第28話─人間界12─

主が小娘に手取り足取り教えてる間また暇になってしまった

俺は俺で物理構造体を構築しながら観測を続けることにする

ちなみにこのやり方はかなり効率が悪い。普通なら5分で終わる作業が1時間かかってしまうが、多少暇潰しになるだろう


で、霊斗は旅館の風呂場にいた

湯船の波に揺られているのは…なんだ?盆か?



「風呂で飲む酒は美味いなぁ…初めてやったけど」



アルコール飲料か。この物語は全年齢対象だ、そのような行動は謹んでもらいたい

ふと視点を変えると、ここからは富士山が見える

中々いい旅館を取ったものだ



「どっかで見てんのかなぁ、夜斗は」



悪いが見てるのは主ではなく俺だ

何ならお前は過去にあったことがあるのを覚えていないのだろうか?

否、覚えてはいないだろう。世界線が異なる



「霊くん、湯加減どう…?」


「なんかねー、いい感じー」



ああこれは酔っているな

普段飲まないのにこんなところで飲むから酔いが早い

…というか酒弱いのに何故風呂で飲んだ?その風呂は温泉を引いているため熱湯だ

俺の端末では46℃という数値が見えているのだが?



「あいつに連れてかれて日帰り温泉してたからねー。熱いのには慣れてるー」


「そうなんだ…良さそうだね」



…何やら衣擦れの音がする

いや、気のせいだろう

富士山には雪が乗っており、まさに雪化粧だ

いやはや、絶景スポット巡りをする人間の気持ちがようやく理解できたな

これは確かに金をかけてでも行きたくなる



「お邪魔します…」


「うぃー…ってなんで入ってきた!?」



それは俺のセリフだ。いや俺には性的欲求など無いから大したことでは無いのだが

見たと聞いたらこの主が右ストレートを鳩尾に叩き込むことだろう。それだけは避けねばならぬ

この世界では普通に痛みもある



「だって暇だったから!」


「頑張って待ってよ!?」


「初めてのお泊まり会だから待てない!」


「なんでぇ!?」



…雪菜め、さては部屋の冷蔵庫の中にあった酒を飲んだな?

確かに年齢的にはもう20歳だが、例によって酒に弱いらしい

全く主の周りには下戸が多くて面白い

目を離すことも考えたが、以前主が目を離したことを後悔していたため継続して観測する



「さては酒飲んだな!?」


「飲んだ!」


「あああぁぁぁ…!!」



どうやら相当酒癖が悪いようだ

霊斗が見たことのない反応をしている

そんな2人を付け狙う影が、窓の外にチラッと見えた。少し急いでもらわねばな

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