第10話 DOHC5リッター水素エンジン

 次の日は、早朝から釣りに出た。

 朝もやの中、湖にカヌーを出すのは、とても気持ちがいい。


 まだ朝日が登り切る前だったが、魚が活性化する時間帯だ。

「イレグイじゃん」

 竿を出せば、面白いように魚が釣れる。


 せいぜい1時間も釣れば、クーラーボックスは満杯となった。

 今朝は特別釣りがしたかった訳じゃなく、こうでもしないとポイントを稼げないから来てみただけだ。

 でも新鮮な朝の空気を深呼吸して朝日を浴びるのは、実に爽快だ。

「眠かったけど、来て良かったな…」

 カヌーの舳先を岸辺へ向けてパドルを漕ぐ。


 湖岸ではソニアとレナ、ルナ、リナが待機している。

「ご主人さま~」

 休み明けの3人のメイドが、元気いっぱいに手を振っている。


「今日は釣れましたか~」

 ルナが釣果を聞いてくる。


「釣れすぎだよ、ここの魚たち警戒心が無さすぎる」


 湖岸に着くと、みんなが手伝ってくれてカヌーを砂浜に引き上げた。

 新鮮な虹鱒はメイドたちの手で厨房に運ばれ食材となる。


 その場でステータスを確認してみると、今日の分のLPが100ポイント減り、釣りの分が20ポイント加算されていた。

 そのままダイニングへ行って朝食をとる。

 今朝は和食、ご飯に味噌汁、焼き魚、お新香に納豆まである。


「やっぱり和食だよな~。

この世界で和食が食べられるなんて、オレは幸せだ」

 こんなハイレベルな生活ができて1日LP100ポイントで済むのは、逆にお得かも知れない。


「ご主人さま、ご飯のお代わりはいかがですか?」とリナが聞いてくれた。


「リナ、ありがとう。

 それじゃ、もう一杯いただこうかな」

 ご飯が美味しすぎて、このままでは太ってしまう。

 何か運動しなきゃ。


 幸いなことに、このリゾートにはジムが完備されているので、後でランニングマシンかエアロバイクを1時間くらい漕いでおこう。


 食後は散歩を兼ねて温泉の掘削現場へ向かった。

 進捗はどうだろう。

 オレの姿を見てローレンが走ってきた。


「カイト様、温泉の進捗でございますね…

 昨日から40mほど掘り進み、今は地下90mまで到達していますが、まだ温泉は出ておりません」


「そっか~、深くなると掘り進むのが遅くなって来るんだね」


「左様でございます、無理すると機材が壊れますので、ゆっくりと掘り進めます」


「了解、ところでオレの車はどうなった?」


「はい、カイト様の車は専用ガレージを作りまして、その中に移動しました」


「そうか、ローレンありがとう」


「もし、お時間がございましたら、ガレージへご案内いたしますが、如何なさいますか?」


「ああ、そうだね、すぐに見たいから案内してもらおうかな」


 女神が神テクノロジーで改造したと言う水素エンジンを見たかったし、お詫びに付けておいたよ~と言うオマケ機能も確認したかったのだ。

 オレのあとに続いてソニアと専属メイド3人も付いてきた。


 ガレージは、農場へ続く道の途中に建てられていた。

 エントランスからも歩いてすぐの距離だ。


 ガレージは高さ3m、幅10m、奥行き7mほどの大きさで、もう1台くらい入りそうな大きさだ。

 ローレンがスイッチを押すと、半透明の電動シャッターが上にスライドして屋根部分に格納された。

 中には、オレの愛車とバイクが入っていた。


「ご主人さまの車、素敵ですね~!」

 メイドたちが歓声を上げた。


 早速、ドアロックを解除し、ボンネットを開け、エンジンルームを見る。

 女神は、V型8気筒DOHC5リッター水素エンジンと言っていた。

 5リッターと言えば、かなりのハイパワーエンジンだが、見た目はそんなふうには見えない。


 運転席に乗り込みエンジンを掛けて見た。

 セルモーターの音がして小気味良いエンジン音がガレージ全体に響いた。

 しかし、5リッターのハイパワーエンジンとしては、かなり静粛性に優れているように思う。

 燃料が水と言う究極のエコカーは、環境にも優しいようだ。


 さて、女神のオマケ機能というのはどこだろう。

 それはすぐに見つかった。

「オマケ」と書いたシールが貼ってあった。


「分かりやす!」


 シールには小さな文字で何か書いてある。


「なになに?、ステルスモード…?」


 早速、ボタンを押してみた。

 だが、特に何も変化は感じられない。


「何も変化ないじゃん…」

 そう独り言を呟き、外を見るとローレンが大声で何か叫んでいる。


 何を言っているのか聞こえないので窓を開けると。

「ご主人さま、車が見えません、向こう側が透けて見えます」と言っていたのだ。


 え、そんな馬鹿なと思い、車を降りてみると、開いた窓の部分から車内が見えるが、それ以外は透明で、向こう側が透けて見えるのだ。


「は~、ステルスってこういうことか…

 中からは普通に外が見えるけど、外からは車が透明で見えなくなるんだ。

 それにエンジン音とか、中の音は外に聞こえないけど、外の音は中に普通に聞こえる。

 ふむふむ、なるほどこれは使えるかも…」


 こちらの世界では目立つこと『間違いなし』のこの車であるが、この機能を使えば走行中、誰にも気づかれずに走れる。


「は~、なるほどね~」と独りごちていると。

 オマケスイッチの横にオマケ2スイッチを発見した。

 小さなシールで『オマケ2・レーダー』と書いてある。


 ボタンを押して見ると、フロントウィンドウ全面にレーダーが表示された。

 最大で半径4km四方の生体反応と構造物が感知できるシステムらしい。


 レーダーに映るリゾート内で動いている点はメイドたちであろうか。

 因みに、すぐ傍に見える汎用ドロイドはレーダーには映っていないので、機械は感知できないらしい…

 これがあれば、車外に出なくても、外の様子が分かるし使えそうだ。


 ステルス機能は、エンジンが掛かっていなくても有効で、車外にいて車が見えず探せない時は、スマートキーでステルス機能のオン/オフをリモート操作できるので問題ないことが分かった。


 後で分かったことだが、同じ機能はバイクにも付いていた。

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