカウダ風の野菜サラダだ。

 ペスカトーレは唐辛子が効いて少し辛いが、納得の美味さだ。

 じっくりと味わいながら、最後はコーヒーで流し込む。

 つい食べすぎてしまったが、今日はその分、汗を流す予定を組んでいるのだ。


 その後、ジムに行ってエアロバイクで1時間ほど汗を流す。

 1人で使うには、もったいないくらいに充実した設備がここには揃っている。

 シャワーで汗を流し、残った時間をどう過ごそうかと考えた。


 自分の車でドライブに出掛けたいが、異世界だし、まだ1度も敷地の外に出たことはない。

 リゾートの端にある壁の向こう側がどうなっているか興味はあるが、何か問題が起きる可能性もある。

 こういう時はローレンに相談して見るのが一番だ。


「車に乗って少し敷地の外へドライブに行きたいんだが、問題ないだろうか?」


「特に問題はないかと存じます」

 ローレンからアッサリとOKが出た。


「ただし、街道で人に遭遇する可能性も御座いますれば、ステルスモードはオンのまま走行されることをオススメします」


「分かった、じゃあ、これからドライブに出かけてくるよ」


「ハイ、ハイ、ハ~イ」

 うしろで誰か手を上げている。


「ご主人さま、私たちもそれに乗ってみたいです」

 見ると専属メイドの3人が目を輝かせて、手を挙げていた。

 なんと、その後ろにはソニアまで。

 普段は冷静沈着なソニアだが、たまにこんな感じで、お茶目な一面を見せる。


「分かった分かった、乗せるから騒ぐな!」


「わ~い、やった~♪」

 メイドたちは、歓喜の声を上げた。


「それでは、私はここでお留守番させていただきます」

 多分、ローレンも乗ってみたかったのだろう。


 助手席にソニア、後部座席には専属メイドの3人を乗せて、オレがアクセルを踏むと車はゆっくり走り始めた。


 今日は、このまま海まで行ってみるつもりだ。

 リゾートのゲートに向かい、警備ドロイドに扉を開けてもらう。


「この車、名前はあるんですか?」

 後部座席からルナが聞いてきた。


「え、名前なんて無いよ」


「え~、なんか名前つけてあげればいいじゃないですか」とルナが変なことを言う。


 今まで考えたこともなかったが、愛車なのだから、名前くらいあってもいいのかも知れない。


 オレは暫く考えて

「そうだな~、アウリープ号にしようかな」

 アリウープと言うバスケットボール用語があるが、それの2文字目と3文字目を入れ替えてみただけだ。


「それって、どんな意味があるんですか?」とレナが聞いた。


「頭に浮かんだ言葉を、ただ言ってみただけだよ」


「そうなんですか?

 でもアウリープ号!いい名前ですね!」

 メイドたちは、この車の名前に賛成してくれた。


 前世でアラサーだったオレが、若い女(オレに言わせればソニアも十分に若い)、しかも美少女を4人も乗せてドライブすることなど考えられないことだ。


 ゲートを抜けて森に入ると、細い道が2kmほど続いた。

 森を抜けると、整備された街道に出た。

 ここは旅人が往来する道で比較的平らだが、舗装されているわけではない。


 道にアウリープ号を停めてレーダーで周囲を探索すると、街道沿いに何人かの旅人が歩いているのが分かった。


 アウリープ号はステルスモードのまま、ゆっくりと街道を走った。

 その間、何人かの旅人とすれ違ったが、彼らは突然物凄い突風が吹いたと驚いているに違いない。

 この街道を、そのまま進行方向に進むとソランスター王国の王都フローリアに至るらしい。


 街道の途中で海へ出られそうな細い道を見つけて左折する。

 そのままゆっくり5分ほど走ると海岸へ出た。

 砂浜に波が打ち寄せ、潮の香りがした。


「海だ~、大っきい~」

 メイドたちは、靴を脱ぎ捨て波打ち際へ駆けていった。

 ソニアもやれやれと言いながらも、その後ろを付いていく。


 メイドたちは寄せては返す波と楽しそうに戯れている。

 前世で言えば高校生くらいの年齢なのだから、海に来てはしゃぎたくなるのも理解できる。

 そんな美少女たちに視線をやりながら、目の保養にしていることは内緒にしておこう。


 海に来るのは実に久しぶりだ。

 前世でも、かなり昔の記憶しかない。

 波は思ったより荒いが、空は快晴で日差しが眩しかった。


 リゾートからは20キロくらいの距離だろうか。

 意外と近くに海があるんだなぁと水平線をゆっくり見廻す。


 すると右手100mくらいの砂浜で海鳥が流木のような物を突付いていた。

 なんだろう、黒っぽいけど流木か?

 好奇心が頭をもたげ、その方向へ歩いて行った。


 近くまで来ると、それが人の形をしていることに気付いた。

 打上げられた死体か?

 おもむろに近づいて行くと、流木が動き、海鳥を追い払った。

 人間だ、まだ生きているのか?


「おい、大丈夫か?」

 オレが近づいて言うと、しわがれた声で、それが何か言っているのが聞こえた。


「み、みずがほしい…」

 弱くかすかな声だが、確かにそう言っている。


 水か、車の燃料タンクには水はある。

 さすがにそれを飲ます訳にはいかないが、他に水はあっただろうか?


 車のバックドアを開けてトランクルームを見た。

 前世で買った未開封のミネラルウォーターが数本出てきた。

 賞味期限?、記憶ではそんなに経ってないし、まぁ大丈夫だろう。


 オレが戻るとメイドたちが、男の顔を心配そうに覗き込んでいた。

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