第肆話(C-3):始まる悪夢、終わる夢

激痛げきつうともめる。痛い《いた》。いたい。いたい! いたい!! なにが? なんで? 右手みぎてい。左手ひだりては……い。あしも…………い。


い……。なにい……。ナイ。ナニモ、ナイ。いたい。イタイ。イタイ。イタイ。

 そして私は、ふたた意識いしき手放てばなす……――。


◆◇◆◇◆◇◆◇


つぎめたときには、いたみはさほどく、まわりに意識いしいけることができた。ここは、どこかの研究室けんきゅうしつのような場所ばしょだった。

 さっきのは、ゆめ……。なんかじゃないよな……。

 おそおそる、手足てあしうごかしてみる。しかし、手足てあしは…………やはりい。そのうえなに機械きかいのようなもの身体からだいたところ装着そうちゃくされている。


「な……に、……こ……れ」

「おやおやぁ。きたようですねぇ。おはようございます。いたみはぁ……、大丈夫だぁいじょーぶですよねぇ?」


 コイツは……。いたっ……!! あたまが……。むら……。……!! 村は!? グレンは!? お義母さんは!? 村人たちみんなは……。……どうしよう、こわい……。なにされるの? コイツ……。コイツが……。コイツのせいでみんなが……。……絶対ぜったいに、この白衣の男コイツゆるさない……!! なんとかして、ここから……!! あ……、手足てあしが……。


「お、いですねぇ。いいかんじに感情かんじょう色々いろいろわる」

「え!?」

おしえるの、特別とくべつですよぉ? けている機械きかいは、貴女あなた感情かんじょう観測かんそくするためものなんですよぉ」

「……なんの、……ため

「おやおやぁ? になる? になっちゃう? でもでもぉ、それよりも、って」


にらみつける。はぐらかそうとしているのがかる。


「あひゃひゃ!! ばぁれまぁしたぁ?」

こたえ……てください……!!」

「はぁ……。仕方しかたないですねぇ」


にらつづける。


「いやいや、こわいですねぇ。はいはい、こたえますぅ、こたえますよぉ」


 いちいちムカつく。


改造かいぞう研究けんきゅうですよぉ」

「かいぞう……?」

「そ、貴女あなたたでしょう? 感情君かんじょうくん


 いやらしいみをかべる。

 こわい。

 にくい。

 たすけてしい。

 ころしたい。



 そのから延々えんえんと、コイツとの会話かいわ日々ひびつづく。わたし感情かんじょうするのが目的もくてきらしい。なら、わたし無感情むかんじょう無関心むかんしんであれるよう、つとめよう。コイツに協力きょうりょくなど、絶対ぜったいにしない――。


◆◇◆◇◆◇◆◇


何日なんにち……、何ヶ月なんかげつ……、いや、何年なんねんったのだろう。コイツに感情かんじょうもてあそばれ、える日々ひび。しかし、努力どりょくむくわれずにいた。このおとこわたし感情かんじょう情力じょうりょく使つかい、次々つぎつぎ改造かいぞう感情獣かんじょうじゅうつくっていた。


「おはおはぁ。トリシュナ」

「……」

今日きょうだんまりのつもりぃ? まぁ、いけどねぇ」

「……」

きみ情力じょうりょくは、かなりおおきいからねぇ。すこしでもさぶれれば、それだけでそのへんやつ何百倍なんびゃくばい情力じょうりょく抽出ちゅうしゅつ出来できちゃうのさぁ」


 なにも、おもわない。

 なにも、おもわない。

 なにも、おもわない。


 こうやって今日きょうわたしたたかいははじまる。

 ……はずだった。しかし、それは一人ひとりおとこによって、きゅうに終わることとなる。


「ノーリッジ博士」


 部屋へやそとから、このおとここえこえる。みょう威厳いげんきをくわえたこえだ。


「さて、今日きょうはどんなおはなしにしようかぁ? あれかな? サクラ・フューリアスたい感情君かんじょうくんベビーと、その結末けつまつとか、どぉ?」


 コイツ、つづけるつもりなの!?


「ノーリッジ博士!!」

「あの、そう、ぼくかみをここにれてだよぉ」

「ノーリッジ!!」


 こえぬし部屋へやなかはいってきた。


「はぁ……。うるさいなぁ。なんですか? ドラド皇子おうじ


 ドラド皇子おうじ……? ドラド皇子おうじって、セントグリフォニア大帝国だいていこく第三だいさん皇子おうじ!?


ぼくは、これからトリシュナとおはなし時間じかんですよぉ?」

「まだそんなことを……」

「これは、貴方あなたがたの父上ちちうえ皇帝こうてい “ テーネブリス・フェリーエ六世ろくせい ” の、いてはくにためでもあるわけなんですよぉ?」


 テーネブリス六世ろくせい。グリフォニアにおいて、初代しょだいテーネブリスに独裁者どくさいしゃ名前なまえ間違まちがいない。ここはグリフォニアだ……。


皇帝こうていがなんとおうと、わたしはこのような非人道的ひじんどうてき研究けんきゅうみとめるつもりはない!」

「わかったわかった。めんどくさいですねぇ。それで? ようはそれだけですか?」

貴様きさま!!「おちゅうもうわけありません!!」


 一触即発いっしょくそくはつ二人ふたりあいだに、伝令役でんれいやく兵士へいしはいってた。


いまわたしがノーリッジ博士はかせはなしているとうのに、何事なにごとか!」

つぎからつぎへと……。ここは休憩所きゅうけいじょじゃないんですよぉ?」


 各々おのおの各々おのおの反応はんのうしめす。


殿下でんか!! もうわけ御座ございません。ですが!」


 ここまですごまれてがらないのだから、余程よほど緊急きんきゅうなんだろう。


「わかった。こう」

はなし勝手かってすすめないでくれませんかねぇ。ホントに……」

え」

「はっ。アウレウム城下じょうかのディレノのまちに、やみ厄災やくさい……グレン・フューリアスがあらわれました!!」

「なんだと!? やみ厄災やくさいが!?」

「うっそぉ!! それはかなきゃ!!」


 え!? グレン? きていた!? まちに、いる?


「ごめんねぇ、トリシュナ。今日きょうたのしいお話会はなしかい中止ちゅうしだ」

「すぐに支度したくする。」


 なにかっているが、いまはそんなこと、どうでもいい。グレンがきていた……!! しかもちかくにいる!! ……は、いいけど、やみ厄災やくさい? なに? それ……。


 とにかく、かなきゃ。グレンのところに、かなきゃ!!


 ドラド皇子おうじとノーリッジ、伝令役でんれいやく兵士へいし部屋へやく。……わたしも、わたしかなきゃ!!


◆◇◆◇◆◇◆◇


 どうやってやったかおぼえていない。とにかくグレンのところきたくて無我夢中むがつちゅうで、気付きづけば手足てあしえていた。気付きづけばここまで来ていた。


 ディレノのまちは……まるで地獄じごくのようだった。大量たいりょう怪我人けがにん死人しにん……。感情獣かんじょうじゅう死骸しがい……。感情獣かんじょうまで、ということは、やったのは、グレン……、だろうか……。


 いや、いくら敵国てきこくだとはえ、グレンが無関係むかんけいひと危害きがいくわえるわけがい!! もしかしたら感情獣かんじょうじゅうあばれ、まち人達ひとたち危害きがいあたえて、それをグレンが討伐とうばつをしたのかもれない。そうだ。きっと……そうだ……!!


「あの、すいません」


 遠巻とおまきから、その地獄じごくながめている男性だんせいこえをかけてみた。


「はい。ってうぉ!!」

「え?」

「あんた、なんでふくきてないんだ!?」


 あ……。ずっとこのままなのがつづいていたせいで、ふくていないってことをわすれてた……。


「と、とりあえずこの羽織はおりでも羽織はおっててくれ」

「あ……」


 男性だんせいは、「のやりこまる」と、自分じぶんにつけていた羽織はおりを、そっぽをきながら差出さしだしてきた。

 このひとやさしいひとかった。


「ありがとうございます。それで、すこしおはなしいいですか?」

「ああ、なんだい?」

「これは、なにきたんですか?」

「あー、これな。おれっち全部ぜんぶてたんだけどよ……」


 ……やっぱり、ひと感情獣かんじょうじゅうも、……グレンの仕業しわざだった。

 わたしらえられてるあいだにグレンは、“ やみ厄災やくさい ” とばれるほど世界せかいわざわいをもたらしていた。

 めなきゃ……、わなきゃ……。わたしが……グレンを……――。


 どれだけ時間じかんをかけてでも、どんな手段しゅだん使つかってでも――。

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