第壹話(B-1後編):知らない未来〝旅立ちの朝に〟

 意識いしきだけの世界せかいおれは、そこにるらしい。

 だだっぴろしろ空間くうかんけ、いま何処どこかのもりなか風景ふうけいえている。



 ……ここは、何処どこもりだ?

 ん!? なにかがうごいた!! 黒装束くろしょうぞく集団しゅうだん? なにかとたたかっている……。あれは、感情獣かんじょうじゅうか?

 大方おおかた感情獣かんじょうじゅうは、いびつで、大目おおめたとしても醜悪しゅうあくだ。それなのに、この感情獣かんじょうじゅうは、姿すがたがかなり洗練せんれんされている。

 黒装束くろしょうぞくたちが、両手りょうてかまえた短剣たんけんで、次々つぎつぎ感情獣かんじょうじゅうへとかるが、きずひとけられずにばされていく。それもそのはず感情獣かんじょうじゅうは、感情刀かんじょうとうでしか……、いや、そうではいな。 “ 暴走情力ぼうそうじょうりょくれのて ” である感情獣かんじょうじゅうは、おなちからつ、情能力じょうのうりょくければ、ころせない。きずひとつすらけることはかなわない。


 と、きゅう場面ばめんわる。先程さきほど夕刻ゆうこくだったが、今度こんど真昼まひるだ。先程さきほど黒装束くろしょうぞくたちが、しげみにそのかくしている。視界しかいおそらく黒装束くろしょうぞく一人ひとりだろう。視線しせん地面じめんからきゅうがる。

 くっ。いそうだな、これ……。ん? 此処ここは……? サパンウッドか? いや、間違まちがいない! グレンだ。トリシュナもる!

 視線しせんはトリシュナをいかける。

 ……トリシュナをねらっている? そもそも、これはなんだ? ……未来視みらいし


 ふたた場面ばめんわる。

 しの意識いしきに、これはキツい……。くるいそうだ。

 トリシュナが先程さきほど感情獣かんじょうじゅうにぎられている。

 グレンがられる。おれられている。むらかれている。

 ……こんなもの、みとめられるか!!


◆◇◆◇◆◇◆◇


「なん、だ!? いまのは……!」

「え? きゅうにどうしたの、おにいちゃん」


 時間じかんっていないらしいし、おれにしかえてなかったらしい……。トリシュナが不安ふあんにならずにんだのなら、それにしたことはない。


 先程さきほど未来視みらいし……。えていた風景ふうけいから推測すいそくすると、恐らく今より二、三ヶ月先の話だろう。しかし、 “ 未来視みらいし ” ……。いたことはあるが、経験けいけんしたのははつだ。信憑性しんぴょうせいうすいが、いまのがただおもちがいだとてるには、あまりにもハッキリと記憶きおくいている……。


「おにいちゃん?」


 マズイ! かんがんでしまっていた……!! 不安ふあんにさせないように誤魔化ごたかさなければ。


「あ、ああ、わるい。いやぁ、トリシュナのむねおおきくなったなぁって、感動かんどうしただけだ!!」


 適当てきとうに、なかのいい兄妹きょうだいらしく、冗談じょうだんってみた。なかのいい兄妹きょうだいらしく、だ。



 バチン! というおといえそとまでひびく。あくまでも自然しぜん家族かぞくあさ風景ふうけい旅立たびだちはもうすぐ――。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 出発しゅっぱつ昼過ひるすぎ。よる首都しゅと “ ベニバナ ” へと到着とうちゃくする予定よていだ。


 そして現在いまは、丁度ちょうどひるけられあつまれるみんな見送みおくりをしてくれるのが、このむら風習ふうしゅうだ。見送みおく場所ばしょとなる北広場きたひろばへ、もなく到着とうちゃくする。


みんなはやいなぁー」


 むら人口じんこうおおよひゃくにん程度ていどだが、そのうちやく六割ろくわり広場ひろばあつまっている。


「ラズ!」

「ラズライト!!」


 ひとふた歳下としした悪友ともたちが、おれ気付きづ近寄ちかよってくる。


「おう! おまえら! ちゃんと見送みおくりにてくれたんだな」

たりまえだろ」

「くだらねぇことってんじゃねぇよ!」


 悪友達こいつらともしばらえなくなる。とかんがえると、すこさみしい気持きもちに…………は、まったくならないな。


「「頑張れよ! ラズ」ライト!」

「おう! おまえらも鍛錬サボんなよ!!」

「ラズ」

「サクラさん!」


 “ サクラ・フューリアス ” さん。グレンの母親ははおやだ。このひとと、グレンの父親ちちおや “ フチ・フューリアス ” さんが、七大国戦争ななたいこくせんそう現在げんざい一時休戦いちじきゅうせんへとみちびいた今代こんだい英雄えいゆうだ。サクラさん本人ほんにんかくしているようだし、グレンはらされていないようだが。


「ラズも立派りっぱになったねぇ!!」

「なんだかんだ面倒めんどうてくださったサクラさんのおかげですよ!!」

たいしたことなんかしてないよ」

「ここ一年いちねんなんて、トリシュナがずっとご迷惑めいわくをおけしてます」

迷惑めいわくことなんてなにもないよ。むしろわたしほうがお世話せわしてもらってるくらいよ?」


 六年前ろくねんまえかあさんがくなってから、なんだかんだとくしてもらっている。


「ま、トリシュナの事は、私とグレンに任せて、ラズは精一杯頑張ってきなさいね」

「はい! 有難ありがと御座ございます!!」

「じゃあわたし仕事しごととどるわね! グレンたちは、多分たぶんもうすこししたらるとおもうけど」

「まぁ、グレンですからね」


 サクラさんと二人ふたりかお見合みあわせながら、あきれた笑顔えがおつくる。


 仕事しごともどるサクラさんを見送みおくり、けば、ちょっとしたおまつさわぎになっているまわりを見渡みわたすと、村長が居た。


「あ、村長そんちょう!!」

「うむ。ラズライト、このくに未来みらいために、頑張がんばってくるんだぞ」

まかせてください!!」

「おまえとうさんは、それは立派りっぱ戦士せんしだった。あれは、十年じゅうねんまえだったか……」


 村長そんちょうひとだ。それに、とし見合みあうだけの、風格ふうかくそなわっている。ひとつだけ難点なんてんなのは………………、はなしながいということだ。年々ねんねんはなしながくなっている。


「…………おまえにもそのながれている…………」


 悪友ともたちは、ニヤニヤと「ざまぁみろ」とかんがえていそうなかおで、遠巻とおまきにこちらをている。……たすけろよ。


「……じゃから、おまえさんにもそのが……」


 さっきいたな、そのくだり……。

 と、すことおくから、こえこえてきた。


「ね、ころぶってばぁー!!」


 トリシュナのこえだ。ようやたか。


村長そんちょう! 有難ありがと御座ございました!!」

「はっ!! また長話ながばなししてしまったか」


 村長そんちょうは、まだなにかブツブツいながらっていった。

 自覚じかくはあったんだな……。さて、なんとかしてグレンにはなしをしたいが……。むずかしいだろうな。


おそかったなぁグレン、トリシュナ! 出発しゅっぱつまでにわないかとおもったぞ」


 どう、そうか。トリシュナはおそらくはなれはしないだろうな。トリシュナを不安ふあんにはしたくない。


「ま、大方おおかたグレンの寝坊ねぼうだろうけどな!」


 とりあえずは、いつもどおりに、だ。


「ああ、そうだよ! わるかったな!! ったんだからいだろ!!」


 ……ダメだ。トリシュナがぴったりグレンにくっついている。すべてをはなすタイミングはないな……。仕方しかたがない……。


「お? 喧嘩けんかか?」

「やれやれ……、またかい。なに今日きょうまでやらなくても……」

「いいぞー! やれやれー!!」


 おれとしては、真顔まがおなだけだったのだが、まわりにはおこっているようにえているらしい。このままこの状況じょうきょう利用りようするとしよう。


 グレンにかおせる。グレンのかお一瞬いっしゅんこわばったのを見逃みのがさなかったが、まぁそれは、おくれてきた此奴こいつわるい。


「トリシュナを、たのむぞ……! 絶対ぜったいまもってくれ」


 まわりがこえうるさい。最後さいごまでこえただろうか……? これ以上いじょうはトリシュナがあやしむ。こえたかの確認かくにんれない。つたわっててくれ。といのるばかりだ。


「なんだよ! わりかー?」

「当たり前だろ!! こんなにまで、馬鹿ばかみたく喧嘩けんかなんかするかよ!」

「つまんねぇーな!」

「おまえらをたのしませるつもりなんかねぇーよ!」


 平常へいじょうをしっかりとよそおい、みんなわかれをげる。


「さて、じゃあそろそろってくる」


 みんな口々くちぐち応援おうえん言葉ことばけてくれる。


 おれおれでしっかりちからをつけて、あの未来みらいえてやる――。

 

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