第25話─駅のホーム11─
俺は主にその場を任せて、2番ホームに移動した
5分程度で編入してきた天国行きの列車の運転手に断りを入れ、車掌室の物入れを開ける
中にあったのは大型のナイフだ。片刃で峰には凹凸が作られており、柄だけでも10センチは超える大きさ
これは何故かものを切ることができず、この電車に乗せて天国で調べてもらっていたモノだ
そしてその結果が今届いたということになる
「…神機、か。死神の道具ということだが…」
神機を使う死神は主に魂を司る死神だ
死を扱う方は神機は使わない
つまりこれは…
「主専用ということか」
これはいつからあるのかわかっていない
俺が自由意志を得た時に2番ホームで拾ったものだ
俺は駅舎側に戻り主に渡した。あとは任せたと伝えて小娘へと説明を再開する
「つまり、今後天国に行けなくなる上に主から離れられなくなる。代わりに人間界に戻れるんだ」
「魅力的な話だね」
「人によるとは思うがな。選ぶなら今しかない。2度と主に会えなくなる代わりに何不自由なく暮らすか、人間界に戻り主と共に生きるかだ」
「それなら私は夜斗と生きるよ」
小娘があっさり決めたことに驚かされながらも、その言葉を聞いた俺は運転手に合図を出した
それを受けて運転手は列車を発車させる
レールが浮き上がり、空へと駆けていく列車を見送りながら、主に声をかけた
「主よ。いい恋人を持ったな」
「ああ。それに応えるためには早いとこ瑠璃の体を作ってやらないとな」
「一応言っておくが、連続作業は厳禁だ。精神構造体は観測するために霊的経路を構築する必要がある。これは長時間接続すると破損する恐れがあるからな。さらに、観測にも集中力が要る。観測に失敗すると相手の精神が崩壊することを肝に銘じてくれ」
「了解。で、どうやんの?」
「…わかってて言うな」
主は笑った
小娘は訳がわからないと言いたげに肩をすくめている
「…すごく言いづらい」
「それはそうだろう。まぁ最初は補助的な機械を使うべきだろうな。小娘、主の手を握って座れ」
「りょ、了解」
小娘は恥じらいながらも主の手を取りベンチへと座った
よく見ると主にも多少恥じらいが見える。聞くと手を繋ぐことすらなかったらしい
まぁ、何年も前の話のようだしそういうものなのだろう
「まずは霊的経路を接続するところからだ。基本的には手を繋ぐ•体液の接触のどちらかで行う。無論接続面積が広い方が多くの情報や霊力のやり取りができるのだがとりあえずはそれでいい」
「霊的経路ってどんなもんなんだ?」
「簡潔に言うと、データのやり取りを行う伝送線というものだ。今の状態では所謂シリアル伝送という状態にあたる。そうだな…主、少し小娘との接触面に意識を向けてみるといい」
この方法はあくまでここだからできるものだ
人間界ではこう容易くはない。何故なら物理構造体を乗り越えて接続するためだ
今容易く接続できているのは精神構造体が剥き出しだからに他ならない
「…何となく見えた気がする」
「簡単に言うとそれが1nmのズレすらなく収まる容器を構築するのが目標だ。今度は小娘が主との接触面に意識を向けてみろ」
「…なんか見えてる。黒いけど明るい、複雑な構造物だね」
「色は主にその者の性格や特性だな。精神構造体はあくまで魂の入れ物だ。それを物理構造体に入れ込むことで人間が構築される」
そもそも俺は精神構造体の説明をしたんだったか?
まぁいい。人間は魂魄•精神構造体•物理構造体の3つで成る
今回の場合は魂魄と精神構造体は残っていたため物理構造体を造ることになるのだが、これがかなりシビアだ
全くズレなくピッタリ収まるように造る必要がある。それには繊細な技術と完璧な観測を行う必要がある
…ということをもう一度この2人に伝えておくか
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