第貮話(C-2):終わる日常

 ――おにいちゃんが兵役へいえきむらってから、十一ヶ月じゅういちかがつ三日みっか


「んんー」


 わたしは、トリシュナ・シーハ 。ラズライト・シーハ のいもうとで、グレン・フューリアスの恋人こいびと


「よし、今日きょうもちゃんとおぼえてる!」


 いつもどおりの時間じかんめる。日課にっか自己認識じこにんしきえ、着替きがえて部屋へやからでると、台所だいどころほうからあかりがえる。お義母かあさんももう起きている。


「おはようございます」

「おはよう。トリシュナ」

手伝てつだいますよ」

「いつもありがとう」


毎朝まいあさ、お義母かあさんの手伝てつだいをするのもわたし日課にっかだ。こうして、あさ準備じゅんびをしながらの会話かいわ時間じかんもたまらなくきだった。


「さて、出来できた。トリシュナ、べちゃお」

「はい!」


 このも、いつものように、さきにお義母かあさんと二人ふたりあさはんべる。


「ねぇ、トリシュナ?」


 べながら、お義母かあさんがはなしかけてきた。べつめずしくはない。普段ふだんからはなしをしながらべてはいる。だけどあらたまって、こうはなしかけられるのはしばらくぶりだった。


「なんですか?」

「なんだろ……? なんとなく、だけどね?」

「……はい」

「こんながずっとつづくと、しあわせだねぇって、ふとおもったんだよ」

「ですね」


 なんだかハッキリとはえないけど、ソワソワする。そんな気持きもちをかかえながら、えた。


 このあとは、お義母かあさんはグレンのあさはん準備じゅんびをし、わたしはグレンをこしにく。


 さて、今日きょうはどうやってこしてやろうか……!!


◆◇◆◇◆◇◆◇


 クタクタだ。今日きょうは、いつも以上いじょうひどかった。なにをしても……、ほっぺをつねっても、おデコをっぱたいても、みみをかじってみても、ホントになにをしても反応はんのうがなく、んでいるのかとうたがったくらいだ。最終的さいしゅうてきには耳元みみもとで「火事かじだー!!」って大声おおごえったらきた。


「ご馳走ちそうさん」

「はーい、お粗末様そまつさまでした」


 グレンの挨拶あいさつ台所だいどころから、お義母かあさんが返事へんじをする。グレンは満腹まんぷく満足まんぞくかおだ。……きずだらけだけど。


「ほら食器しょっき頂戴ちょうだい?」


 お義母かあさんは、もうおひるはん下拵したごしらちゅうだ。グレンがべてるあいだは、わたし時間じかんもらったから、このあと交代こうたいして、お義母かあさんに時間じかんをあげようとおもう。


「あ、ああ、まない。はい」


 食器しょっきり、台所だいどころへとってく。お義母かあさんには交代こうたいするってって、居間いまへとかせる。きてからグレンは基本きほんわたしとばかりはなし、お義母かあさんとはあまりはなさないので、はなしをする時間じかんをこうしてつくる。


 はなしをしているこえこえてくる。「私も早く行きたいなぁ」なんておもいながらあらものえ、おひるはん支度したくつづきをしているころ、グレンがんでいるミルクを盛大せいだいしているおとこえた。


「ふふっ。たのしそうでなにより」


 さて、おひるはん下拵したごしらえもほぼんだし、わたし合流ごうりゅうっと。


「なんのはなししてるんですかぁ??」


 こんな日常にちじょうが、きできでたまらない。ずっと、こうしてたいってホントにおもう。だから、今朝けさのお義母かあさんとの会話かいわからつづく、このモヤモヤはそのうちえる。絶対ぜったいに。


 モヤモヤをわすれようと、しばらく談笑だんひょうつづけていた。ホントにめのないようなはなし。そろそろおひるになるし、おひるはん準備じゅんびでも――と、おもはじめたころおおきなかねおと村中むらじゅうひびわたった。


「え!? なに!? なんのおと!?」


いままでいたことのないおとに、一瞬いっしゅんにして恐怖きょうふ全身ぜんしんおそう。


「んな!? 敵襲てきしゅう?? 方角ほうがくは……みなみか!!」


 グレンがさけぶ。敵襲てきしゅう? え、敵襲てきしゅう!?


「トリシュナとかあさんはすぐに村長そんちょういえかってくれ!!」


 恐怖きょうふまさって冷静れいせい判断はんだんは、出来できない。


わたしとお義母かあさんって……、グレン!! グレンは!? グレンは……たたかいにっちゃうの!?」


 そんなのいやだ。一緒いっしょにいてしい。なんて……


「……たりまえだろ! おれたたかえる。……それに、ラズライトとの約束やくそくもあるしな……!」

「……絶対ぜったいに、……絶対ぜったい怪我けがしないでね……!!」


えないよ……。グレンがえちゃいそうだから、はなれないでしいなんて……、えない……。


かってる。おれだって、怪我けがなんかしたくはないさ」


 やだよ……。こわいよ……、グレン……。

 なにえないでいるわたしわりお義母かあさんがくちひらく。


「グレン、あんたもおとこだ。くな

、なんて野暮やぼことわない。ただ……、ただ……! かならず、無事ぶじもどってなさい!!」

「ああ、かあさん。たりまえだろ!!」

「しばらくのあいだ、トリシュナはわたしまかせなさい」

有難ありがとう。かあさん」


 そうして私達わたしたち三人さんにんいえあとにする。てきところへ、全力ぜんりょくはしっていくグレンの背中せなかを、いつまでもつめているわたしに「ほら、くよ」とお義母かあさんはやさしくこえをかけてくれ、村長そんちょういえへとかれた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――村長そんちょう屋敷やしき(指定してい避難所ひなんじょ)。


「えーっと……、まずは……、いまここに辿たどいたものは、怪我けがはないか?」


村人むらびとたちが、そこそこ屋敷やしきへとあつまってころ村長そんちょうがみんなにたい質問しつもんした。


こわいよぉ」

「うぁぁぁぁああん!」

「どうなっちゃうのかしら……」

大丈夫だいじょうぶです」

たすけてぇ」

いたいよぉ!!」

わたし平気へいき

問題もんだいありません」

一体いったいなにがおこってるんですか!?」


 しかし、村人達むらびとたち大半たいはんは、心中しんちゅうそれどころではく、回答かいとうもまちまち。


「トリシュナ」

「はい、お義母かあさん。なんですか?」

「おまえつよだ」

「え……!?」


 そんなことはない。いまだってこわいし、きたいくらいだ。


いまは、わかんないかもれないけど、ね」


 わからない。お義母かあさんは一体いったいなにっているのだろう。


 屋敷やしきの外から、「キィー、キィー」とごえこえてくる。


「なんのごえ!?」

「トリシュナ、よくいて」

「え?」

わたしはここをまもために、そとにいるから、このなか混乱こんらんまかせるよ」

「え!? お義母かあさん!?」


 そとにいるって、なにってるの!?

 またも、なにえないでいるわたしをお義母かあさんはやさしくぎゅっときしめてくれる。


わたしはね、もと兵士へいしなんだ。たたかえちゃうわけなんだよ」


わたしあたますこはなれ、「グレンにもおしえてないけどね」とウィンクをしてそとってしまった。


「うわぁぁあああ!!「そと! そとに! そとにぃぃいいい!!「バケモノ!?「たすけてたすけてたすけて」


 そとごえと、その正体しょうたい気付きづいた村人むらびとたちさわはじめる。

 わたしだってこわい、さけびたい、きたい。…………だけど、そうじゃない。


わたし奮闘たたかいは、ここからはじまる――。


「すうぅぅ――。はあぁぁぁ――」


 まずは深呼吸しんこきゅう自分自身じぶんじしんかせる。


 よし、つぎは。


村長そんちょう

なんだい? トリシュナ」

台所だいどころ、おりしてもいいですか?」

台所だいどころ? ああ、いいよ」


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ごはんく。

 おにぎりをつくる。

 おちゃれる。


いて、ほれ、サクラさんがたたかってくれとる。大丈夫だいじょうぶだから「こわいよぉ「おなかすいたよぉ「やだぁぁあ「なんでこんなことに!!」


 

 村長そんちょうはなしなどみみを持っていない。まぁ、無理むりもない。普段ふだんわたしもどちらかとうとそっちだろう。


「はい! みなさん! ちゅーもーっく!! おにぎり!! べよ!!」


 だけど、いまちがう。グレンがたたかってる。お義母かたさんがたたかってる。わたしだけが、ごとってる場合ときじゃない。


「んー……。ちょっと塩気しおけうすいですねぇ」

「え!?」


だれ


だれだ!! おまえは!!」


村長そんちょうき、こえあららげる。


ぼく? あ、ぼくですかぁ……。ぼくは“ノーリッジ・ウィザキャラ”。以後いごおぼえといてくださいねぇ」


はなしかたとは対照的たいしょうてきにしっかりと紳士的しんしてきにお辞儀じぎをする白衣はくいおとこ。どこまでも巫山戯ふざけたニヤケがおがムカつく。


十年じゅうねん……りですかね、おじょうさん」


十年じゅうねん……り……? なにを……いたっ。あたまが……いたい……。


「さぁて、ぼくあたらしいペットも紹介しょうかいするよぉ」


あたまれそう。なにかをおもせそう……。なんで? わたし、このおとこを……って……いる?


「おいでぇ! 感情君かんじょうくん拾弐号じゅうにごう!!」


かん……じょう……くん……!? ダメ……。あたまが……。意識いしきが…………――。

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