第二十一話
「じゃあ次行くか」
お昼を食べてから、私たちは移動を開始する。
行先は、相変わらずわからない。さっきお店に入る前に長瀬くんが行きたいところがあるというので、それに任せてしまっている。
こんなので私は本当に良いのだろうかと思うけれど、長瀬くんの行きたいところを押しのけてまで私に行きたいところがあるわけではなく、こうして大人しく付いていっている。
「どこに向かってるの?」
「着いてからのお楽しみ」
うーん? 長瀬くんはそういうけれど、足取りはどんどん繁華街の方へと近づいていっている。
おそらく何かのお店行きたいんだと思うけど。
そして一〇分ほど歩き、とある場所で立ち止まった。目の前の建物を見上げる。
「ここ?」
「ここ」
着いたところは所謂ファッションビルだ。中高生から大学生、もしかしたら社会人も結構な人がここで服を買う。
もちろん私も何度も来たことがあるし、なんなら昨日咲良と一緒に買い物に来たのもここだ。
何か服が欲しいのかな?
そう思っていると、長瀬くんはビルに入るなり、エスカレーターに乗ってどんどんと上に登っていく。もちろん私も一緒だけど。
そのまま上へ上へと登って行き、着いた先は――
「――映画館?」
「うん」
どうやらここが目的地らしい。
「何か見たい映画があったの?」
「えっと……これ」
長瀬くんが指さしたのは、少し前に話題になったミステリー映画だ。でもこれって――
「前にお奨めしてくれた本が原作の映画。せっかく原作読んだから興味あったし、こういうのなら綾瀬も楽しめるかと思って」
「う、うん。見たかった」
「良かった。見終わった後、どこかカフェでも入ってゆっくり感想でも話そうぜ。昼からの上映見た後なら軽く食べるのにもちょうどいい時間だし」
やった! この映画、気になってたんだけどなんとなく機会を逃して見に来れてなかったんだよね。
それに直前に見た映画のことなら口下手な私でもきちんとお話出来そうだし、とっても楽しみ!
やっぱりそこまで考えて、これを見ることを提案してくれたんだろうか。
「上映時間ちょうどいいな。席も結構空いてるし、入ろうか」
「うん。――――ありがとう」
こっそり呟いたお礼は彼に届くことはなく、空気に溶け込んで消えていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます