『現在』が変わる契機 ①

 エコールはうきうき半分、心配半分で玩具屋へ向かっていた。矢子は心配だが、それはそれとしておもちゃは気になる。

「ゲットだ」

 目的のものを手に入れ、すぐさまキャンピングカーに戻ることにした。何かあった時、自分を頼って来るならそこしかない。十年前なら既に携帯の基地局は存在しており技術的にも使用に問題ないが、この時代では契約していないことになっているので使うことが出来ない。

 なので時間遡行に使ったキャンピングカーを待ち合わせの目印にしているのだ。

「ん?」

 歩いていると、戦車の様なものが車道を走っている。自衛隊のものかと思ったが、それらしき印はない。そもそも戦車を運搬するならばトレーラーなどに積むはずだ。戦車は律儀に道交法を守るものではない。よって車道は走れないだろう。

 あれでも戦車ってウィンカー付いてなかったっけかでも戦車は思ったより早いけど公道の走行には適さないのか、などと断片的な知識でいろいろ考えていたが、エコールはこの戦車が自衛隊のものではないと即座に判断できた。

 なにせハッチから火炎放射器が出てきて炎を吹いたのだから。戦場でもない市街地で。

「おおおおおお!」

 エコールは大慌てで変身し、火炎放射器を蹴っ飛ばして破壊する。幸い、被害が出る前に止めることが出来た。

「ふぅ、なんだありゃ?」

 火炎放射器がハッチからところてんの様に排出されたかと思えば、中から人が出て来る。眼鏡の痩せた男だ。

「君は……十年前くらいにマイントピアの作戦を邪魔した人間かい?」

「あ、ああ」

 エコールは一瞬計算に苦労した。この段階から十年ほど前は2001年。たしかにそんなことがあった。

「ミリタリーはいい……人間が作った文化の極みだよ。それを愚かな理由で作った火種で壊す君達人間は許されないんだ」

「同意出来るが、街を壊すんなら止めるぞ?」

 相手が何であろうととりあえずヤバそうなのは止める。そのくらい簡単な精神で動いているのがエコールだ。

「やってみるといい。僕はタンカー、僕の理想の戦車がお前を倒す!」

 この戦車はマインドア能力の様だ。タンカーはハッチの中に戻ると戦車を急発進させた。

「とりあえず履帯を壊すか」

 戦車には疎いエコールは適当に履帯を蹴り、足元を破壊する。戦車は凄いスピードで動くため、彼は飛び降りて振り落とされない様にした。

「お、上手くいったか?」

 戦車は動きを止める。こちらは街を守りたいが向こうは雑に破壊しても目的が達成できる。防衛戦が不利な理由だ。タンカーと出会ったのが偶然とはいえ、時間遡行したのも別行動を推奨したのも矢子なので何かあれば彼女が責任を感じてしまうだろう。

「いくぞ!」

 矢子の心を守るという強い決意を固めると、エコールの速度は上昇する。マインドアは心の力故、意志が強くなれば強化される。まずは主砲を拳で殴り、ひん曲げる。これで主砲は使えないはずだ。こちらは以前戦った相手と異なり、主砲が曲がった状態で発射する愚は犯さなかった。

「これは……」

 しかしその中でも相手はミサイルポッドをハッチから生やしてくる。まだ相手の闘志は薄れていない。

「くっそ」

 蹴って破壊しようとキックやパンチをかましていくが結構丈夫である。ミサイルを格納するだけのことはある。

「これだ!」

 根っこの支えを攻撃し、どうにか取り外す。マインドア能力は心の発露なので現実と同じ場所が弱点ではないが、タンカーの忠実に再現したい意思とエコールの壊すという意思が重なってこうなったのだ。

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