第壹話(C-1後編):恋人〝トリシュナ・シーハ〟

「あらトリシュナ、おかえり」


 グレンのいえいたら、お義母かあさんが笑顔えがお出迎でむかえてくれた。


「ただいまもどりました、お義母かあさん」

「ちゃんと、ラズとおはなししてこれたかい?」

「はい!」

「それはかった!!」


 ホントにこころから一緒いっしょよろこんでくれているのがかる笑顔えがおけてくれる。


 お義母かあさんはグレンのあさはんつくっているところだった。グレンはあさがすっっっごくよわいため、お義母かあさんとわたしはいつもさきあははんませてからグレンのぶん用意よういする。


くまでもなさそうですが、グレンは、まだ……」

うまでもないねぇ」

「ですよねぇ……」


かお見合みあわせわらう。これもまた、わたし日常にちじょう一部いちぶだし、わたし、トリシュナ・シーハを構成こうせいするひとつ。


 さて、そして、日課にっか時間じかんだ!!


「じゃあわたし、グレンをこしてますねぇ」

「うん。おねがいねぇ。あ、わたしすこはやいけど仕事しごとってくるよ」

「え?」

「ラズの見送みおくりにくのに、中抜なかぬけするからねぇ。すこしでもすすめとかないと」

「あ、なるほどです。かりました!!」


 これがまた、苦戦くせんするんだよねぇ……。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――グレンの部屋へや


こしはじめて十分じゅっぷん。ホントにきない……。毎朝まいあさこれがなかなかに大変たいへんで……ふぅ。


「んあ……。んん……。ぅぅん……」


 うなされてる?


「俺……んん。ぅうん……」


 んー。いやゆめでもてるのかな? とりあえず、しっかりこすか。


「ほら!! はやーきーろ、グレン!!」

「トリシュナ……」

「はいはい、わたしだよ」


 身体からだおもいっきりゆする。はうっすらひらいたものの、まだ寝惚ねぼけてるってかんじだ。……はぁ。


ーきーろー!! 今日きょうはおにいちゃんの見送みおくりのだぞ!!」


 うと同時どうじにカバッと布団ふとんぐ。すると、ようやくもぞもぞとがる。


「まったくもう! グレンはホントにお寝坊ねぼうさんだね……!!」


 ホントにあきれちゃうくらい。でも、寝起ねおきのかお可愛かわいい……。だから、“ ちゅっ ” 。


「ほら! さっさと支度したくする!! お義母かあさんは、もうっちゃったよ!!」


 かくしも……ある。キスはまだすこずかしい。

 だから、背中せなかをバンッとたたき、居間いまへとれていく。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 そこからはバタバタだ。グレンの身支度みじたく手伝てつだいながらさっさとわらせ、あさはんをかなりかしてべさせ、食器しょっきあら片付かたづけて、いまようやく、見送みおく場所ばしょ北広場きたひろばへとあるいているところだ。


 そういえば、グレンをこしにったとき、グレン、かなりうなされてたなぁ……


「ねぇ、グレン。なにいやゆめでもてたの?」

「ん? なんことだ?」

今朝けさこすときに、かなりうなされてたから、その……になって……」


 グレンがすこにがかおをしたのを見逃みのがさなかった。そんなにいやゆめだったんだろうか。


「……たしか、俺自身おれじしんだれなのか、……何者なにものなのかもからなくなって、何処どこかもからない場所ばしょで…………、ここからさき上手うまおもせん……」

「そっかぁ……、悪夢あくむだったんだね……そっかそっかぁ……」


はなしをしているうちに、遠目とおめ北広場きたひろばえてきた。


「でもま、ゆめゆめだしっ」


 ずっとこのはなしをしていると、グレンがとおくにってしまうような、そんながして……。

 すこ強引ごういんだけど、はなひげる。そして、グレンのはしす。


「おい馬鹿ばか、トリシュナ! きゅうるな……!!」

「え!? なーあにー??」


 笑顔えがおとぼけてみる。そんなわたしかおて、グレンもあきらめたらしい。グレンもはしし、そのままわたしよりもまえく。


なん! でも! ない!! ほら、はやくぞ!!」

「え、ちょっとぉ!! ったらころぶー!!」


 ったまま、どんどんスピードを上げていく。


「ね、ころぶってばぁー!!」


 おにいちゃんとのわかれはさみしい。そして、来年らいねんにはグレンも……。ずっとずっと、こんなあったかい日々ひびつづけばいのに――。


◆◇◆◇◆◇◆◇


北広場きたひろばにはもう、おにいちゃんを見送みおくるため、ずいぶんひとあつまっていた。中心ちゅうしんにおにいちゃんがいる。


わたしたちをつけたおにいちゃんが、わたしたちにかってこえけながらってくる。わたしたちもそのままぐおにいちゃんのところる。


おそかったなぁグレン、トリシュナ! 出発しゅっぱつまでにわないかとおもったぞ」


全部ぜんぶわかってるくせに、そんなことを冗談じょうだんじりにいいながらにバカみたいに大声おおごえわらう。


「ま、大方おおかたグレンの寝坊ねぼうだろうけどな!」


 ホントにそれ。毎朝まいあさ毎朝まいあさ、ホントにホントに大変たいへんなんだよ……。


 そしてグレンもグレんでそれにこたえるように「ああ、そうだよ! わるかったな!! ったんだからいだろ!!」なんてひらなおりながらわらう。それをていたおとこたちが、わーわーとあおっている。

 おとこってホントに子供こどもだよなぁ。まぁ、グレンはすこ反省はんせいしたほういけどね……。

 と、きゅうにおにいちゃんのかおつきがわる。まわりの大人おとなたちもおとこたちも、グレンもみんな、おにいちゃんがおこってるっておもってるみたいだけど、あのかおはそうじゃない。グレンなんて、かおこわばってる。でも、そうじゃない。どうしたんだろう。


 おにいちゃんはグイッとグレンにかおせる。おとこたちのあおりがはげしくなる。

 そしてそのまま、おにいちゃんはグレンに耳打みみうちをする。

 おとこたちのあおりがうるさくて、内容ないようこえない……。なにを、グレンにってるんだろう……。


 と、もなくはなれ、なにごともかったかのような笑顔えがおをおにいちゃんはかべる。

 なんだったんだろう……。


「なんだよ! わりかー?」

「当たり前だろ!! こんなにまで、馬鹿ばかみたく喧嘩けんかなんかするかよ!」

「つまんねぇーな!」

「おまえらをたのしませるつもりなんかねぇーよ!」


 ホントになにごともかったかのように、友達ともだちはなしてる。

 あ……。そうか、あさの……。わたしにはえないけど、グレンにはってことか……。それじゃあグレンにもけないや……。


わたしもいつもどおりをしっかりえんじ、おにいちゃんに「頑張がんばってね」とつたえ、おにいちゃんは出発しゅっぱつしていった――。

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