マギアメイデン・ラジエルロザリア

 エコールと紬はこだまの攻撃により撃墜された敵船へ向かうことにした。連絡によると日本海側に落ちていったそうだ。

「私は……」

 一方で変身能力を失った矢子は変身用のアクセサリーを託そうとする。だがアクセサリーである薬指の指輪も喪失している。エコールはそんな彼女にある仕事を託す。

「矢子、店を頼む。たぶん避難所に子供達いるだろうし、プラモ配ってくれ。こういう時、娯楽が必要なんだよね」

「あ、ああ……」

 今後のことを話しているとエコールの下にバイクがやってくる。だれも乗っておらず、バイクが一人でにやってきたのだ。

『お久しぶり、マギアメイデン・エコール』

「サリィ!」

 ゲームマスターのバイク、サリィが久しぶりに合流した。彼女はバイクなのでクイーンの能力で死んだりしない。

『妹も連れてきちゃった』

 彼女はサイドカーを装備していた。二人で乗る想定はゲームマスターが弟と行動しているからだろう。

『はーい、ハローヒューマン。あーしはスズ。今度ともよろしく』

 サイドカーもしゃべっており、似た存在なのは即座に理解できた。

「随分性格が違うな……」

 丁寧なサリィとは逆にけだるげでフランクなのでエコールは困惑する。

『私があの船の落ちたエリアに案内するわ。乗って、エコール、ロザリア』

「サンクス、頼むぞ」

 エコールと紬はバイクとサイドカーに乗り、走り出す。目標は遠いが行くしかない。あのクイーンが今度は何をやらかすかわからない。こだまの死を無駄にしないためには、今攻め込む必要があった。

「戻ってきて、みんな……」

 矢子は失った痛みを知る者。エコールと紬が無事に帰ってくることが何よりの願いであった。


   @


 騒動の影響で道は空いており、バイクでスムーズに日本海側へ向かうことができた。実際の運転と異なり、乗っているだけなので体力の消耗も普通よりはマシ。さすがに変身を解除していると振動が身体に来るが。

『もうすぐよ』

 山道を下りて海沿いに出ると、日本海にクイーンの船が着陸しているのが見えた。町はまだなんともなく、幸いにも被害は出ていないらしい。こだまの与えたダメージがあのマイントピア民を操る鎧の使用も封じているのだろうか。

「あいつら、鎧以外にも何持ってるかわかんねぇぞ」

『警戒して』

 ただ向こうの戦力は多数いる。それは警戒せねばならない。海の方に近づいていくと何か棒のようなものが多数立っているのが見えた。

「あれは……」

 それをよく見るとなんと、人が括り付けられていた。おそらくマイントピアの人達だ。鎧が使えなくなったクイーンは彼らを何に使うつもりなのだろうか。ただこのままでは危険なことだけはわかった。

「大変……助けないと!」

「紬!」

 紬はサイドカーを降りて救助に向かう。今はクイーンへの対処が最優先だが彼らを見捨てておけないのも事実。

「エコールはクイーンを!」

「ああ、気をつけろよ!」

 先にエコールがクイーンの船へ向かう。紬はいそいそと棒に括り付けられた人達を助けていく。さすがに棒をへし折っての対処は危険なので一人ひとり拘束しているロープをほどいていく。

「変身!」

 マギアメイデンの力はこういう時に役立つ。身体能力が上がるだけで便利なものだ。

「あ、ありがとうございます……」

「地上人が狂暴だってのは嘘だったんだ……」

 地上を取り戻そうとしているのはマイントピアの中でも極まった集団。民間人は地上人に敵意を持っていなかった。

「数が多い……何が目的で……」

 紬は人々を助けながら考える。あのクイーンのことだ、無意味に嗜虐趣味を満たすだけならもっとおぞましい光景になっていてもおかしくない。

「これは……」

 よく人々を見るとはちみつや肉のすり身が塗られている。紬には意図がわからないが、これは虫や鳥を呼び寄せるためのもの。虫や鳥に受刑者を襲わせる刑というのが存在するのは地上もマイントピアも同じだ。

「あ、危ない地上人!」

「きゃっ!」

 何かを察知したマイントピア民が紬を突き飛ばす。そのマイントピア民は何か細い茨のようなものに貫かれていた。

「に、逃げろみんな……」

「そんな……」

 集団が人々の下にやってくる。茨を放ったのはその中で唯一の女性だ。

「大人しくクイーンの裁きを受けていればいいものを……」

 女性はそう吐き捨てた。見た目は美しいが敵対しているはずの地上人がマイントピアの民を助け、またその逆もしている状況に心が向かない程度にはさもしい。

「はっはっは! 地上人は腰抜けだなぁ! こんなメスガキ一匹しか戦士がいないなんて!」

「あなたが四天王最弱のあの子供に勝てる確率は明白に0。まぁ、クイーンが始末した以上誰にも勝てませんが」

 集団の中にはマッチョな男と眼鏡の男もいた。クイーンが始末したという最弱は以前、ゲームマスターとクイーンの父を殺した際に放った人物だ。

「おっと、ではワテクシ達で誰が最弱か決めましょうか」

 もう四天王とやらも補充されており、今時そんなもの出したら多方面から怒られるであろうコテコテのオカマが出てきた。ただ紬の意識は彼らが同じマイントピア民を殺したことに向いている。

「みんな逃げて!」

「こ、子供を置いて逃げるなんて……」

「私は少し戦えるけど、みんなはすぐ殺されちゃう!」

 少しためらいつつ、マイントピア民は急いで逃げ出す。子供を見捨てて自分だけ逃げられないのも、地上人ととことん同じだ。

「はっはっは、こんな弱っちいの倒しても楽しくともなんともねぇな!」

「この!」

 マッチョへ向かって紬は攻撃を仕掛ける。今は徒手空拳しかない。だがそれで充分なはずだ。

「遅い!」

「ぐはっ……!」

 だがマッチョは鈍重そうな見た目に反して目にもとまらぬスピードでパンチを紬へ打ち込んだ。

「地上の漫画ではマッチョは噛ませの確率、約90%。舐められてますね」

「筋肉があるということは、速いんだよ!」

 紬は近くの民家に突撃し、そこを崩壊させ力なく倒れる。家屋の下敷きになり変身も解除されてしまった。

「諦め……ない……」

 だがここで倒れるわけにはいかない。ここで負ければマイントピア民はことごとく殺されるだろう。そして、他の人達も。こだまが託してくれたチャンスは無駄にできない。

「はっ!」

 紬は再びロザリアに変身し、稲妻となって一気に眼鏡の男へ接近する。角も以前より肥大化しいうなれば、マギアメイデン・ロザリア、グレード2というところか。窮地と危機が紬の心を奮い立たせている。

「これは……データにない速度!」

 眼鏡の男はデータに基づいて行動している様だ。ということは急速なパワーアップには対応できない、はずだった。

「がっ!」

 ロザリアは眼鏡の男に胸倉を掴まれ、捕縛される。

「あくまでお前のデータにないだけだ。近いスピードの奴のデータを応用すれば対応できる」

「ああっ!」

 データがないなりに対応してくる。紬は投げ飛ばされ近くの塀を砕き、倒れる。

「まちなさーい! イケメンから殺してあげるわー!」

 オカマが逃げている人々を追う。マッチョからの攻撃よりダメージは浅いので紬はどうにか立ち上がって助けに向かおうとする。

「ぐっ!」

「あらあら、私と遊んでいってよ」

 しかし女性が茨の鞭で紬の右腕を拘束する。棘が食い込んで簡単には外せない状態だ。

「く、急がないと……」

 紬は痛みに耐えて鞭を引っ張り、引きちぎろうと苦心する。だが棘の刺さった場所からは激痛が走る。身体が痺れ、意識が遠のく。

「ぐあああっ!」

「どうかしら? 猛毒の味は? この分なら少し増やしても死なないんじゃない?」

 鞭から毒々しい紫の汁がほとばしる。より大量の毒を流し込まれ、紬は膝をつく。目を開けているだけで精一杯だ。毒の汁は気化するとまた別の毒になり、吸い込んでしまうと身体が熱っぽくなる。

「あはは、もう普通なら五回くらい死んでるわ」

「く、ううううっ!」

 それでも紬は立ち上がる。心の中にあるのはこだまの最期。自分が何もできなかったために、歴史を書き換えれば死んでしまうような状態になっていた。マインドアは心の力。強く願えばこだまを活かすこともできたのに彼は爆弾としてその命を終えた。

「負けない……私は……」

 彼女は自分に巻き付く鞭の先端を握りしめる。毒が入り込み、激痛が走る。それでも退くことはできない。

「チッ、少しは泣き叫びなさいよ」

「ぎゃあああああっ!」

 傍から見ているだけでも目が潰れそうなほどまばゆく、空気が揺れるような高圧電流が鞭を伝う。電気をエネルギーにする紬でも悲鳴を上げ、焼け焦げながら倒れるほどだ。

「ま……まだ……」

 しかし彼女が鞭の先端を掴んでいたのはほどくためではない。逆に締め付けて腕を切り落とすためだ。

「何?」

 腕を引きちぎることで鞭の拘束から逃れ、出血で体内の毒も排除する。そして人々を襲うオカマの下へ駆けつけた。

「このっ!」

 半ば変身が解けていたが、頭突きでオカマを突き飛ばして足止めする。二人はアスファルトに倒れ込み、紬は額が割れて血を流していた。

「この……ガキがああ!」

 オカマは鼻っ柱を折られ、鼻血を垂らしていた。軽傷にすぎないが奴のプライドはそれが許せなかった。

「ガキが俺の邪魔してんじゃねぇ!」

「ぐあっ! がっ!」

 オカマは発狂した様に、怒りに任せて紬を踏みつける。肋骨が折れるほど胸に体重をかける。折れた骨が突き刺さり、紬は黒い血を吐き出す。

「げほっ!」

 腹も足蹴にし、ぴくりとも動かなくなるまでオカマは倒れた紬を攻撃し続ける。彼女が意識を失い、声も上げなくなってもなおオカマは踏みつけ続ける。マイントピア民も見ていられず、助けに入ろうとするが自分たちが行っても紬がくれたチャンスを無駄にするだけだとわかっており、涙を飲んで逃げ出す。

(こだまくん……あなたいつも、こんな……)

 紬は満足して他の人を追おうとするオカマの脚に掴まる。既に意識どころか生命活動も止まっており、本能だけで動いている。

(あなたを助けられなかった……せめてもの……)

 紬はずっと、贖罪のために動いていた。自分の臆病がこだまを一人にしてしまった。その結果があれだ。二度と誰も見捨てたくない。それだけだ。

『十分助けてくれたよ、紬は』

(こだまくん?)

 自分の脳内で作られた都合のいい幻想なのか、こだまの声がする。

「ああん?」

 掴まれていることに気づき、オカマが睨む。ふらりと紬が立ち上がる。切断されたはずの右腕は左腕とサイズの異なる義手がついていた。

『助けられなかったって後悔してくれる、そんな人は紬だけだったんだ』

「いい加減、死ねええええ!」

 紬に向かってオカマは拳を振り下ろす。だがその拳は右手の義手に現れたチェーンソーが受け止める。刃がオカマの腕に触れ、それを押しのける。

『そんで今も、知らない誰かを助けようとしている』

 紬はチェーンソーのスターターに手をかけ、それを引っ張った。けたたましい音、緑の閃光と共にチェーンソーが回り出す。

『紬の心にボクは助けられたんだ』

 チェーンソーがオカマの腕を切断する。マイントピア民も地上人と変わることなく赤い血が流れていた。

「ひ、ひいいいい!」

 奴は急に腰を抜かしてしまう。だが紬はチェーンソーを止めない。頭をカチ割り、完全に息の根を止める。

「ぎゃああああ!」

 オカマはいつもの様に爆発四散する。爆炎の中から出てきたオカマはなぜか五体満足。あの残虐シーンは周囲と敵を威圧するためのもの、マインドア能力は本当にその気がないと人を殺せない。

「あ、あぁぁ~」

 しかしオカマの害意や敵意を殺すには十分。爆炎から姿を見せた紬は角のような電極が鬼の角へと変化し、各部が緑に輝いている。

「こいつ!」

 女性が鞭を紬の腕に絡ませる。だが義手となった右腕には毒が効かない。逆に鞭を引き寄せられ、宙に浮かぶ女性。

「い、いやああっ!」

 その落下地点でチェーンソーを構え、待ち構える紬。女性の腹部にチェーンソーが突き刺さり、爆散する。やはり女性は精神的ショック以外は無傷だ。

「ラジエル……ヘイロー!」

 紬はチェーンソーの付いた腕を振り回し、大きな円形の光を生成する。それはまるでビームの丸鋸。

「計算不能……」

「この程度の攻撃!」

 腕を振ってそれを飛ばすと、遠くにいたマッチョと眼鏡の男は真っ二つに引き裂かれる。無論、爆散して爆炎から出てくるのは無傷の状態だ。

「あ、あの四天王を一瞬で全滅……」

「すごい……」

 マイントピア民も驚愕しつつ、四天王が気絶している間に彼らを縛り上げておく。だが眼鏡の男が不穏なことを呟いた。

「ふふ、甘いですね……私たちの2乗は強い四天王の頂点……その3乗は強い裏四天王……そしてその4乗は強い真四天王が……」

「何の何の何?」

 紬にとって意味が分からなかった。何人いるんだと。もう全員に役職振ってるだろと。

「無様だな、四天王」

 その頂点はすぐに現れた。

「四天王がやられたようだな……」

「だが、所詮は無印四天王」

「我ら裏四天王の敵ではない」

「お前はここで終わりだ」

 その後すぐに裏四天王が現れる。その後ろにも四人組がいる。

「092818142」

「kcbbhsgfwqhfcucf」

「。、・@。@」。@」&)’()’(%$$%」

「真四天王の我らまで出る幕があるとはな」

 たぶん真四天王だ、と紬は悟った。それと同時に言わずにはいられなかった。

「いや真四天王は地球の言語で喋りなさいよ!」

 しかも全員マントを纏っていて、登場初期の謎めいたのかまたデザイン固まっていないのかよくわからない状態のあれ。

「ま、でも利家さんのとこ行かなくてよかった!」

 ただ辟易としているのはそのキャラの多さと意味わからなさだけであり、問題はない。

「お前の名前を聞いておこう。コレクションに貼るラベルのためにな」

「きっしょ」

 どの四天王だかわからないが、典型の名前を聞く流れである。紬はチェーンソーを空高く掲げ、名乗った。この軍勢が自分にだけ向かう様に。

「私はマギアメイデン・ラジエルロザリア!」

 彼女の意思に呼応して緑に輝く部位が青に変化していく。そして周囲に衝撃が走る。突風と重さが裏四天王と真四天王に襲い掛かり、彼らを吹き飛ばした。

「行こう、こだまくん。みんなを守るために!」

『うん。ボクにも守りたい人がいるんだ』

 紬とこだまが一つとなり、最後の戦いが始まろうとしていた。

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