第30話─人間界13─

世界の構造はかなり単純だ

中心に存在する冥府の上に天国、右に人間界、下に地獄と辺獄がある

そして左側には神界と呼ばれる場所もあるがこの際置いておこう

俺は冥府と全ての世界を繋げる駅。唯利は人間界と冥府を繋げる電車だ

無論それぞれを繋ぐ列車はある

ただ、神界のものはほぼ見たことがないな



話は変わって、人間界の様子見をしていたところ、何やら興味深いことになっているな



「もう1年かぁ」


「1年だねぇ」


「そうですねぇ。お茶でもいかがです?」


「「ありがとうございます」」



霊斗•雪菜•紗奈の3人は、冬風家の縁側で駄弁っていた

紗奈が持ってきたお盆に載ったお茶を受け取り飲む霊斗

このお茶が好きらしい

…もう1年?であれば1年間も主たちは物理構造体を作る練習をしていたのか

どうりで小型動物くらいなら作れるようになってるわけだ。いや1年で辿り着ける領域ではないのだが

紗奈が点けたテレビでは何らかのニュースが流れている



「最近よく聞きますね、不能犯」


「外傷も毒物もなく、ただ死ぬ殺人事件…でしたっけ。噂では悪魔の仕業らしいですよ」


「ネクロマンサーが死体を集めてるって噂もあるなぁ」


「死体残ってるけどね」


「そうだけどさ」



今この事件が起きてるのはこの区域だけらしい

具体的には静岡県沼津市•三島市•裾野市•御殿場市の4つ

となればこの中に犯人がいるのだろう



「けどまぁ、そんな警戒する必要ないんじゃね?例えば悪魔がきたら倒せば良いんだし」


「そうですけど吸血鬼化しきれてない緋月さんがどうやって倒すんですか?」


「…物理で?」


「効くといいですね」


「だよなぁ」



効くことは効くぞ、悪魔

その世界にいる時点で物理構造体を持つ存在ではあるから、殴ることもできないわけじゃない

ただ、悪魔の根幹にあるのは精神構造体だ。物理攻撃はあまり意味がない



「…足音だ」


「「え?」」


「すごい速さで近づいてくる。それも4人…歩幅的には男1人に女3人…本当に悪魔なのか?」


「「探知…」」



死神2人が探知の術を展開した

それに引っかかったのは確かに男1人女3人だ



「…くる!」



霊斗の目の前にのは男1人女2人、そして…



「久遠?」


「よかった、無事だね。舞莉まり莉琉りる。女の2人は任せるよ。煉河は霊斗を保護して拠点に。私は迎撃するから」


「「「了解」」」



男1人というのも顔馴染みだな

天津風煉河。前にもチラッと出てきてたが、警察の者らしい

そんな奴と主の会社の従業員が一体…



「な、なんだよ」


「…悪魔族の侵攻を確認した。目的はおそらくお前らのように高い霊力•魔力を持つ者の捕獲だ。この辺りで起きてる殺人事件は霊力喪失という状態に近い。だからとりあえず保護しにきた。一緒についてきてもらう」



そういう煉河の息は切れている

生身で死神の従者についてきたのだろうか



「ま、待てよ!だとしたら俺も…!」


「私もお兄様ほどではないにしても多少お役に立てるかと」



霊斗と紗奈が煉河と久遠に言う

しかし2人は黙り、顔を見合わせた後ポケットからデータデバイスを取り出した

そこに表示されていたのは…



「「国家公安部第零特務機関として、諸君らを保護させていただきます」」


「…なるほど。それが特務機関としての判断、というわけですね」



紗奈はいつの間にか持っていた巫女服を身に纏った

話には聞いた。だが、人間の技術で生み出せるものではない

何故ならそれは───



「神機•運命彩葉さだめいろは、起動」


「こんなことしてる場合じゃねぇってのに…!国家公安部第零特務機関権限に基づき実力を行使する!汎用神機、起動!」


「とりあえず紗奈さん止めなきゃでしょ。神機•黒々葛くろぐろつづら、起動」



全員が、神機持ち…?

汎用神機とはなんなんだ。本来それは冥府や神界の技術だ

作るためには人間と同じ構造…つまりは魂•精神構造体•物理構造体を構築し、感応体で接続する必要がある

さらには使用者との接続を可能とするため、専用の接続器コネクターを備えねばならない

それを作り上げたというのか?

しかも、布でできたものなど聞いたことすらない



「霊斗さん。貴方と雪菜さんはひとまず悪魔を追ってください。後から追いつきます。私の憶測が正しければ悪魔は…」


「純恋、か…!」


「はい。彼女だとすれば、貴方を殺し自分も死のうとするでしょう。そのためになら何百人死んでもおかしくありません。必ず助けに行きます、お早めに」


「わかった。ユキ!」


「うん!」



いつの間に習得したのかは知らんが、雪菜は死神化していた

死神となることで一時的に身体能力と霊力が大幅に上昇するのは主に聞かされた

霊斗も吸血鬼化をある程度物にしており、口の隙間から牙が見えている

…この僅かな時間に、よくぞここまで…



「…何のつもりだ、冬風紗奈」


「…さて、なんでしょうね。私とて、大勢を殺して少数を生かすのは賛成です。ですが、お兄様はそれを認めない」


「「…!」」


「この世界に帰ってきたお兄様は私をお叱りになるでしょう。緋月さんに至っては殺されるかもしれません。けどそんなことはどうでも良い」



紗奈は銃をかたどった指を煉河に向けた

そしてその指先が青く光り輝く



「たまには私がやりたいようにやりたい。それだけです」



その指先が一際強く輝き、閃光が放たれた

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