第三十一話
「佑太くん……うん、終わったよ。あっちも落ち着いた?」
「ああ。もう大丈夫だ。文栞――――と鈴見も大変だったな」
「とってつけたように私の名前言わなくてもいいよ。文栞ちゃんと話したいなら集中したら?」
「……悪い」
やってきたのは佑太くんだ。
いくら佑太くんでもただ普通に歩いていただけでは黄色い声なんて上がらない。
問題は――。
「えっと……その服のまま来たんだ?」
「ん? ――ああ。着替えるの面倒だったし。文化祭だしセーフだろ」
佑太くんが着ているのはお店で着ていた執事服だ。
こうして改めて見てみると、めちゃくちゃ似合っていてすごくかっこいい。もうお世話されたい。
「今さらだけど、その……か……かっこいいね!」
「サンキュ。文栞こそ、すげぇ似合ってんな。めっちゃ可愛い」
「え、あ……あり……がと」
そういえば私もメイド服着てるんだった。
調理室でここだけメイドと執事がいて浮いてない……?
というか、志保もいつの間にか席一つ分横にずれている。なんで?!
「そ、そういえばなんでここに来たの? 何か用事だった?」
「用事ってほどじゃないけど、忙しそうだったし、昼飯まだだったら一緒にどうかと思って。もう食べてたみたいだけど」
「あ……ごめん」
「いや、別に。約束してなかったし謝ることじゃねぇよ」
わざわざ誘いに来てくれたんだ。
嬉しくなるやら申し訳なくなるやらでいまいち感情が定まってくれない。
でも、あれ? と、いうことは――。
「もしかしてお昼、まだ何も食べてない?」
「だな。適当に何か買って食べるわ」
「えっと……よかったら何か作ろうか? 後でお金は払わなきゃいけないけど……あ、私が払っとくね!」
「なんでだよ。俺が払うよ。てか、いいのか? 作ってもらっちゃって」
「いいんじゃないかな? 一応、聞いてみるね。――志保ー?」
志保は聞いてはいたようで、私の呼びかけに肩をすくめて頷いてくれた。大丈夫ということだろう。
「いいみたい。何作る?」
「んー、じゃあ今文栞が食べてるのと同じやつ」
「これ? お腹に溜まらないよ?」
「それでいいんだよ。ここでしか食べられないだろ?」
「――わかった。ちょっと待っててね」
佑太くんを待たせて私は調理に入った。
もう今日は何度も作ったので慣れたものだ。
生地をホットプレートに載せると甘い香りが立ち込めて食欲をそそる。
失敗しないように慎重に火加減を調整しながら焼き具合を確認して……完成だ。
最後にトッピングまで忘れずにして、佑太くんところまで持って行く。
「お待たせ」
「ありがとな、疲れてるのに」
「ううん。このくらいなんでもないよ」
佑太くんは一口食べると「美味い」と零し、丁寧にナイフとフォークを使って食べていく。
なんでもないような光景だけど、自分の作ったものを食べられているのに加え、佑太くんの服装が非日常的でなんだかドキドキしてしまう。
そのままぼぅっと見惚れていると、顔を上げた佑太くんと目が合った。
「食べないのか?」
何を――と言おうとしたところで思い出す。そういえば私も食べかけだったんだった。すっかり頭から抜け落ちていた。
「た、食べるよ!」
恥ずかしさを紛らわそうと急いで食べ始めると、「そんなに慌てて食べたら喉詰まらすぞ」と言われて余計に顔に熱が上った。
そんな私を見て可笑しそうに佑太くんが笑っている。
そのうち私自身もなんだか笑いが込み上げてきて、へらっと笑みを作った。
「あのー? 二人の世界に入ってるところ悪いんだけど、私もいること忘れてない? って聞いてないか。もう」
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