飛べ! 悲劇を覆す為に②
エコールや矢子たちは無事、十年前に飛んだ。目的は矢子の家族を死なせた事故を止めること。
「エコール、おもちゃ見てきていいよ」
「え? でも事故止めないと……」
矢子は前日にあった謎の老人に言われた通り、エコールを自由にさせることにした。
「バトルはもう終わったし、事故の回避ならこっちでやるから」
「そうそう、事故を避けるならいい感じにご両親と話して時間をずらせばいいんだし」
「そういうもんか?」
エコールは時代が10年前ということもあり手持ちのスマホが通じないため心配そうだ。何かあっても即座に駆け付けられない。
「あんた話すとボロ出すから離れてて」
「そっかぁ」
咲は懸念を正直話して引いてもらう。矢子は咲に昨日出会った老人の話はしていないが、そういう観点からも避けたいらしい。エコールの方も自分の弱点はわかっているので大人しく引き下がる。
「んじゃ、この車集合な」
「ああ、では行こう」
二手に分かれて行動を開始する。時間遡行をする前に場所は選んでおいた。容易に当時の時東家にアクセスできる場所だ。そのため、しばらく歩いてすぐに見慣れた家が出てくる。
「ここは……」
あの時の、家族でまた戻ってくると信じて疑わなかった家を見て矢子は苦虫を嚙み潰す。心の時間は止まったままだが、物の時間までは止まらない。すっかり現代の家は古びてしまった。
「まだみたい」
「ああ……」
出発の前に飛んだので、家族に会うにはしばらく待つしかない。車があるからそこにいるのはわかる。十年も会いたかった家族が目の前なのに行けないのがとてももどかしかった。
「矢子さん……」
紬は彼女の想いを知っている。もしかするとこの能力があればこだまを傷つく前に適切な場所へ連れていけるかもしれない。だが、そこまで負担は強いれない。
全員が黙って状況の行方を見守る。その時、咲が作戦を説明する。
「ねぇ、いいかな? 矢子は出て行くとすぐ本人だってバレるだろうし、この時代の矢子と鉢合わせたら何が起こるか分からないでしょ? ご家族と話して出発時間をずらすのは私達でやるから、矢子は観測する側に回ってくれる?」
「え? あ、うん」
なりふり構わなくなってしまうところだった矢子は、彼女達を連れてきて正解だと思った。物見遊山程度の深刻さでいてくれたからこそ、思いつめることもなく一歩引いたところから目的を達成しつつ矢子の無事も計算できる。自分だけならば後先など考えられなかっただろう。
「よし、来た」
しばらく待っていたら、矢子の家族が出て来た。やはり彼女は平静を保てない。両目から涙が溢れ、再会できた嬉しさと死んだという現実に耐えきれず感情がぐちゃぐちゃになる。
「なんとしても、成功させるぞ」
「タイムパラドクス、起きるのかも見ないとね」
上代と林も意思を固めた。咲と彼女らで道に迷った女子高生のふりをして時間を稼ぐのだ。
「すみませーん」
「繧ィ繧ウ繝シ繝ォ繝帙ン繝シってどこにありますか?」
「なんて?」
林がどこのことを聞いたのか上代にはわからなかった。
「時間遡行の影響か?」
矢子はこの時代にない建物を聞いて何か不具合が起きたのかと涙を引っ込めて緊迫する。あさひは心当たりがあった。
「あー、林さんは活舌が悪くて声の通りがよくないから普段はすごく頑張ってるの。それをやめたんだと思う」
「……」
矢子は真顔になるしかなかった。しかし必ず成功させねばならない緊迫した場面なので咲から目を離さない。三人はなんとか時間を稼ごうと頑張っている。道を聞く、という単純な行為であったがそれが終わるには長い時間を費やすことに成功した。
「これで大丈夫かな……」
一応、出発が遅れれば事故が起こるタイミングにバッティングしないはずだ。一つ越えて矢子は安堵する。だが、本当にあの事故を防げたのだろうか。未来を変えられたのだろうか。新しい不安が増えていく。
「私、ちゃんと事故を避けられたか見ていく」
「あ、矢子さん!」
発進した車を追い、矢子は変身して走る。紬も追従した。
「マインドアは心の力……自分が出来ると思ったことは出来る、私は追える!」
矢子は自分に念じ、飛翔する。理屈ではない。自分が出来ると思ったことは可能となるのがマインドア能力。彼女は時間遡行から歴史改変までを可能にしているため、家族絡みならば不可能はないに等しい。
「なんで私飛べるんだろう?」
紬が飛べる理由はイマイチ分からない。
「あそこか」
矢子は事故現場の交差点に先回りする。まだ家族の車が差し掛かっていないが、事故はあそこで起きる。しばらく待っていると、事故の原因であろう暴走車が交差点に突っ込んできた。まだ家族の車は来ていないが、このままでは他の人が巻き込まれる。他の人に自分の不幸を擦り付けてしまう。
「……」
矢子は時間を止め、暴走車を持ち上げる。誰も来ない安全な道外れに車をひっくり返し、そのまま時間停止を解く。何故か瞬間移動し逆さまになっていることに暴走車に乗っている老人は仰天していたが、矢子は背後で無事に交差点を通過する家族を見送った。交差点にいた人々は一瞬暴走車に身構えたが、なにも無かったのを見ると見間違えだと思ってすぐに交通の流れを戻した。他の事故が起こることはなかった。
「さぁ、帰ろう」
矢子は目的を果たし、帰還することにした。これで、本当に家へ帰れるのだ。
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