第29話─駅のホーム13─
俺の言う術とは、それぞれが有する力を使うもののことだ
しかし基盤となるものは全く同じ。つまり魔術•霊術•妖術の全てでいうと全く同じ回路を使っている
人間界で言うと、発電所が違うだけだ
「…ようやく簡単な物理構造体を作り出すに至ったか」
「「疲れた…!」」
主と小娘が互いに背を預け天を仰ぐ。よほど疲れたのだろう
基本的に魔力を持つのは魔族だ。そして人間と死神は霊力を持ち、俺のような怪異や妖怪は妖力を持つ
これを意図的に使用するというのは難しい
特に人間は使いこなすには時間がかかる。霊体を見れるという程度では二番煎じだ
「ではようやく体を作る工程だ。ただしやるのは相手の体になる。失敗すれば動かない恋人を作り出すことになるぞ」
「わかってるっての。脅すなよ」
「本当のことを言ったまでだ。ではそうだな、相手の体を作るにあたり大切なことは何だと思う?小娘よ」
「え?うーん…信頼かな」
「ふむ。では主よ」
「精密性かな」
「どちらも正解だ。正確に相手の精神構造体をなぞる必要がある。そのためには相手に心の内を全て見せる覚悟と信頼が必要だ。正直教えられるのはここまでだ。あとは頑張れ」
「「雑すぎ」」
仕事に戻ったはずの閻魔が様子を見にきていた
ただ、少し寂しげにも見える
「どうした、閻魔」
「いや、ちょっとね…。夜斗さんに彼女いたなんて知らなかったし、会えるのもあとちょっとかって思ったらつい…」
「珍しいな、そこまで悲観的なのは」
「私だって女の子だから。忘れてるかもしれないけど」
忘れてないと言えば嘘になる
というより、女性であることを意識させない立ち振る舞いに問題があるのだ
「想いを伝えるだけであれば可能だろう?何故やらぬ?」
「バカだね…報われない恋を伝えても虚しいだけだよ。それに、夜斗さんは多分気に病むから余計に言えない」
まぁそうだろうな
主は告白されれば付き合うみたいな生活をしてきたらしいし、今されてしまえば戸惑うことだろう
というより、小娘と主の間に割り込むのは無理だ
と、そんなことを考えていた折、少し雨漏りがした
「はぁ…。生まれる時代を間違えたかなぁ。元は私も結構有名だったのに」
「…いつの時代なんだ」
「人間界の言葉で言うと平安時代だよ。知ってる?」
「文献で見た程度の知識だ」
「十分だよ。その時代で、すっごい有名だったんだよ。見た目も悪くはなかったし」
傍目に見れば十全に美少女だろう
しかし…閻魔が十二単など似合わんな。むしろセーラー服やブレザーとスカートの方が似合うのではないか?
「昔は化粧厚かったんだよね。今はしてないけど」
「ないからだろう」
「まぁないよ。冥府は地獄よりマシとはいっても娯楽なんかないからね」
冥府はあくまで裁判所がメインだ
ここに暮らすのは裁判を待つ者たち。すぐにいなくなってしまう
天国には娯楽があり、何の苦もなく生活できるものの地獄には娯楽が全くない
かといってよく言う刑罰らしいものもなく輪廻転生から外されるだけだ
それより酷いのは辺獄。そこは釜茹でを始めとするあらゆる刑罰もあるのだ
「…閻魔よ。万が一、主が人間界に戻ったらどうする?」
「追いかけるよ。嫌がられても、わずかな可能性があるって信じる」
「…存外乙女だな、お前は」
ため息混じりに言い、俺は少しだけ口角を上げた
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