終話 如月さんは知っている

式場から出てきた霊斗と雪菜を見て、さすがの俺でも涙腺が緩む

…ああいやこれは汗だ。全く暑くて敵わんな

まぁ、ガッツリ冬なんすけど



「生き返った甲斐があるぜ」


「全くだね。君にとっては特に」


「ちゃんと約束も果たせたしな。結婚式までには戻るってやつ」


「余裕を持って戻れてたけどね。いや、あの場合霊斗が遅すぎるのかもしれないけど」



いつの間にか呼び名が変わっている…

まぁ、あの2人は既に婚姻届は提出しているわけだから苗字は変わってるしな、2人とも緋月呼びじゃあ面倒か



「ライスシャワーか。炊飯器から直接ぶつけるか」


「炊き立てではないよ?生米だからね?というか火傷するよさすがに」


「冗談だ」



直後、聞き慣れた音が聞こえた

これは2年前、ほぼ毎日動いていたあのの音だ



「っ…!」


「あれは…」


「夜斗!」「先輩!」



頭を押さえる俺に駆け寄る霊斗と雪菜

俺は笑いながら顔を上げた

俺たちの目の前の地面スレスレを電車が通り過ぎる

向こう側には何もいなかった。だが、そこのあいつらは現れた

そして振り返って笑った



「初めて笑うのがこのタイミングかよ」


「そうみたいだね…全く」



ゆっくりと歩み寄るに目を向けて、俺と瑠璃は笑った



「久方ぶりだな、主よ」


「久しぶり、夜斗」


「…ああ、久しぶりだな。本当に…お前らは…」


「皆まで言うな。俺もお前らと同じように、自分の物理構造体を構築したに過ぎぬ。向こうの世界は俺たちは必要無くなった。だから来たに過ぎぬよ」



如月はそう言って観測端末を投げ返してきた

唯利も、俺が使っていた雪菜用の観測端末を手渡してきた



「これはもう必要なかろう。さて、式の邪魔をしたな。続けてくれ」



ただ一つ文句を言わせてくれ。それは俺の結婚式でやれよ

来週だから



「主の式にはフルで出たいからな。さて、緋月霊斗。お前に少し派手なプレゼントだ」



如月と唯利が右手人差し指と中指を伸ばし残りを握り込んだ



「「転送」」



空から舞い落ちてきたのは、桜の花びらだ

季節外れではあるが、いい時期ではある。河津桜は開花報告があったしな



「…さて、俺は端によるか」


「主役は緋月君だから、私たちのことは後にして。早く」



サプライズが過激なんだよ。マジで

つかこれ俺にやるやつだろ普通



「…夜斗、後で小一時間問い詰めるからな」


「小一時間で済むなら安いもんだ」



霊斗と雪菜が歩くその道には、絶えず桜の花びらが舞っていた

不器用な如月と、ロマンチストな唯利によるせめてもの祝福の花が、俺のサプライズなんて滲んでしまうほど華やかにその場を埋め尽くしたんだ


「主よ」


「なんだ」



俺の隣で拍手をして霊斗と雪菜を見送りながら如月が声をかけてきた

可能な限り小声で応える



「俺は知っているぞ。人間とは、人間であろうとする心そのものに存在すると」


「…そうか」


「そして俺は知っている。そういう『人間であろうとする死神』や『人間であろうとする魔族』の恋は、何より美しく素晴らしい」


「…そうだな。お前には敵わないよ、如月」



なるほど。まさにこれが怪異として人間を見続けた如月の行き着いた結末か

そうか、そうだな。これこそ、如月さんは知っている…というわけか

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如月さんは知っている さむがりなひと @mukyo

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