第三十四話
「えー、なんで着替えちゃったの?」
「当たり前だよ!」
制服に着替えた後、私は咲良と合流した。
本当は今日の昼一番から一緒に回る予定だったんだけど、件のトラブルがあったため、今まで待っててもらったのだ。
咲良はその間に気になっていた演劇部の演目を見に行ったらしいので、それほど待たせずに済んだのは幸いだった。
「文栞のメイド姿見たかったなー」
「さっきうちのクラスにお客さんとして来てたでしょ」
「だって文栞、注文とったらすぐにどっか行っちゃうし」
「忙しかったし」
「私も『おかえりなさいませ、お嬢様』って言われたかった!」
「誰にも言ってないよ! だいたいメイド喫茶じゃなくてコスプレ喫茶だからね!?」
咲良は唇をとがらせて「そーだけどさー、言ってくれてもいいじゃーん」とぶーたれている。相変わらず時々妙なところでこだわるなぁ。
私は話題を変えるべく、「そういえば」と切り出した。
「咲良が見に行ったっていう演目ってどんな感じだったの?」
「ん? ああ、ロミオとジュリエットだよ。あらすじはなんとなく知ってたんだけど、ちゃんと見たことはなかったんだよね」
確かに。そういえば私もちゃんとは知らないや。
私が「どんなお話なの?」と訊けば、咲良の話はそのままロミオとジュリエットの解説へと入っていく。
想像していたよりもずっとドラマティックな展開で、悲劇的なラストだった。
「そんな感じなんだ……」
「ね。私もびっくりした。あの有名なセリフくらいしか知らなかったし」
話し終えるころには咲良の機嫌もすっかり戻っていた。
ほっと胸を撫で下ろしていたら、ふと、今すれ違った子が「――あ、ほら、あの子だよ」と一緒に歩いていた子に話しかけているのが聞こえてきた。
確か隣のクラスの子だ。
なんだろう、と意識を集中すると、会話の細かな内容までは聞こえないけど「長瀬くんと手を――」という言葉は辛うじて聞き取ることが出来た。
あー、やっぱり見られてたんだ。そりゃそうか。あの恰好で手を繋いで走ったんだから目立つよね。
どうやら咲良にも聞こえていたらしく、「何かあったの?」と訊いてきたので、事のあらましを簡単に伝えた。
「なるほどね。それはまた大胆なことを……。長瀬のやつめ……」
後半はあまり聞こえなかったけれど、何やらぶつぶつと言っている。
そんな咲良に、私は密かに考えていたことを伝えてみることにした。
今までずっと迷ってたんだけど、さっきの子たちの会話を聞いて、却って決心が固まった。
「咲良、私ね――」
「ん?」
息を一つ吸い、心を落ち着かせてからゆっくりと口に出す。
「――後夜祭、佑太くんを誘ってみようと思うんだ」
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