第參話(B-3後編):感情獣と感情獣〝燃えゆく村〟

 やはり、むら陥落かんらく皆殺みなごろしがねらいではないか。

 ……! だとすると、これは陽動ようどう!?


今更いまさらがついたところで、もうおそい」

「ブォオオオオオオオオオオオ!!!!」


 なにかの雄叫おたけびがとどろいた。こえてきた方角ほうがくくない。避難所ひなんじょになっている村長そんちょう屋敷やしき方角ほうがくだ……。


「フェニクサの兵士へいしよ。もうすこおれおどってもらおうか!?」


 ふたたび、瞬足しゅんそくともえるはやさで間合まあいをめてくる。

 今度こんどえている……!! 此奴こいつはやくどうにかして村長そんちょう屋敷やしきかわなくては……!!


 ひだりからされる攻撃こうげきけ、つづみぎ攻撃こうげき感情刀かんじょうとうはらう。しかし黒装束くろしょうぞくもそれではわらない。いきおいをころさず、そのまま膝蹴ひざげりをしてくる。が、そのひざだいにし、おれがる。黒装束くろしょうぞく背後はいごり、そのままきざまにける。


「だぁ!!」

「ちぃっ!」


 すんでところかわされる。半歩はんぽみがりなかった。そのままのいきおいで左上ひだりうえから右下みぎした感情刀かんじょうとうろすが、これもかわされる。しかし、おれまらない。ろしたいきおいのまま、右回みぎまわりをかます。そして、これがようや相手あいてとらえる。


「うぐっ!」

とらえた!」


 たたける! と、その時……。


「ブォオオオオオオオオオオオ!!!!」


 もう一度いちど雄叫おたけびが聞こえてきた。

 には、なる。しかし、いまは!!

 と、黒装束くろしょうぞくかる。が、先程さきほどまでとは、比較ひかくにならないはやさとちから感情刀かんじょうとうはらわれる。


「フェニクサの兵士へいしよ。残念ざんねんだが、きみのおあそびにうのはここまでだ。またあそんでやろう」

「なっ!? て!!」


 うなり、黒装束くろしょうぞく文字通もじどお姿すがたした。

 してやられた……。やはり、時間じかんかせぎだったか……。


 後悔こうかいしている場合ばあいではい。村長そんちょう屋敷やしきへ、はやかなければ。


たのむ! ってくれよ!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇


 またも全速力ぜんそくりょくはしる。

 色々いろいろ訓練くんれんをしてきたし、体力たいりょくもかなりいたとかんじていたが、やはり実戦じっせんおもっていたよりも消耗しょうもうした。

 ようや村長そんちょう屋敷やしきえてきた。


 あせ気持きもちをおさえろ……おれ

 感情かんじょうおさえろ、支配しはいされるな、制御せいぎょせよ。ハリフにはい散々さんざんかされた言葉ことばあたまなか反復はんぷくする。


 まずは、みんなだ。避難ひなんしゃたちを、安心あんしんさせるのも、ぐんの……、おれ役目やくめだ。

 村長そんちょう屋敷やしきく。


「フェニクサりゅう剣技けんぎ、其乃五 “ 造次顛沛ぞうじてんぱい ”!」

「!? サクラさん!!」


 屋敷前やしきまえでは、サクラさんが小型こがた感情獣かんじょうじゅうたたかっていた。


「ラズ! ちょっとってね。此奴こいつら、片付かたづけるから!」

「え? いや……」


 普通ふつう武器ぶきでは、感情獣かんじょうじゅうたおせない。と、つたえようとしたが、サクラさんは一瞬いっしゅんはやく、


ほこれ “ ソメイヨシノ ”」


 感情刀かんじょうとう解放かいほうした。こちらにけ、ニコッと笑顔えがおけてくる。


気高けだかえ、こぼざくら


 綺麗きれいあざやかだった。刀身とうしんからあふ桜色さくらいろかがやきが、剣速けんそくのあまり残像ざんぞうし、それはまるで満開まんかいさくらからこぼれるはなびらのようちゅうう。


「ラズ! 雄叫あたけびは此奴こいつらじゃない! なか心配しんぱいだから、てきて頂戴ちょうだい

「!? かりました! おけて、サクラさん!」


 サクラさんは気丈きじょう振舞ふるまっているが、ながしている。無理むりをしているのだろうが、おれ心配しんぱいさせぬようにしているのはかる。それに、戦士せんしをしていた。ここでこれ以上いじょう言葉ことばけるのはかえって失礼しつれいだろう。屋敷内やしきない不安ふあんのぞこと集中しゅうちゅうしよう。


 屋敷やしきはいろうととびられたとき屋敷やしき瓦解音がかいおん雄叫おたびとともこえてきた。


 ちぃ! 遅かったか……!


 すぐよこかべ瓦解がかいする。轟音ごうおんとも姿すがたあらわしたのは、小型こがた感情獣かんじょうじゅうらしながらにトリシュナをにぎりしめている大型おおがた感情獣かんじょうじゅうだった。


「クソッ!! トリシュナ!!」


 らされた小型こがた感情獣かんじょうじゅうかずおおい。さすがにサクラさん一人ひとりたかせるわけには……。


「ラズ!! そのままいなさい!! ここはいからはやく!!」

「ですが!!」

「トリシュナを!!」

「だけど!!」

「行け、ラズ!! おまえ大事だいじなものはなんだ!!」


 トリシュナ……!!


「サクラさん!!」

心配しんぱいしなくても、ここはわたし一人ひとり充分じゅうぶん


 サクラさんのこと勿論もちろん心配しんぱいだが、いまはそのサクラさんの言葉ことばあまえさせてもらう。


 もりへとかった感情獣かんじょうじゅうい、おれとりむかい、ひたすらはしる。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「クソッ!!」


 かれた小型こがた感情獣かんじょうじゅうが、ふさぐ。いま感情刀かんじょうとう解放かいほう出来できていないおれでは、一体いったいたおことすら時間じかんがかかる。


「ははっ……のこってもやくたなかったってことだよな、これ……」


 自嘲じちょう気味ぎみにもなる。それだけサクラさんはつよいわけで、おれよわいということだ。


「なーに弱気よわきになってんだよぉ! クソ隊長たいちょう!」

「……アイス!?」

「なんだよ? おれきてんのが不満ふまんか? おれもアウイン先輩せんぱいけるとおもってたってか?」

「そんなことは「ないってぇーなら、ここもおれまかせとけ。かなきゃなんだろ?」

何故なぜってるのか。アウイン先輩せんぱい情能力じょうのうりょくで、だいたいこったことはった。そんで、こっからはおれ意味いみ寄越よこせ」

意味いみ?」

「ラズにはまだってねぇんだったな。これがいたらしゃべっからよ、とりあえずここはおれまかせてけ」

大丈夫だいじょうぶ、なのか?」

「はっ!! だれかってってんだよ!! おれは、アイス・パースランド!! おまええらんだ、ラピスラズリの一員いちいんだろぉが!!」


 アイスの感情刀かんじょうとうひかり宿やどる。


め!! “ ヴァニタス ” !!」


 刀身とうしん透明とうめいになる。


れ……ヴァニタス・インペトゥス!!」


 さけびながら小型こがた 感情獣かんじょうじゅうっていく。くちからひかりけてえていく。


はやけ!! クソ隊長たいちょうさんがよぉ!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「やっと……いついた……!」


 と、うよりもせられていた。と、ほうただしいだろう。


「フゥゥウ……ブォォオオオオオ!!!!」


 などとおもったら、きゅうかえりこれだ……。雄叫おたけびとともはなたれた情力咆じょうりょくほうに、左半身ひだりはんしんかれた。感覚かんかくくなっていく……。


 しかしまらない、まれない。サクラさんのやさしさも、ラピスラズリのあつさも、もらっている……!


「この程度ていどで、きっ!! がれるかぁ!!」


 感情刀かんじょうとうにぎちからこもる。そのままいきおいで感情獣かんじょうじゅうはらへとかる。が、あさい。


「グォオオオオオ!!」


 ぱっくりとけたはらからす。いたみの雄叫おたけびをげ、情力じょうりょくえるつめなぐりかかってくる。それを感情刀かんじょうとうでいなし、ふところからくびねらげる。しかし、これもあさい。感情獣かんじょうじゅう口元くちもとふたたあかきらめく。ほのお情力咆じょうりょくほうる。この位置いちからではおそらくけられないだろう。

 ならば、いたけだとしても……!!


「オオオオオオオオン!!」

「うぉおりゃぁあ!!」


 くびから下顎したあごす。うしな ったほのお情圧じょうあつは、そのまま口腔内こうくうない暴発ぼうはつする。感情獣かんじょうじゅうおれぶ。それでもやつはまだ、トリシュナをはなさない。


 おたがふたたがり対峙たいじする。感情刀かんじょうとういま解放かいほう出来できていないが、情力じょうりょくを込めることは出来できる。

 ……トリシュナをにぎるそのうでとしてやる!!

 そうめ、もうとしたが、きゅうこえおどろ くことになる。


「トリシュナ!!」


 おいおい、まさかだろ?


「グレン!?」


 て! いまじゃない!


「……かえせ!! トリシュナを!! かえせぇええ!!」


 おいおいおいおいおいおい! ノゼアンはなにを!?

 と、ノゼアンがグレンをってているのがえた。


「ノゼアン!! グレンをめろ!!」

かってるっす!!」


 しかしおそかった。グレンの感情かんじょう暴走ぼうそうしている。おびただしいほどねつが、グレンを中心ちゅうしんあたりをはじめる。

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