夜斗•オンステージ

霊斗と雪菜は並走していた

後ろから腐った人間が押し寄せてくる

街中だというのに騒ぎにならない。ま、ここならある意味当然かもな

その腐った人間の先頭を走るのは純恋だ。よくもまぁここまで俺を困らせてくれたものだよ



「逃げ切れ、ない…!」


「仕方ない…」



霊斗が立ち止まり、体の向きを変えた



「ユキ!先に逃げろ!俺も後から追いつく!」


「フラグを立てないで!霊くんが戦うなら私も…!」


「ユキを危険な目に遭わせるわけには───」


「───その必要はない」



俺は電車から身を投げ出した

そして霊斗と純恋のちょうど真ん中に着地し、霊斗と雪菜を肩越しに振り返る



「よう、待たせたな」


「な、なんで…なんで…夜斗ぉ!」



強気に笑う霊斗

そうだ。我が親友はそうでなければならない

雪菜が涙を浮かべてるのはまぁ仕方ないか



「霊斗、思い出させてやる。お前の、あの能力を」


「え…?」


「第五の真祖、亡霊の吸血鬼ロスト•ブラッドの魂を宿し者、暁霊斗の威を借りし我が汝を天界より喚び起こす」



これは霊斗が使ったもの

小説の中で、あいつが考え抜いた詠唱の1つ…に少し手を加えたものだ



降臨せよきやがれ天照大御神アマテラス!」



俺の背後に現れたのは女神だ。ただの女神じゃない

太陽の名を冠するに相応しい、煌々と輝く女神だ

そう、天音だ



「あま、ね…?」


「これがお前のチカラだ。返してやる」



俺は霊斗に手を向けた

アマテラスが霊斗の中に入り、また霊斗の背後に姿を現した



「───天音。本当に、アマテラスになれたんだな」


『うん。夜斗のおかげでもあるけどね。さ、あのゾンビを殺さなきゃ』


「ああ」



これでこの場は収まったも同然だ

アマテラスから放たれた火柱がゾンビ共を焼き払う

そして残されたのは、純恋だけだ



「…さて、純恋。何が目的だったのか答えてもらおうか」



俺は如月に渡された神機を突きつける

気づけば神機は日本刀の形に変化していた



「…別に。夜斗を困らせてやろうと思っただけ。そうすれば、帰ってくるはずだから」


「…お前。そんなこと言って何人殺したんだ」



犠牲者は200人を超える

純恋が悪魔であり、悪魔が精神構造体に干渉する力を持つのは如月に聞いた

だから今この場にはその術を封じる結界を(唯利が)張っている



「夜斗が帰ってくればもっと楽しいから。ほかの人間なんて、知らない」


「お前…!」



霊斗が拳を握り締め耐える

まぁその気持ちはわかるぜ?けど女に手を出すのは三流だ

だから



「…唯利。最後の頼みだ。純恋を、冥府に」


「了解」



空から聞こえた声の直後、俺たちの真横に電車が止まった

中から降りてきたのは2人の死神。それも、死を司る死神だ

その2人が純恋に手錠をかけ電車に乗せ、俺に敬礼した

反射的に返したがなんで俺敬礼されたんだ?



「…唯利。これで、最後だ」


「さようならとは言わない。私は貴方と同じで、さよならは嫌い。だから、またね」


「…!ああ、またな」



唯利は運転席から小さく手を振った

そして電車が発進し、見えなくなっていく

…俺は、ようやく人間界に帰ってこれたんだ

最愛の彼女、瑠璃と共に

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