─No Stage─

ちょうど発車時刻となった人間界行きの電車───唯利が発車した

それを見送りながら、観測端末を握りしめる俺

案外人間らしくなったものだな、俺も



「思えば、半年も経っていたのだな」



主がきてから半年。小娘が来てから1ヶ月

ただただ暇のない日々を過ごしている

否、過ごしていたのだ



「…如月」「如月さん」


「…鏡華、閻魔…」



俺に話しかけてきた2人はゆっくり、俺を間に挟む形で立った

ため息をついた鏡華がそのまま腰を下ろしてベンチに座る



「また散歩行ってるの?夜斗は」


「暇なんですねー」


「…主はもう帰ってこない」


「え…!?」



俺は淡々と事務連絡を行う

そう、それだけ。それだけのことなのだ



「…主と小娘は、物理構造体構築に成功した。人間界で活動することができる肉体を得た以上、ここに残る義理は…ない」


「…そん、な」


「…でも、どうやって戻るの?人間界は片道切符なのに」


「…簡単なことだ」



…これは俺の独断。怒られようが消されようが関係ない

俺がそうするべきだと思っただけだ



「俺が切符を作れば良い」


「「…!」」


「俺がきさらぎ駅発人間界行きの切符を発行すれば、行くことはできる。帰れなくなるから浮遊霊になるんだが、今回主と小娘は肉体を得た。つまり、人間…否、死神として生きることができる」


「じゃあ、もう…」


「会え、ない…?」


「そういうことだ。…俺は観測に戻る」



もう癖になってしまった

暇があればこの端末で霊斗を観測し、主が笑うのを横目に見てため息をつく

しかしもう主はいない。帰るべき場所へ帰ったのだ



「…如月。貴方は人間界にいかないの?夜斗さんを追わないの?」


「…あくまで俺は駅だ。ここから動くことはできない」


「そう。でも、鏡華と私は人間界にいけるよ」



2人が見せてきたのは…人間界の器、か?

まさか…



「私たちは物理構造体を構築した。だから人間界に行く」


「…認めると思うか」


「認めさせる。私が求めたものを得るために」


「…閻魔。お前は仕事を投げ出すのか?」


「そんなわけないでしょ?けど、私はもう任期終わるし。そもそも今は機械化が進んで私は出勤しなくても仕事ができるから」



…そうか。2人はもう、準備していたんだな

俺だけが準備など考えていない。俺は世界を繋ぐ「駅」だから



「…だから、教えてあげる。きさらぎ駅…貴方の本当のチカラを」



鏡華が告げたその言葉は俺の意志を確定した

…だが、しばらくはお別れだな。主よ

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