第26話─人間界11─

小娘が主の精神構造体を読む練習をする傍ら、俺は観測を再開することにした

霊斗は今、雪菜と温泉地に来ているらしい

ここはよく主と共にきたと話しているのが聞こえる



「って感じだなぁ。まぁこのへんで温泉入ったことはないけど」


「暇なのかなあの人」


「暇だったんだよ俺もあいつも」



ここは…おそらく旅館だな

和室で10畳ほど。テレビやエアコンといった生活家電も設置されている

忘れてるかもしれないが俺の持つ本は人間界の本を映せる

これを使って人間と同じ常識は身につけた。だからテレビとかそんなのを知っている

素晴らしかろう?



「そういえば布団…1枚しかないね」


「俺2枚敷いてくださいって言ったんだけどな…」


「霊くん声小さいから聞こえなかったんじゃない?」


「そこまでは小さくないと思うんだけどなぁ」



…確かに霊斗はかなり小さい声で喋る

俺は端末を通してるから聞こえてるが、それでも小さい声だと言わざるを得ない

まぁ場合によるけどな



「いい旅館だね」


「夜斗がめちゃくちゃオススメしてた。あいつが書いてた小説に出てくる旅館のモデルらしい」


「読んだことあるけどあれ完全にモデルわたしたちでしょ。知らないけど」


「知らんのかい」



旅館という読みは当たっていたらしい

というか主小説書いてるのか。この本はいんたーねっと?とかいうものにはアクセスできないんだよな

主はそのいんたーねっとに小説を書いてるようだ



「あの人1人で来てたのかな」


「仕事って言ってたな。あんまちゃんと聴いてなかったけど」


「探偵だっけ?あの人に合ってるね」


「勘はいいからな」



探偵稼業というものは難しい

法の隙間を抜けつつ依頼をこなすなどという器用なことができるとは到底思えないのだがな

などとそんなことを考えていたら主に睨まれてしまった。前言撤回、異常な勘だ



「帰ってくる…んだよな」


「久遠さん…本人が言ってることが本当ならね」


「私を呼んだ?」


「「え…?」」



旅館の窓から手を振るそいつは久遠だ

神出鬼没という言葉がまさに似合う



「ごめんねー。通りかかったら夜斗の車見えたからさ、誘われちゃった」


「いやそれはいいんだが…。ってどうやってそこに立ってんだ!?」



確かここは2階のはずだ

確かにどんな方法を取ればそれを可能とするのかは気になる



「え?普通に空飛んでるだけだよ?死神なら大多数できるんじゃないかな」


「「え…」」


「なんなら夜斗もたまにやってたね。君たちが無防備に心霊スポットに行くからって守ってたの知らない?」


「知らんかった…」


「あの人そんなことしてたんですね…」



生前の話は俺もよく知らん

主はあまり自分について語らない。それどころか聞いてもはぐらかされるのがオチだ



「例えば旧天城トンネルとかさ。後ろから追いかけられてるの知らなかったでしょ」


「…マジか。気付かなかった」


「霊斗に関していうなら何で気付かないのかわかんないけどね。とかそんなこと言いたいわけじゃなくて、私仕事中だからこれくらいにしようかな。一応こんなんでも部隊長だから」



軽く手を振って窓枠から離れる久遠

確かに空を飛んでいる。しかもまずまず早い

窓ガラスがビリビリと音を発する程度には



「…なんだったんだ」


「そういえば、知り合いなの?」


「…まぁ、ちょっと話したことがあるくらいだな。一応あの人が面接官だったわけだし」


「…え?あそこに就職するの?」


「浪人するよりはいいかなと。まぁ福利厚生ちゃんとしてるし、夜斗社長なら融通効くし」


「ちゃっかりしてる…」



苦笑いする雪菜であった


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