第參話:落ちる村、猛る紅蓮

 ――がないことなど、はじめからかっていた……。それでも一縷いちるのぞみを、……奇跡きせききるのをしんじるしかかった……。

 この村サパンウッドにはぐん駐屯地ちゅうとんちい。一番いちばんちかくの町である “ アカネ ” の駐屯地ちゅうとんちから派遣はけんされてたとしても、到着とうちゃくまでにははやくて半日はんにちはかかる。そもそもが基本的きほんてき敵襲てきしゅうなど想定そうていされていない。だからいのるしかない。だがたすけは多分たぶんない。

 ……はずだった。しかし、結果けっかからえば奇跡きせききたのだ。


 おれがやられるよりもはやく、ぐん到着とうちゃくが、った。


◆◇◆◇◆◇◆◇


 ――数分前すうふんまえ


 けるはらうも、とうとう限界げんかいおとずれ、一瞬いっしゅんれてしまった瞬間しゅんかんりつけられ、肋骨ろっこつれて、出血しゅっけつ大量たいりょうにし、ふらふらとたおれる寸前すんぜんに、そのこえこえた。


「グレン!! よくちこたえた!!」


 それは、おぼえのある、そして安心あんしん出来できこえだった。


「ラズ……ライト……!?」

「ああ、そうだ。おれだ! 有難ありがとう……。有難ありがとうグレン、ここまでちこたえてくれて!! ここからは俺達おれたち出番でばんだ! あとまかせろ!!」

「ああ……、ぐん……。に……っ…………」


 疲労ひろう安堵あんどくわえて大量たいりょう出血しゅっけつ……。そこでおれ意識いしき途絶とだえた。


◆◇◆◇◆◇◆◇


「……。ラズライト!!」


 ガバッ! とがる。同時どうじ身体中からだじゅう激痛げきつうはしる。


「っ!!」

「ちょっ! なにしてんすか! うごいたらいたいにまってるっす……!」


 きゅうましたため意識いしき朦朧もうろうとし、視界しかいもまだかすんでいる。


「……あんたは?」

「ラズライトくん同期どうきっす」

「ラズライトの……」


 ――ラズライト!!

 ハッとなる。こんなところている場合ばあいではない。もどらなくては! もどってラズライトに加勢かせいを!!


「いやぁ、かれすごいっすよねぇ。たったの半年はんとし小隊長しょうたいちょうに……って、なにしてんすか!」


 まどからそとながら、おれまぎらわすためか、そと状況じょうきょうにはれずに、他愛たあいのないはなひをしはじめるラズライトの同期どうきをよそに、おれがりそとこうとする。


きるまで、面倒めんどうをかけました。有難ありがと御座ございました」

「いやいやたいしたことはしてねっす。じゃなくて!! うごいていい身体からだじゃないっすよ!!」


 馴染なじみやすく、はなしやすい。おどけてせてはいるが、しっかりとこちらを観察かんさつするゆるめない。――あなどれない。


「えっと、おれ……どのくらいてましたか?」

「ほんの三十分さんじゅっぷん程度ていど……って、だから!!」


 三十分さんじゅっぷんてただと……!? クソっ。状況じょうきょうは? むらはどうなった?


「ダメっすよ! まだそと危険きけんっす!」


 制止せいしかず、おれはそのままとびらをかける。「ダメだってば!」とわれてもまらないおれのすぐあといかけてくる素振そぶりはせつつも、それでも無理むりやり身体からだおさえてでもめないのは、おれ身体からだがそれだけ悲惨ひさん状態じょうたいなのだろう。自身じしん身体からだだ、われなくてもかる。


 そして、そとおれたものは、地獄絵図じごくえずだった。


「な……んだ……これは……」

「ああ、ほら。これから説明せつめいするところだったっす。なのにしちまうもんっすから……。こんなもん、こころ準備じゅんび出来できてないうちにるもんじゃねぇっす……」


 村人むらびとたちも、ラズライトの仲間なかまであろうへいも、挙句あげくては、あの黒装束くろしょうぞくたちすらも、だらけの肉塊にくかいとなってそこらにらばっていた。



 げた肉塊にくかい異臭いしゅうと、すみした家屋かおくにおいとで、せるほどに……、おおよ数刻前すうこくまえまでのむら様子ようすなどかげもないほどに、ちていた――。



って……たんですね……」


 ギリっと、をかみめながらラズライトの同期どうきにらむ。このひとわるわけではないいのはひゃく承知しょうちで、わばたりだ。


さきわなくてすんません。ラズライトくんからきみまかされたので、身体からだだけでなく、こころまもろうと、なやぎたっす……」


 このひとやさしい人だ。おれことあんじての言動げんどうであることつたわってくる。だが、いまおれにはこころおくまでとどかない。


「……トリシュナは? かあさんは? ラズライトは?」

「トリシュナってひとも、きみのおかあさんもどなたかからないから、なんともえないっす。ただ、げることの出来でき数名すうめいむらそともり小屋こや避難ひなんしてるっす」

「ならそこにれていけ! ……あ、いや、れてってください」

「……かったっす。ただ、いまその身体からだでの戦闘せんとう絶対ぜったい無理むりっす! もしも、てきのこりがいたら、絶対ぜったい自分じぶんまかせるって約束やくそくするっす」

かりました」


◆◇◆◇◆◇◆◇


「良かった、グレン!! ちゃんときてたんだね」


 小屋こやくとベッドにかされたかあさんがいたた。おれこと心配しんぱいしてくれているが、何故なぜかあさんもかなりボロボロだった。いのちには別状べつじょうさそうだが、かあさんたちおそわれたのだろう。

 クソ!! ……おれ意識いしきうしなったりしなければ……そしたら……かあさんはこんな怪我けがをしないで……。


「あのねぇ、グレン? あんたがたところで、状況じょうきょうたいしてわったりなんかしてなかったから、おもめないのっ」


 パンッとたたく。ここはさすが母親ははおやったところだろう。顔色かおいろだけでおれかんがえなんてお見通みとおしなわけだ。


「そうだ、かあさん。……トリシュナは……?」


 質問しつもんげかけた途端とたんかあさんだけでなく、ここにいるみんなくちざした。


「ごめんね、グレン……」

「は……? なんだよかあさん、ちゃんとおしえてくれ……!」

「うん……。トリシュナは……」


◆◇◆◇◆◇◆◇


 いかり。その一言ひとこときる。つけして、もどす。そしてそいつをころす。それしか最早もはやかんがえられない。


つっす! 無理むりっすよ! きみったところでどうにもならないっす!!」

「だからって!! ほうっておいたって状況じょうきょうは!! わらないだろ!!!!」


 ラズライトの同期どうき必死ひっしおれめようとしてくる。だがまれない。まるがない。もう三十分さんじゅっぷんはしつづけている。しかし、不思議ふしぎいきれてない。全速力ぜんそくりょくはしつづけているにもかかわらず、だ。それほどいかり ” がまさっている。「トリシュナはさらわれた」その事実じじつが、おれをここまでてる。


「いた!!」


 つけた!! いついた!! ラズライトがボロボロの姿すがた応戦おうせんつづけていた。バケモノとたたかっていた。そのバケモノのには……、


「トリシュナ!!」


 いとしい恋人こいびとにぎられていた。


「グレン!?」


 ラズライトが、おれ気付きづく。

 さっきまでも、たしかに “ いかり ” をかんじていたが、バケモノのにぎられ、意識いしきうしなっているトリシュナがえたときいかりは頂点ちょうてんたっ限界げんかいえ、激怒げきどをもすらえ、“ 憤怒ふんぬ ” へといたった。



 限界げんかいえたいかりは、ひとおににする。くるおにごとたける。思考しこう人間にんげんらしさもて、ただえる――。


「……かえせ!! トリシュナを!! かえせぇええ!!」


 おれ咆哮ほうこうが、もりなか谺響こだまする。

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