EP1 Fの笑顔/死の終止符
第5話 動画
トントントントントン
明日香を発見した翌日、俺はいつも通り包丁の音で目を覚ました。
俺の住んでいるマンションは比較的簡単な間取りなので、台所の音がうっすら聞こえるのだ。
能力行使の反動でかなり怠いが、そんな体に鞭打ってリビングに向かう。
「おはよう、明日香。」
「ああ、おはようリク。」
台所にいたのは明日香だ。いつも朝ご飯を作りに来てくれる。来ないのは明日香の体調が悪くなった時くらいだが、そんなことは今までに一度しかない。
今日くらい休んでも良かったのに。
「明日香、昨日あんなことあったんだから今日は休んでも…。」
「いいんだ。学校を休むわけにもいかないし。表向きには何もなかったことになってるんだろ?」
「まあ、そうだけど。」
昨日の件は公にはなっていない。しかも、明日香の両親は娘がレイプされていたことを知らない。
別に隠そうとしたわけじゃない。アルクが事後処理に向かったのと、俺があの場の全員を殺したこと、それがバレるのがまずいので、昨日のことを知っているのは、ここにいる二人だけだ。
ちなみに、加峰マンションのあの一室は、コンクリートで埋めておいた。いや、敷き詰めたと言った方が良いだろう。今は、扉も開かないような状況になっている。
しかし、明日香は心に傷を負った。なら、一か月休んでも誰も文句は言わないというのに。
「それに私はリクと一緒にいたいんだ。一日でも休んで一人になったら、いつ襲われるか怖くて…。」
「そうか…。そういう事なら何も言わないよ。」
「それはそうと早く着替えてこい。もうすぐ朝ご飯出来るぞ。」
「分かった。すぐ着替えてくるよ。」
そう言うと、俺はすぐに着替えて明日香の対面に座る。
「「いただきます。」」
今日の朝のメニューは、みそ汁に白ご飯にもやし炒めにハムと目玉焼きだ。
栄養バランスの取れたありがたい朝ご飯だ。しかも、これを毎日作ってくれる。幸せだな。
毎日メニューを考えてきて作ってを繰り返してきつくないか?と聞いたことはある。ただ、本人は好きでやってる。だから、辛いと思ったことは無い。と言っていた。
「ありがとうな。」
「ん?朝ご飯か?それなら気にするな。将来、私の家族になって家系を支えてくれるんだろう?未来への投資だ。」
言葉が悪いぞ。てか、プロポーズですか?
「それでもだよ。明日香がいなかったら、今の俺はないよ。」
「なら、お前は幸せ者だ。こんな健気で一途な幼馴染がいるんだからな。」
「自分で言うか?まあ、実際そうなんだけどさ。」
「ほら、早く食べろ。学校に遅れるぞ。」
「あ、待って!」
俺たちの朝はいつもこんな感じだ。俺はこれを失いたくない。だから―――
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「こうやって手を繋いで歩くのはいつぶりだ?」
「うーん……明日香と一緒にいても手を繋いだのは結構昔な気がするな。小学校以来か?」
なんて他愛もない会話をしながら、学校に向かっている。俺達は現在同じ学校に在籍している。明日香が俺についてきた形だ。
なので、元々成績のいい明日香はいつもテストで学年トップクラスを飾っている。
俺は、化学と物理以外はからっきし。数学も微分積分が得意なだけだ。数列なんてからっきし。うちの学校数Ⅲまでやるから進みが早いんだよね。
そんなこんなの内に校門が見えてきた。
しかし、いつもと違い校門前には風紀委員がいた。服装検査か?
しかし、そうではないらしく俺たちを見つけるといきなり取り囲んできた。
「甲坂明日香だな?」
「そうだが。風紀委員が何の用だ?」
「話がある。ちょっと、時間をくれないだろうか?」
「分かった。リク、そういうわけらしいから先に教室に行っててくれ。」
「おう。じゃあ、後でな。」
そう言うと、明日香と風紀委員たちは委員棟の方に向かっていった。
ちなみにうちの学校は、教室などがある本棟。部室などがある部活棟。生徒会室などがある委員棟の3つがある。最後のはいるのか?
明日香も連れてかれたので、俺はさっさと教室に向かう。
教室に入ると、クラスの全員が俺を見た後、憐みの視線を送ってきた。
なんだ?
皆の視線を疑問に思っていると、俺に話しかけてくる男がいた。
「残念だったな、逢坂。」
「なにが?」
「なにがって、お前見てないのか、あの動画?」
「動画?」
動画って何のことだ?明日香となんの関係が?
「そうか、なら教えてやるよ。まさか、甲坂さんが―――「逢坂君、ちょっといい?」
新城の話を遮ってある女子が話しかけてくる。
「別にいいけど、なんの用?」
「ちょっとここじゃ話せない。ついてきて。」
「分かった。新城、悪いな。話はあとで聞くわ。」
「あ、ああ、分かった。でも、心の準備はしておけよ。」
なんでだよ。
俺と橋本さんが教室を出て、向かったのは屋上の入り口だ。
「そろそろ、聞いて良いよね、橋本さん?」
「取り敢えず、落ち着いてこれを見て。」
そう言って、橋本さんが見せてきたのは昨日起こったこと。つまり、明日香がレイプされている動画だった。
しかも、趣味が悪いことに気持ちよさそうに嬌声を上げている姿のみを切り取った動画だった。
理解した。なぜクラスの奴らが俺をあんな目で見たのか。
「クラスの全員がこの動画を?」
「うん。それどころか学校全体に…。ねえ、これ本当?でも、加工の痕跡はなかったから事実だと思うけど。」
「事実だ。」
「え!?なんで!あなた達あんなにラブラブだったじゃない。なのになんでこんなビッチみたいなことをする彼女と一緒に…。」
やはり、橋本さんも勘違いしているのか。
「橋本さんが調べれば、事の顛末を調べ上げそうだから本当のこと言うね。明日香はね、レイプされてたんだよ。」
「え!?」
「言葉の通りだよ。俺は昨日その現場を見た。俺の姿を見た明日香は泣き叫びながらこんな姿を見ないでくれって言ってた。」
橋本さんが、驚きの表情を崩さない。
「じゃ、じゃあ、そのレイプ魔たちは?」
「このことを君は秘密にしてくれる。それを信じるよ。」
「うん。誰にも言わない。」
彼女なら、誰にも言わないだろう。信じても―――
まてよ?彼女、友達いねえから話す相手いねえじゃん。
「俺が殺した。一人残らず。事後処理はある人物がやってくいれているから表沙汰になることは無い。」
「そう……なんだ。」
おや?おどろかないのか?
「意外と冷静だね。」
「いや、甲坂さんのためなら逢坂君やるでしょ。って思ってるから。」
俺をなんだと思ってるんだ?彼女は。まあ、実際やるとは思うけども。
それよりも―――
「信じてくれるのか?」
「うん。あんな一部始終より、逢坂君と甲坂さんのことを信じる。あの時、私を助けてくれた二人を。」
「ありがとう。」
俺と明日香、橋本さんは中学のころからの知り合いだ。その時色々あったのだが、これはまた別の話。
「なあ、橋本さん。動画が誰から送られてきたか分かるか?」
「私もね、送られてきてすぐに調べたんだけど、送り主がね海外の複数のサーバを介して送ってきてたから特定は困難ね。でも、1か月あれば特定できると思う。」
「頼めるか?」
「もちろんよ。」
ん、まてよ?
「その動画。学校全体にばらまかれてるのか?」
「そうみたい。だから、今日は逢坂君と甲坂さんの話で皆持ちきりだよ。」
なら、さっきの風紀委員は?まずい、明日香が。
「橋本さん、ありがとね。」
「あ、ちょ、どこいくの!?」
俺は橋本さんの声を無視して委員棟に走っていった。
風紀委員の委員室の前に着くなり、俺は強めにノックする。すると中から声が返ってきた。
「今は、取込み中だ。入室は許可できない。」
知ったことか。そっちがそう来るなら、こっちもそれなりに行くぞ。
ぶち破る。
「オラア!」
バゴンと音をたてて委員室の扉が吹っ飛び中が露になる。
中には、何人もの生徒が、脂汗をかいて顔が真っ青になっている明日香を取り囲んでいる姿だった。
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