第肆話(B最囚話):〝燃えるグレン〟〝囚われし魂〟

 あの未来視みらいしの、そのさき……。これが、か? あまりにもむごすぎる……。おれは……えられなかったのか? 未来みらいを……。


 制御せいぎょうしない、いかりに支配しはいされたグレンの情力じょうりょくは、おれ感情獣かんじょうじゅうもノゼアンも、……そしてグレン自身じしんをも、ほのおいていた。そのほのおがグレンへ集束しゅうそくし、いてきたころ、グレンの姿すがた変貌へんぼうしていた。


 ――そもそも感情獣かんじょうじゅうとはなんなのか。

 ――暴走ぼうそう情力じょうりょくれのて。

 かんがえないようにしていた。その “ 意味 ” を。ようするに、感情かんじょう生物いきものが、その感情かんじょう……情力じょうりょく暴走ぼうそうさせ、制御せいぎょうしな感情かんじょう支配しはいされる。そうして情力によって姿すがた変貌へんぼうさせた、わば “ 化け物バケモノ ” が感情獣かんじょうじゅうだ……。

 人間にんげんがそうなることとて、例外れいがいではない、ということだ。

 感情獣グレン……その真実しんじつまえる。


 インパラのようなつの、コウモリのようなはね、トカゲのようなにグリズリーのようなつめ、……そして、全身ぜんしんまとほのお完全かんぜん人外じんがいだ。おに悪魔あくまか……。しかし、まだ完全かんぜんには固定こていされてはいないだろう。もともどすなら、いましかない。さいわ感情獣かんじょうじゅうほう先程さきほど感情獣グレンほのおひるんでいる。


「ノゼアン、すこしのあいだい、あっちをたのめるか?」

おさえとくのが精一杯せいいっぱいっすからね!」

たすかる……!」


 感情獣グレン正面しょうめんから対峙たいじする。その瞬間しゅんかん感情獣グレンおれ目掛めがけてきをましてくる。……一切いっさい躊躇ちゅうちょがない。本能ほんのうのまま、感情かんじょう支配しはいするまま行動こうどうする、それが感情獣かんじょうじゅうだ。……いまのグレンはそのうごきがただしいというわけだ。

 、それはおれにとって予想よそうどおうごきというわねだ!!


 すんでけ、一思ひとおもいにとす。のある生物せいぶつうのは大概たいがい場合ばあいとされればバランスをくずす。だから此奴こいつとせばバランスをくずし、たたけられるはずだ。

 などとは、かんがえていない。此奴こいついまができたばかりなので、それでバランスをっているわけでははずだ。

 攻撃こうげき仕掛しかけてくる。


予想よそうどおりだ」


 それをかがんでかわす。空振からぶことにより、バランスをくずしたところではねとす。


「っだぁあ!」


 いまおれがしていること感情獣グレンをなるべく人型ひとがたちかづけること以外いがい意味いみたない。


「グレェエン!!」


 これでもどるという保証ほしょうは、ない。

 いままで、ひと感情獣かんじょうじゅうになったとはなしも、そこからひともどったというはなしも、いたことすらない。

 これは、ただの “ ねがい ” だ。


 破壊はかい再生さいせいかえす。再生すはえれば、それをとす。はね再生すはえれば、それをとす。つめ再生すのびれば、それをとす。つの再生すのびれば……

 何度なんど何度なんども、何度なんど何度なんども、かえす。

 次第しだいに、感情獣グレン再生さいせいおそくなってきた。

 おれすで満身創痍まんしんそういだった。さき感覚かんかくくしていた左腕ひだりうでは、いまうでかたちたもっておらず、横腹よこはらえぐれ、いた箇所かしょ切傷きりきずからは大量たいりょうながしている。気迫きはくだけでっている。とっても過言かごんではない。


 そして、感情獣グレン相当そうとうよわってているのはかる。はねつめ再生さいせいしていない。


「い……ける……か」


 のこつのとす。


「ぉぉおおおおおお!! もぉどぉおおれぇぇえええええ!!!!!」

「アガァァアア!!」

「う……そ……だろ……」


 はねつめつのも、すっかり元通もとどおりになっている。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 もっと、もっと、もっと、もっと、ちからを《つ》けるべきだった。


 ネモフィラ中隊長ちゅうたいちょうたよことも、すればかった。


 ラピスラズリのみんなを、もっとしんじ、サクラさんをしんじ、なや時間じかんすこしでもけずっていたなら。


 トリシュナは、られず、グレンはこうならなかったかもれない。


 トリシュナをたすけること出来できず、グレンをすくうことも出来できず。


 すべて、全部ぜんぶなにもかも、つよくなれなかった、おれわるい。


 おれが……、おれが……。


 自責じせきねんられる。


 おれつよければ。もっと信頼しんらい関係かんけいきずいていれば。おれが……。おれが……。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 おれつよければ……


 ――つよければたすけられたのか?


 おれつよければ……


 ――ちからほっするか?


 おれが、ちからっていれば……


 ――ちからほっするなら、ここにるだろう。


 そうだ……。ちからなら……!!


◆◇◆◇◆◇◆◇


 刀身とうしんつよひかりともる。


しずむは失意しつい見据みすえるは未来さき……」


 ひかりやさしく群青色ぐんじょういろへと変化へんかする。


「…… “ ムスカリ ” !!」


 ひかり刀身とうしん馴染なじき、刀身とうしん群青色ぐんじょういろに染まる。


 感情刀かんじょうとう情力じょうりょく解放かいほう満身創痍まんしんそうい心身しんしんとも限界げんかいちかい。


 これで……なんとかなってくれ……!


「フェニクサりゅう剣技けんぎ、其乃三……一日万機。ぉぉおああああ! グレェン!!」


 いたみはえろ、グレン。

 つのり、とし、はねき、つめぐ。


「うぁ……ぁ……ぁ、っ……てぇ、な……ラズ……ライ……ト……」

「グレン!? グレン!!」


 グレンの意識いしきもどけている。

 

「グレェェェエン!!」

つっす! ラズライトくん!!」


 ノゼアン、まない。まるわけには、いかないんだ……。

 一気いっき距離きょりめ、最期さいご一振ひとふり。


「ぶふぉあ……」


 やいばがグレンにたっしたのと同時どうじに、再生さいせいしていたつめで、そしてのこほのおあつまとわせた、そのつめで、どうつらぬかれた。


「ラズライトくん!!」


 ノゼアン……まない。


 視界しかいかすむ。


 これはさすがに無理むりだろう。どうにもならない。


 おれたおむよりもすこはやく、グレンがたおれていくのがえる。


 たおれたグレンは、再度さいどほのおつつまれ、そしてそのほのおると、もとのグレンにもどっていた。


「あぁ……かった…………。ノゼ……ン。ま……が、このあ……も、たの「しゃべんのめるっす! けるっす! わなくてもかるっす! ちこたえるっす!」


 意識いしきとおのいていく。もう時期じきぬ。


 かるもんなんだな、ぬのって。


「ダメっす! 意識いしきつよつっす! こんなとこで! こんな……


 みみが、こえなくなった。も、えなくなった。


 全身ぜんしん感覚かんかくえていく。


「グレン、トリシュナを、たのむぞ」


 こえになっただろうか……? グレンは目覚めざめるだろうか……。



  〜




◆◇◆◇◆◇◆◇


 意識いしき覚醒かくせいする。


 ――おれんだ。


 ――はずだったが、死後しご世界せかいというものなのだろうか? そのはなししんじてはなかったのだがな……。


 ――しろ空感くうかんまわりにはなにい。なにも、い。


 ――っているのか、ちゅういているのか、まえいているのか、したいているのか……。


 ――そんな感覚かんかくすらからない。自分自身じぶんじしん姿すがたすらまったえない。身体からだがある、という感覚かんかくだけは、あるとうのに。


 ――只々ただただ意識いしき状態じょうたいで、何程どれほど時間じかんぎたのかもよくからない。数時間すうじかんなのか、数日すうじつなのか、はたまた、数年すうねんなのか……。


「ごめんなさい。おにいちゃん」


 ――ふと、トリシュナのこえこえたがした。

 ――しかし、おれこえせない。……いや、ただしくはせているのかどうかがからない。


「こんなつもりじゃ、かったの。ただ、グレンをすくいたかっただけだった……」


 ――こんなつもり?


「うん。あっ、もちろんおにいちゃんもたすけたかった」


 ――それはこのさいどうでもいい。この状態じょうたいはどういうことなんだ……?


わたし情能力じょうのうりょく所為せいでおにいちゃんは……


 なに!? おい! トリシュナ!?


 肝心かんじんなところがこえなかった。


 そしてトリシュナのこえこえなくなった。


 て! ってくれ!! トリシュナ!!


 返事へんじは、かった。


 そしてそのまま、二度にどとトリシュナの声はこえることなく、意識いしい途絶とだえることもく、ただ只々ただただとき経過けいかする感覚かんかくだけが、おれ意識いしきむしばんでいった。

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