第18話─駅のホーム8─
時は少し戻り、主が俺の名を呼んだ時
「なるほど。了解した」
俺は駅長室と記載された部屋に入り、いくつかのスイッチを動かした
これはきさらぎ駅専用の列車を動かすためのスイッチ類だ
主電源を入れ車庫のシャッターを開き、信号機のための副電源を入れる
進路変更用のスイッチを操作してきさらぎ駅のホームに進入するよう経路を構築
そして呼ぶ
「唯利、仕事だ。主の元へ向かい、白鷺を回収しろ。犠牲者を乗せて行き、積み込みを担当させるように」
『…了解。一回駅に停めるから、犠牲者呼んどいてね』
駅長室のスピーカーに奴に声が響く
それは以前話だけに出てきた唯利。奴はこの駅専用列車の怪異だ
幽霊列車という呼ばれ方もする
数分後到着した列車に、楽しげな霊たちが乗り込んだ
天国に掛け合い、白鷺が殺した者たちをかき集めてもらったのだ
「頼んだぞ、唯利」
「りょーかい。これでようやく、夜斗にいいとこ見せれる」
「ああ。…ポイント切り替え」
今度は遠隔。意識で進路変更を行う
ポイントレールが切り替わり、人間界に向かわせる
本来であれば目的地近くの線路に編入させるのだが、今回は直接向かうように経路を設定した
「よし。準備はできた」
「うん。信号よし。前後方よし。電圧正常…客室灯火点灯…良好。モーター始動、ブレーキ開放」
ゆっくりと電車が進み始める
徐々に加速して行き、最高速度が時速200キロを超えたところで電車は姿が消えた
この線路は時速200キロ以上で走行することで人間界に行くことができる
つまり主は肉体さえあれば、あの電車で帰れるのだ
「肉体さえあれば、か」
電車を見送りため息をつく
戻ってくるまでの間に閻魔を呼ぶ方がいい。俺の面倒は減る
だが閻魔裁判は基本的に刑が軽い。特に今回は俺の独断で白鷺を殺すことにしたのだから、余計に情緒酌量の余地ありとして刑期が減る…どころか、もはや地獄にすら送られない可能性がある
「久々に使うとするか…あれを」
改札機…だった機械に目を向ける
それは俺が物心ついた頃からあるものだ
大切に扱われたもので、ここの駅長自ら点検を行うほど思い入れがあったらしい
今ではそれが地獄への門だ
15分ほどで戻ってきた電車は、駅のホームの定位置で停車した
主は5分ほど前に目を覚まし、電車を待っている
「来たか」
「ふ、冬風!?なんなんだここは!」
掴みかかる白鷺の手を振り払い、白鷺を俺の前に押し出した
…そうか。であれば
「主は何を望む?」
「決まってる。最下層だ」
「そうか。であれば…白鷺とやら」
「な、なんで名前知ってるんだ…ですか?」
「そんなことお前が知る必要はない。その改札を抜ければここからぬけることはできよう。俺も主も、この女もこの駅から出ることはできない」
そのセリフを聞いた瞬間白鷺は改札機へとダッシュした
唯利と俺は2人で1つの怪異と言っても過言ではない。電車が線路外に出ることはできないのは当然のことだ
白鷺が改札機を通り抜けるとほぼ同時、門が開いた
「な、なんだ…これ」
「白鷺。お前にはその先にいいものを用意した。それは、未来永劫お前が殺した者たちに殺され続ける世界だ。彼らが転生し、この事実を忘れた時にその刑は終わりを迎える。その後は、ただひたすら何もない空間で無限の時を過ごす無期懲役だ」
俺は手を白鷺へと向けた
改札機が進入防止のため閉鎖され、白鷺の目の前に現れた門が白鷺を吸い込もうとし始める
「な、なんで…俺が何をしたっていうんだよ!なぁ冬風、お前は俺を助けてくれるよな?そうだよなぁ!?」
主は改札機に近づいた
今だけは主さえ外に出すわけにはいかない。出てしまえば、今俺が言った刑を共に受けることになってしまう
白鷺が主に向けて手を伸ばす
主はその手を取る…寸前に叩き落とした
「え…?」
「生前は世話になったな。俺の周りに女がいるとか言って嫌がらせするわ、俺の大事な彼女殺すわ罪隠蔽するわでほんっっっとに世話になった」
「そ、それは…あ、謝るから許してくれ!」
「それだけならまだ、俺の彼女を蘇らせてくれれば許した。だけどな」
主が右の拳を握った
大きく腕を引き、白鷺を睨みつける
「俺の親友と、妹同然の後輩を傷つけようとした!これだけは絶対に許せねぇんだよォォォ!」
思いっきり放たれた拳が白鷺の顔面に突き刺さる
バキバキと嫌な音を立てながらさらに食い込んでいく拳が振り抜かれ、白鷺をはるか後方へと吹っ飛ばした
「精々地獄で反省してろ!報われることのない反省と、自分の所業への罪深さを胸にな!!」
…ほう。主がここまで啖呵を切るとは珍しい
俺は手を握り込み、地獄の門を閉ざした
閉まる寸前ようやく起き上がった白鷺が何かを叫んでいたが、門の中からこちらへは声や意思は伝わらない
無慈悲に門が閉められ、消えた
「…すまない、取り乱したな」
「無理ないよ。これで、仇討ち?」
「ああ。そうなるな…」
あまり感情を出さないように見えたのだが、どうにも怒りが勝ったらしい
よく見ると主の手の甲は、白鷺の骨や歯が突き刺さったのか傷つき血が流れていた
さらに、開いた手のひらにも血が付着している。どうやら相当強く拳を握ったように見える
「唯利、治療してやってくれ」
「ん。夜斗、じっとしてて」
「…?え?なんで怪我してんの俺?」
「自覚ゼロか。きさらぎ駅のホームに来た人間は肉体が崩壊する。しかしそれ以外はそのままだ。簡単に言うと、魂魄にも骨のようなものがある。それが刺さったのだろう」
「あいつ、最後の最後まで面倒だな…。悪い,頼む」
唯利が主の手に指を向ける
緑色の光が2人の手を包み込むのを見つつ、俺は観測端末に目を戻すのだった
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