『現在』が変わる契機 ②

 エコールとタンカーの戦いは続いていた。とはいえ、ほぼタンカーの戦車が破壊されて決したようなものである。

「諦めろ、命までは取らん」

 エコールはやはりというか当然なのだが、殺人はできない。なのでタンカーに降伏を促す。

「できない相談だ……十年前、僕らの仲間を殺した君のことを信用できるか?」

「何?」

 最初の時間遡行で起きたマイントピア人との会敵。エコールは勝利したが敵対したセイブザクイーンのボマーなる人物は自ら爆発した。あの時は他に誰もいなかったが、エコールの攻撃がすべて殺傷能力を持たないというのは本人以外知る由もないことだ。

「まぁいい。どっちにせよ、そのくらいで見逃す。マイントピアだろうがミートピアだろうがとっとと帰れ」

 エコールは戦闘能力を奪うだけで済ませる気であった。しかし、タンカーはハッチから出ると手りゅう弾を天に掲げていた。彼はタンカーの意図を即座に察する。

「おい待て!」

「マイントピアに栄光あれ!」

 タンカーは手りゅう弾と共にハッチへ消える。そして、戦車が爆発し燃え上がった。

「馬鹿野郎……」

 一体どんな理由があって自決を選んだのかはわからない。だが、戦ってもなお死なせない様にしていたエコールはそうつぶやくしかなかった。


   @


 すべてを見届けた矢子と紬は合流場所に戻ろうと歩いていた。家族の無事を確認した今、むやみな飛行は避けるべきだ。人型UFOや新種のUAMを歴史に生み出すわけにはいかない。

「ふぅ……」

 緊張が抜け、お互いにふらふらだ。紬も自分のことの様に安心しきってしまった。集合場所のキャンピングカーはそう遠くないが、このままとぼとぼ歩くのも注意が散漫になっては危険だ。家族を守っても自分が事故に遭っては意味がない。

「あ、昔のマックですよ矢子さん! 休んでいきましょう!」

「え、ええ……」

 紬は矢子に休憩を提案する。それは受け入れられたが、やはり上の空。ここで休んだ方が帰宅も確実。何せ彼女にはまたタイムスリップを頼まねばならない。

「へぇ、あんま変わんないのね。値段以外」

 元々メニューの変動が少ないファストフード店なだけあり、極端なノスタルジーは感じない。だた近年の燃料費高騰などの影響はなく、値段は安い。

「利家さんがいたらぐえーとか言いそうな……」

「ふふっ、あのナリでおじさんだものね」

 同年代みたいな接し方をしてしまうが、エコールは結構な年上。この年代にもファストフード店に出入りしただろう。

「あ、あいつで思い出したけど……」

 矢子は思い出したかの様に子供向けセットのおもちゃが展示されている棚を見る。

「あ! これ宙返りする奴! 宙返りする奴ですよ!」

「実物ね……」

 時折エコールの話題に上がる伝説のおもちゃを見つけ、興奮する一同。しかしその時、厨房からハンバーガーの化け物が姿を現した。バンズに牙が生えており、サイズもレジカウンターを軽く粉砕して出てくるほどだ。

「ハングリーバーガー?」

「私たち、だいぶ影響受けてるわ……」

 その化け物に対する感想もエコールからの受け売りだ。だがどうにもただならぬ空気なので、矢子が変身して対処しようとする。

「待って、ここは私が。まだ何もしてないからね、温存温存」

 だが矢子には帰還のための役割がある。よって紬が戦闘を行うことにした。一応、周囲の人を守るために矢子も変身しようとする。自分と同じ悲しみを味わあせたくないという気持ちがあった。自分はたまたま覆す機会を得たが、全員が全員そうではない。

「「変身!」」

 二人はマギアメイデンに変身する。矢子は左手の薬指に着けた指輪を輝かせると、服装が白いドレスとなり黒髪も青くなる。両手に時計の針のような剣が出現するが、同時に腕に時計の文字盤が盾の様に装着された。

「何これ?」

 おそらくはエコールグレード2のような心境の変化で発生する変化だろう。

「マギアメイデン・ロザリア!」

 ようやく紬は自身の意思でマインドア能力を行使した。ハーフパンツやミニハットなどのアレンジが効いた喪服に左の額から生えた電極の角、これこそがマギアメイデン・ロザリア。

「電気の女に用はない。炎の女を呼べ」

 厨房から出てきたのはスタッフの服装をした男。この時代にはまだマインドア能力の開放手術はなかったはず。彼はもしかすると、ゲームマスターや2001年にエコールと戦った者のようなマインドア能力のルーツに関わる人間なのだろうか。

「おいビストロ、潜伏中に何をしてんだ?」

 もう一人、店内には仲間と思わしき人物がいた。新聞を手にしてホットコーヒーをたしなんでいる。

「なんだニュースペーパー、来てたのか」

「こいつらは我々マイントピアの者ではないが、なぜマインドア能力を使えるのだ?」

 ニュースペーパーと呼ばれた男は新聞をばらまき、それを宙に浮かべて戦闘の準備をする。ビストロもハンバーガーの怪物を待機させていた。

「よし、これで!」

 紬はタンバリングソウを取り出し、ハンバーガーの化け物に迫る。だがそこでニュースペーパーが宣言する。

「この店の客は人質だ。お前らが炎の女か、その仲間か、そうならば奴を呼ぶか。余計なことをするならこの新聞でこいつらを切り裂く」

「な……っ!」

 人質作戦では動くに動けない。まさかこんな何気なく入ったお店で戦いになるとは紬は予想していなかった。

「あまり散らかさないでいただける? ここは飲食店よ?」

 だが、矢子がいつのまにか新聞を紐で束ねて回収していた。

「なんだその能力は……! その程度の拘束!」

 ニュースペーパーは念を込めて新聞を動かそうとする。一方で矢子も抵抗しており二人は新聞を挟んで向き合い、動かない。

「紬! キラーハンバーガーは任せた!」

「うん!」

 人質が解放されたので、状況が変わらないうちに目標を叩く紬。タンバリングソウが光り輝き、化け物をたやすく両断する。

「食べ物で遊ばない!」

 切り裂かれたハンバーガーは元に戻り、落ちる前に紬がキャッチする。

「く、くそ……地上のあさましい料理ともいえないものでなければ!」

 ビストロはまだ言い訳をしているがもう戦う能力はない。完全に追い詰められたニュースペーパーは観念してあることをつぶやく。

「我々の負けか……だが、誇りまでは奪わせん。私たちを検体としたり、同胞を揺さぶる道具にはならん!」

「い、いやだ! やめてくれ! 俺は負けてない!」

 一方でビストロは負けた時以上の抵抗を見せる。一体何が起きているのかと紬は考えていたが、二人の姿は突如消えてしまう。

「え?」

 とぷん、という波紋だけが床に残っていた。その水面のような変化さえすぐに収まってしまう。二人は一体何が起きたのかを理解できないでいた。

「逃げた?」

 矢子も紬も状況を掴みかねている。だが2010年にこんな事件があったなど聞いたこともない。マインドアに絡んだ勢力は十年以上も隠れていたのだろうか。目的は叶えたものの、新しい疑問が生まれることになった。

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