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師走の寒空。腰掛けた賽銭箱。火の無い煙管(きせる)。──鵺(ぬえ)は、片膝に頬杖をつきボンヤリと遠くを眺める。
「ぬ~えさん?」
顔を覗き込むようにして隣へとやってきた小夜に、鵺は沈黙で返した。
「どうしたんですか? そんな顔して」
「…何がだ?」
「……。何だか、元気ないような…」
「……………」
鵺はそれに鼻で笑う。
「──ねぇ、鵺さん。…母さんの話、また何か聞かせて?」
「……、てめぇの親父にでも聞きゃあいいじゃねぇか」
小夜は賽銭箱へと背を預け、小さく縮こまり。うーん、と首を僅かに傾けた。
「鵺さんだけが知ってる、母さんの話が聞きたいの。駄目…?」
上目遣う小夜へ渋い顔をし、煙管片手に鵺は胡座(あぐら)を掻き直した。
「───いけ好かねぇ女…。妖である俺に、この里とお前を託した。…俺はあの日から、不自由極まりないよ」
「…?、それって…??」
『──鵺。小夜を、里を頼むよ…』
あの言葉のせいで、俺は───…。
『はあ? 俺に一体、何を期待してやがる』
『ははは。言ってみたまでだ』
『………』
『不甲斐ない、一人の女の戯言(たわごと)だ。聞き流すがよい』
『お前…。いや、いい……』
向けられた背中。お前は昔から俺を見ない。お前に取っての俺は───一体、何なんだよ。なあ…??
『──条件が一つ、』
『ん? …何だ。律儀な奴だな』
『律儀かどうかは、最後の最後まで話を聞いてからにした方がいいぞ。俺が“何なのか”、忘れた訳じゃあるまい──…』
『…………………』
風が相手の髪を攫う。飽く迄も、相手は笑みを絶やしはしなかった。
「条件って? 母さんと鵺さんは一体、何の取り引きをしたの?」
煙管を銜(くわ)えた鵺へ、小夜は相手の言葉を暫し待ったが、鵺はゆっくりと紫煙を吐き出すだけだった。
最後に見た、薄く笑んだあの女の顔…。
『では。頼んだぞ、鵺───』
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