駅のホーム

俺は知っている

主が人間界を望んでいたことを


俺は知っている

主は唯利のことも鏡華のことも閻魔のことも、俺のことさえ大切に思っていたことを


俺は知っている

だからこそ、「帰りたくない」と思っていたことを


けど主は向こうの世界を選んだ

だから俺たちは主を追いかけてはいけない。見守るに留めねばならない


けど俺はこんなことも知っている

感情とは、その程度の義務感で縛れるほど容易いものではないと───



「結婚式かぁ」


「結婚式だねぇ」



正装に身を包んだ主と瑠璃の目の前にいるのは新郎霊斗と新婦雪菜だ

主が戻ってきてからもう半年だか1年だかが経過している

親なしの雪菜のため、夜斗は父代理としてバージンロードを歩かされる



「やれやれ、今世最大の責任だな」


「そんな深く考えないでくださいよ。まぁ、私の旧友とか先輩のご友人の方とかいますけど」


「あえて圧力かけるのはやめろ。…霊斗、お前が俺より緊張してどうする」


「し、仕方ないだろ!2年待ったんだぞ」


「「待たされたのはこっちだ(です)」」



2人の総ツッコミに何も言えなくなる霊斗

そんな3人を笑って見守るのは、瑠璃だ

主と瑠璃の左薬指には銀の環がある。結婚指輪、というやつだろう



「ま、俺に比べりゃマシだわな。10年は待ったわけだし」


「それについては申し訳ないと思ってるよ。結果的に不老不死にされてしまったけどね」


「うぐっ…。ま、まぁ霊斗!そろそろ時間だろ、準備しろよ」


「へいへい。いつになってもバタバタしてんなぁ」


霊斗が部屋を出て行き、瑠璃もまた参列のため席を外した

そして残されたのは主と雪菜



「…しっかりモノにしたようだな。霊斗も、死神も」


「はい。辛うじてというところではありますが。特に死神化については、まだ完全制御できていないのが現状です」


「それでいい。お前が戦う必要はもうない。霊斗のために生きれば、それでいい」


「…先輩はまだ戦ってるんですか?」


「純恋が残した残党がまだいる。久遠や煉河、莉琉•舞莉と共に、日本中に散らばった悪魔を消さなきゃならん」


「…また離れるんですか?私や霊くんから。ましてや、妻から」


「日帰りするつもりだけどな。俺にはこれがある、余程のことがなければ負けることはない」



主が手に握るそれはサバイバルナイフ。というか神機だ

俺が天国行きの列車から出したやつだな



「…そうですね。今度こそ死なないでくださいよ」


「当たり前だ。俺は死なない種族だからな」


「って言って死んでたじゃないですか」


「うっ…ほ、ほら時間だ。行くぞ」


「なんで私の結婚式で主導を握ってるんですか」


「お前らが遅いからだよ!?」



主と雪菜は部屋を出て会場に向けて歩き出した

人間とはこれだから…

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