第十五話
「テスト用紙は後ろの席から前に順番に送っていけ。一番前の席の者は教卓まで持ってくるように。お疲れ様。これで今回の試験は全て終わりだ」
チャイムと同時に、教員から教室全体に声がかけられた。
一週間ほど続いた試験期間もこれで全日程終了だ。
手ごたえ的にはまあまあ。
と、いうよりも多分いつもより少し良いんじゃないかと思う。
――別に他意はない。今回はたまたま勉強が上手くいっただけ。
時間はまだ昼前だが、今日はこれで解散らしい。
どうしようかな、と考える。
後ろ向きな方じゃない。前向きな方だ。
テスト期間中は封印していた本をひたすら読み漁るのもいい。
咲良を誘ってどこかに遊びに行ってもいい。
今日みたいな天気の日はのんびりと辺りを散歩するのも気持ちよさそうだ。
うーん、悩ましい。
でも咲良を誘うなら、早めに誘わなきゃだよね。もうすでに予定が入ってるかもしれないけど。でもそれならそれでもいいかなって思う。とにかく、今はテストが終わった解放感でいっぱいだ。
それにしても『解放感でいっぱい』って字面を見るとどこか変な感じがする。解放されたならなくなってそうなのに。
だったらどういう言葉がいいだろうか。『解放感ですかすか』?
……うん、やっぱり『解放感でいっぱい』の方がいいね。言葉って難しいな。
「――ふーみか!」
そんなどうでもいいことを考えながら、席に座って窓越しに空を眺めつつ足をぶらぶらさせていると、背中に『ドンッ!』と衝撃が来た。
驚いて身体を跳ねさせつつ、犯人の名前を呼びながら振り向く。私の周りにこういうことをする人間なんて、一人しかいない。
「咲良……脅かさないでよ」
「ごめんごめん、なんだか文栞が一人で黄昏てたみたいだったからさ。つい……ね?」
「黄昏てなんていないよ。もっと楽しい方。テストも終わったし、これから何しようかなって考えてたの」
「ふーん。それで、結論は?」
「さっきまで出てなかったけど、今出たよ。咲良と遊びたい」
「さっすが、文栞! 愛してる!」
咲良がぎゅぅっと抱きしめてくる。押し付けられた顔がすべすべもちもちで気持ちいい。一体どんなスキンケアしてるんだろう。今度聞いてみよう。
「でも、どこ行く? せっかくだからパーッと遊びたいよね。久しぶりにカラオケでも行っちゃう?」
「そうしよっか。ずいぶん行ってなかったしね」
行先も決まったということで、手早く荷物を纏める。
教室を出る直前、ちらりと長瀬くんの様子を横目で窺うと、男女比三対三の六人のグループで話していた。
クラスの中心的な人たちが集まったグループで、当然ながらみんな可愛いし、かっこいい。
その中でも一際可愛い小久保さんが、長瀬くんの肩をぽんと軽く小突き、それに応えるように彼も笑う。
『高校生ってこんな感じだよね』って光景で、すごく絵になる。
彼らにとってはあんな程度のスキンシップは日常茶飯事だし、今さらなんだけど、なんとなく嫌な気分になった自分に気が付く。
嫉妬……しているのだろうか。
私も小久保さんみたいに明るくて可愛かったら、教室であんなふうに堂々と話したり出来てたんだろうか。
「――文栞? 行くよー?」
出入口で少し足を止めていたらしい私を訝しんだ咲良の声で我に返り、頭を振って余計な考えを追い出す。
「うん、今行く!」
とにかく、今はいろんなことを忘れて咲良との時間を楽しもう。
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