最醜話(C-4後編):流れる愛情

 ――この剪定の大鎌フィール・サイズが、“ 死神しにがみ ” の異名いみょう由来ゆらいだろうな……。そうえば、完成かんせいってなんだったんだろう……。


◆◆◆◆◆◆◆◆


 うしなっていた兵士へいしたちまし、あかまった大鎌おおがまわたし姿すがたて、警戒心けいかいしんあらわにした。

 われながら、それはそうだろうな。と、おもう。いままで、博士はかせのただの研究対象オモチャで、それがきゅう護衛ごえい対象たいしょうである博士はかせを殺したんだから……。

 これ以上いじょうは、ひところしたくない……。


 ――はらいながら、破壊はかいされたまちむら転々てんてんとする日々ひびを、そうしてごしてきた。ずっと、ずっと、もうかぞえることも出来できない年月ねんげつを、ずっと。


◇◇◇◇◇◇◇◇


まちむらにたどりけば、そこはまるで地獄絵図じごくえず野原のはら

わたし自身じしん結局けっきょく追手おって何人なんにんあやめてきた……。

 いつまで、こんなことつづければいいんだろう……。


 フェニクサの領地りょうち久々ひさびさもどってきていた。ここらへんは、シンシャのむらがあったが、いま見事みごと野原のはらになっていた。

 夕日ゆうひはじめ、あたりはくらくなりはじめていたが、すこさきあかりがえた。

 そのあかりにかっていくと、のこった人達ひとたちがコミュニティをつくっていた。


「すみません」


 そっとこえけてみる。


何者なにものだ」


 反応はんのうしたのは、付近ふきんえるなかでも、一番いちばん歳上としうえそうなおじいさんだった。おそらくこのコミュニティのリーダーなんだろう。


わたしは……、たびものです」


 警戒けいかいされている。まぁ、たりまえだ。このご時世じせい旅人たびびとなど、精神せいしんくるったひとか、火事場泥棒かじばどろぼう圧倒的あっとうてきおおい。


やみ厄災やくさい……ですね……?」


 とりあえずは、はなしかけるのをつづけてみる。


「あぁ、そうだ。半月はんつきほどまえに、ふたたやみ厄災やくさいがここをとおった」


 ボソボソと、しゃがれたこえはなしはじめてくれた。


は、約五年やくごねん周期しゅうきでフェニクサにもどってくる。まるでなにかをさがすように」

 

 さがすように、か……。


「それで……、おまえさんは……」


 ビクッとかたねる。少し落ちていた顔を上げ、おじいさんの顔を見直すと、さとったような、達観たっかんしたようなでこちらをていた。


「は、はい……」

世界せかいにくこわす、破界はかい象徴しょうちょう――やみ厄災やくさいあとつづける旅人たびびと

「……」

こわれた世界せかいふたたひかり奇跡きせきをもたらす、再世さいせい象徴しょうちょう――慈愛じあい死神しにがみじゃな?」


 ――あれからわたしは、やみ厄災やくさい……グレンがとおったまちむら情能力じょうのうりょく修復しゅうふくしながら今日きょうまでごしてた。

 あのけがにん二人ふたりからはじまり、つぎまちでは、けがにんくわえ、周囲しゅういこわれたいえや、すみとかした草木くさきを。そうしているうちに、わたし能力のうりょくはどんどんと強化きょうかされ、いまではまちひとつを修復しゅうふくできるまでにいたった。


「……」

よごれてボロボロになったその羽織はおり、それをかおかくすようにかぶり、ひときずなおす。てき相対あいたいするとその大鎌おおがまでもって制裁せいさいをくだす」


 ニュアンスがどことなく、毒味どくみびているが、だいたい間違まちがいではない。


ては、まちむらまで元通もとどとりにし、対価たいかたましいうばっていく……」


 うわさうのはそんなものだ。と、分かっていても、この勘違かんちがいはすこいやだな……。


「そんなこと……!!」

「いい、なにわなくてもかっている。わしひとりのたましい勘弁かんべんしてもらえないだろうか」

「なにも、かっていません!!」

やみ厄災やくさいは、きゅう首都しゅとベニバナへかったよ。周期的しゅうきてきにも、方角的ほうがくてきにもあっとるじゃろ。……情報じょうほうあたえた。これでもわしひとりじゃ、こんないぼれじゃ、ダメかの?」

出来できません……」


 わたし能力のうりょく対価たいか必要ひつようとしているわけではない。そうではない……。


「ダメ……か。まぁ、死神しにがみ相手あいてだ。こちらの意見いけんをのんでもらえるとはあまりおもっておらんかったから、そこまでショックはけないもんじゃの」


 ホッホッホッ。じゃない。だから――


「そうじゃなくて!! もう!!」


 地面じめんかたなす。あた一体いったいが、青白あおじろひかりつつまれる。

 一寸ちょっとさきえないほどひかりつよまり、それがおさまるころにはむら破壊はかいされる以前いぜん姿すがたもどし、けがにんたちの怪我けが一様いちようっていた。


「どういう……、ことじゃ?」

てのとおりです」

んだ者達ものたちよみがえったのはわかる、が……」

「はい。これが……、わたしうわさもとです」

「……」


 強化きょうかされたわたし能力のうりょくは、まちむら草木くさきもけがにんも、死人しにんすらも、なにもかもを、元通もとどおりのもどことができる。……のだが、たましいというのか、精神せいしんというべきか、元通もとどおりのかたちよみがえった死人しにんは、たしかにきてはいるけど、ひどくうつろなをしており、うめいたり、意味いみのない動作どうさはするものの、

 残念ざんねんながら、感情かんじょうだけはもどらないらしく、かたちだけのこころこわれたひと何人なんにんしてしまっている……。

 これがたましいうばっていくといううわさもとだろう……。


 しばらくわたしとおじいさんと村人むらびと数人すうにんむら確認かくにんして歩く。


なにはともあれ、おまえさんのおかげでたすかったよ。慈愛じあい死神しにがみ

「…………トリシュナ。トリシュナ・シーハです」

「そうか。トリシュナとうのか。名前なまえじゃな。しかし、シーハか……。なつかしいな」

「?」

「いや、老人ろうじん戯言ざれごとじゃ。にせんでいい。それよりもトリシュナ。やみ厄災やくさいっているんじゃろ?」

「あ、はい。いそがなきゃ」


 わすれていたわけではないが、ゆっくりしぎた。


「おじいさん、ありがとう」

「こちらこそ、死神しにがみなどと、無礼ぶれいなことをったよ……。もうわけない」

にしてません。いつものことなので。それでは!!」


 むらあとにする。

かなきゃ。グレンを……あなたを……。わたしは……。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――首都しゅとベニバナ(跡地あとち)


くろほのおうずいている。きっと、まだあの中心ちゅうしんにグレンがいる……!! くろほのおなかへと、わたしはしす。


えた!! あれは……やっぱりグレン!!


「やっと……、やっといついた……!」


わたしことすことお段階だんかいからていた。だけど多分たぶんわたしだれかを認識にんしきしていない。

 おおねがい、気付きづいて……!!


「グレン!!」


うつろな目をして、無表情むひょうじょうなグレンの表情ひょうじょう。そのうつろなひかりもどる。無表情むひょうじょうくずおどろはじめる。


「ずっと、ずっと!! 探してた!! あなたは、……あなたは、わたしころします……!!」

「トリシュナ……!!」


かった……。ちゃんとおもしてくれた。気付きづいてくれた……。

 なみだまる。

 だけど、かない。

 めたんだ、かないって。


おれ……は……。俺の……名は……グレン……。トリシュナを……おまえもどために……とどために……おれは……」


 め……たんだ……、かないって……。……なみだあふれる。


「トリシュナ……おれ……」

「うん。なあに? グレン」

おれは、おまえもどために……」

「うん。ってるよ。ずっとわたしさがしてくれてたんでしょ?」

「それで……そのあいだに、沢山たくさんいのちを……」

「うん。それもってる。いっぱいやしちゃったね……」


 グレンの表情ひょうじょうくもっていく。

 あぁ、グレン……。あいしてる……。

 ちかづき、きしめる。グレンも、そっとかえしてくる。


「……あのね、グレン。いて?」

「……ああ」

わたしもね? 結構けっこう大変たいへんだったんだよ?」

「そう……だよな……」

「トリシュナ……」

「なあに? グレン……」

あいしている……」

「うん。わたしも……あいしてる……」


 もっと沢山たくさんいたいことがあった。文句もんくも、あいも、つらかったのとも、いたかったことも、もっと、もっと……。だけど、言葉ことばてこない……。

 いつまでも、ずっとこうしてきしめっていたい。


「トリシュナ」

「うん」

「頼みがある」

「うん」

おれを、ころしてくれ」


 グレンがそっとつぶやく。ふかく、おもく。


「うん……」


 本当ほんとうは……。いや、これはダメだ。グレンもわたしも、つみつくりすぎた。


あとは、わたしまかせて……」


 キスをする。ふかく、ながく。すこしでもつながっていたくて。

 あいしてる……グレン……。

 くちびるをそっとはなす。感情刀かんじょうとう現出げんしゅつさせる。


「おやすみ、グレン……」


 グレンへ感情刀かんじょうとうす。


有難おりがとう。トリシュナ」


さかくろほのお中心ちゅうしんで、世界せかいわたしとグレンの二人ふたりだけのようで――。


まれわってもまた、一緒いっしょてください……」


 グレンを、最愛さいあいひとをもう一度いちどきしめる。


 ――うす青白あおじろひかりあふれ、二人ふたりつつまれた。



  ~終~

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