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     4.


 一陣の閃光が走った。


「──退(の)け、」

 雷(いかづち)とも炎ともつかぬものが鬼熊の巨体を退(しりぞ)けた。

「呆けとる場合か」

「ぬ、鵺さん…!!」

「気を確かに持て。気を抜くな、決して───」

「……、はいっ…!」

 体勢を立て直した鬼熊が、グルル…と尚も低く唸った。

「…退けとは。何故(なにゆえ)、我の邪魔をする? 我の先に見つけた獲物ぞ………」

「お前の餌なら、そこに転がっておろうが」

「何故、“それ”を庇う? 奴延鳥(とらつぐみ)──」

「くくくく、何故だと…? 分かっておるだろうに。──俺も、こいつの血肉が喰らいたいんだよ」

「貴様のその姿…。妖の風上にも置けぬ」

「言っていろ。ノロマ熊──」

 鵺は姿を一瞬で晦(くら)ます。

「…腑抜けが」

 背後を取られ、即座に振り向き鬼熊は鵺へ牙を剥いた。しかし、それすらも軽くいなして鵺は煙管(きせる)の雁首、その火皿を鬼熊の左目へと素早く押し当てる。鬼熊は短く呻き声を上げた。

「おのれ…」

 片目を焼かれ、両の脚にて立ち上がった鬼熊は大きく鵺へと鉤爪を振り翳すが───そこで、鬼熊はビクンッと動きを止める。口を裂いた鵺の背後、鬼熊の死角にて小夜が巻物を紐解き詠唱を終えていた。

 巻物から抜け出た文字の羅列は鬼熊を縛る。鬼熊はその縛(いまし)めを解こうと激しく暴れ狂う。

「あーあー。喚くな、喚くな。無駄だよ」

「飼い慣らされた、人間の狗(いぬ)め…!」

「ほざくな、下等」

 嗤って紫煙を吐き出した鵺の姿を目に焼きつけたが最後、鬼熊の視界は闇に飲まれた。



 

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