第7話 美味しくな~れ、美味しくな~れ

 着替えてダイニングに行くとソニアが待機しており、その横には3名のメイドがいた。

「本日、お世話させていただくメイドたちです」


「お初にお目にかかります、ご主人さま。

 本日担当させていただきますルイと申します、どうぞ宜しくお願いします」

 そう言って頭を下げると肩までのピンクブロンドのポニーテールが揺れた。

 ルイは礼儀正しく、笑顔が素敵な爽やか系の美少女だ。


「おはようございます、ご主人さま。

 今日一日、お世話させていただきますレイと申します、宜しくお願いします」

 レイは黒髪で長めのポニーテールがよく似合う知性的で落ち着いた感じの美少女だ。


「ご主人さま、お会いしたかったです。

 私はリイです、今日一日お世話しちゃうぞ!」

 リイは少し短めの金色のポニーテールが可愛い、明るく天真爛漫で、少し弾けた感じの美少女だ。


「その言葉遣いは何ですか」

 ソニアの説教が始まったが、リイはペロッと舌を出しただけで全く気にしてない様子だ。


「今日一日、宜しくね」

 オレは席に着いた。


 そう言えば、今日からメイドたち全員ポニーテールにしたんだっけ。

 左胸に名札を付けたから間違わないが、よく似た名前を付けたものだ。

 リナとリイ、ルナとルイ、レナとレイか。

 なんか、適当に付けたような感じだ。


 ダイニングの窓からは青い空と白い雲、エメラルドグリーンの湖が一望できる。

 今日もいい天気だ。

 ルイがカートに乗せた朝兼用の昼食を運んできた。

 今日のメニューはオムライスとサラダにコーヒーだ。


 見るからに美味そうなオムライスだ。

 ルイが真ん中を縦にナイフを入れると中から半熟ふわふわとろとろの玉子と溶けたチーズが一緒に溢れ出した。

 これ、絶対美味しいやつだ。


 さあ食べようとスプーンを手に取ると。

「ちょっと待った~。

 今日はご主人さまに特別なサービスがあるよ」

 リイがニコニコしながらオレの傍にきた。


「オムライスがもっと美味しくなるように、特別にケチャップでお絵書きサービスしちゃいま~す」

 リイは頼みもしないのに、ケチャップのボトルを逆さにして、オムライスの上にLOVEの文字と大きなハートマークの真ん中に矢を描いた。

「はい、出来上がり~」とリイが笑顔で言った。


「それでは今から私たち3人で、オムライスがもっと美味しくなるように、特別な魔法を掛けちゃいま~す」

 そう言うとオレの前に3人並んで、両手でハートマークを作り、体を揺らし声を揃えて魔法の呪文を唱えた。


「LOVE、LOVE、ご主人さまのオムライス~、もっと美味しくな~れ、美味しくな~れ、萌え萌えキュ~ん」

 その後ろでソニアもハートマークを作り一緒に体を揺らしていた。


 オレは前世でメイド喫茶に行ったことなど無いが、きっとホンモノもこんな感じなのだろう。

『美味しくなる魔法』の情報など一体どこで仕入れたのだろう。


 オムライスを食べてみると確かに美味しい。

「ホントだ、とても美味うまいよ!」

 オレがそう言うと3人が歓声を上げた。


 最初から十分に美味そうだったが、メイドたちが、オレのために考えてくれたのだから、美味しくなったのは、魔法の効果と言うことにしておこう。


 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 食後の運動を兼ね、温泉の掘削状況を見に行った。


 現場でローレンが待っていた。


「ご苦労さま、温泉の状況はどう?」


「昨日から50mほど掘りましたが、まだ温泉は出ません」


「そうか、やはり暫くかかりそうだね」


 その後、庭園の湖側にあるインフィニティプールまで来てみた。


 インフィニティプールは、湖と一体化して見えるように設計されたプールであるが、右端には小さなプールサイドバーがあり、そこで軽食やお酒が楽しめるようになっていた。


 午後からプールサイドでマッタリするのも良いな。

 オレは水着に着替えてプールサイドで寛ぐことにした。


 プールサイドの真ん中でリクライニングチェアを倒し、大きなパラソルの下で本を読んだ。

 異世界宅配便で届いた私物の中の1冊だ。

 読み掛けだったが、この世界で続きを読めるのがとても嬉しい。

 今日は実にリゾート的な時間の使い方だなぁと思った。


 黙って本を読んでいると太陽がジリジリと照りつける。

 いよいよ暑くなってきたら、プールに飛び込んでクールダウンだ。


 泳ぎは得意な方だ。

 オレがプールの端から端まで何往復かして水中で休んでいると、プールサイドにメイドが近寄ってきた。


「ご主人さま、何かお飲みになられますか?」


 そう聞いてきたメイドのネームプレートを見ると「リア」と書いてあった。

 長い黒髪ポニーテールで、優しい微笑みを湛える癒やし系の美少女だ。


「それじゃあ、ビールでもいただこうかな」


「はい、それでは申し訳ありませんが、プールサイドバーまでお越しください」


 リアの言葉に従い、プールサイドバーへとゆっくりと泳いでいった。

 バーにはリアが待機しており、オレはプールの中からニョキっと生えたスツールに腰掛けた。


「お待たせしました、生ビールでございます」


「ありがとう、リア」

 泡3、液体7の黄金比率で注がれた生ビールを、オレは一気に喉に流し込んだ。


「くあ~~、堪らん!」

 オレが奇声を発すると、そのリアクションが面白かったのか、傍で見ていたリアが笑い転げた。


「え、そんなに可笑しかった?」

 因みに今は夏で気温は約30℃、しかも適度な運動の後だから、ビールが美味い条件が揃っているのだ。


「ご主人様が、そんなに美味しそうにビールをお飲みになられるなんて」とリアはまだ笑っている


 どうやら、ツボにハマったようだ。

 箸が転んでも可笑しい年頃と言う言葉があるが、今のリアは、まさにその状態らしい。

 なんだか、こっちまで可笑しくなってきた。


「リア、ちょっと笑いすぎじゃない?」


「も、申し訳ありません、ご主人様…」

 リアは涙目になりながら、まだ少し笑っている。


 美少女が笑っているのを眺めるのは、けっして悪い気はしない。

 そしてリアが笑う度にポニーテールが左右に揺れるのを見ると、オレはそれに『萌える』のだ。


「生ビール美味いな~、もう一杯貰おうか」


 オレがそう言うと、リアは急に真面目な顔付きになった。

「かしこまりました、ご主人様」

 リアは、見事な手つきでビアサーバーからビールを注いで見せた。


「ビールとオツマミのソーセージです」

 いつの間に茹でたのか、熱々のソーセージを3本サービスしてくれた。


 因みにビールが入っている樽は5リッターの小さなもので、冷蔵庫でそのまま冷やせるサイズだ。

 この世界に冷蔵庫は無かったはずであるが、ここには当たり前のようにあるのだ。

 ついでに言えば、電気も使えるし、電化製品もある。


 ソニアによると電気は水力、風力、地熱の3つの方法で発電されており、環境に優しいエコなエネルギーなのだ。


 このプールから見る湖の風景、振り返って眺める山の景色、ガーデンテラスからの眺め、どれも素晴らしく、まさにリゾートといった感じだ。


 2杯目のビールを流し込み「く~、美味い!」と言うと、それを見てまたリアが笑い転げる。

 どうやらリアは笑い上戸らしい。


「リアみたいな美少女を見ながらビールが飲めるなんて、オレはホントに幸せだよ」


「ご主人様、褒めても何も出ませんよ…」

 リアはそう言いながら笑った。


「いやホントに、この生ビールは美味かったし、リアも可愛くて美人だし最高だよ。

 またプールに来たら美味しい生ビール注いで欲しいな…」


 そう言うとリアは頬を赤らめ、はにかみながら言った。

「はい、かしこまりました、ご主人様」

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