第22話─駅のホーム10─

主はまた観測端末を眺め始めた

小休止を伝え、俺は駅長室に向かう

後ろから唯利がついてきて、部屋に入ったところで声を出した



「…思い出したの」


「何をだ」


「夜斗が、ここにいる理由。私が連れてきた生者のこと」


「…なんだと?」



大方話をまとめると、唯利はまだ自由意志がない頃に夜斗に呼ばれて人間界に行った

そこで主の元カノとその彼氏14名を回収し、連れ帰るつもりだったという

14人を乗せた唯利は発車しようとベルを鳴らしたその時、主が乗り込んできた

これは唯利が放つ光の効果で、乗るべき者を無理やり乗せるためのものだ

つまり唯利は、主が乗るべき者であると誤認した

そして主はそんなことを知らぬまま座席に座らされ電車が発進、途中で意識を失ったという



「…つまり主は…」


「完全な手違い。というより、私がなんらかの術にかかってたみたい。夜斗を乗せるべきだなんて誤認識することはまずありえないのに」



つまりはこれを計画した奴がいる

それもかなり高位の存在だ


自由意思を得たことにより以前の倍は強いレベルへと進化した俺と唯利だが元はもっと低い力しか持たなかった

それでも高位のものではあったのだ。そんな唯利を騙し、主を無理矢理連れ去らせたということになる

どんなに強く、不老不死の存在であろうと唯利に乗り込めば肉体…物理構造体が崩壊するため人間界には帰れなくなる

つまり主はここに紛れ込んだわけではない。意図して殺されたのだ



「…これは、とんでもないことだな」


「うん…。今日、白鷺を連れてくる時に景色を見て既視感を感じたの。それで私の活動ログを見たらそうなってた」



俺たちは意思がなかっただけで活動ログというものが残る

俺の場合は誰が改札を通り抜けたのか、と言う履歴

唯利の場合はどこへ行き誰をどの理由で乗せたのかだ



「…簡潔にまとめよう。主に説明せねばならん」


「うん。身の危険を感じた夜斗が私を呼んだ。これは死神の力じゃなくて、多分元々異界と繋がる力があって、それを使っとんだと思うの。私は呼ばれたから体を動かして現地に向かって、着いたところで14人回収した」


「…何者かが唯利の認識機能を誤認させ、主を回収させた。そして俺に到着する過程で主の物理構造体が崩壊し、実質死んだような状態になった」


「…夜斗は私の中で眠るうちにその前後の記憶が消えた。何も知らないままきさらぎ駅に降りて、如月に意思と名前•体を与えた」


「その直後に来た唯利に体と名前、意思を与えた。俺も唯利も、意思を持つ前のことは覚えておらず、主をホームに置いておくことにした…ということか」



複雑化した事情

黒幕の存在が、悉く引っ掻き回してくれた

主を殺した奴はまだ人間界にいる。ここまでのことができるのはおそらく悪魔か天使だろう

ならばこれを殺さねば、仮に主が蘇ってもまたここに送り返されてもおかしくない



「やることは決まった。主を殺された復讐だ」


「うん。夜斗に話したいから、呼んで」



俺は主を呼びつけた

ただならぬ雰囲気を感じてなのか、観測を止めてこちらに駆け寄ってきた

小娘は閻魔と話をしているのが目に入る


そして俺たちは、俺たちの罪を主に伝えた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る