第17話─番外 雪菜の力─

───観測端末00定点観測モード起動

───対象•神崎雪菜 種族•死神(後天性魂魄変異)

───観測開始時点より現時点までをサルベージ

───…完了。能力自覚時点の観測記録を再生





どうも夜斗です

雪菜サンが死神の力を自覚していた理由を知りたくて過去の記録を参照しまーす




「…」



雪菜はショッピングモールを回りながら考え事をしていた

何を考えてるのかはよくわからん

この記録は俺が死んだ(扱いになった)後のことで、霊斗と雪菜のデート前日のことだ



「死神…死神ってなんだろう…」



核心を突くようなことを言い、目的のものを買い終えた雪菜が帰宅しようと現在いる北側区画から南側区画へと歩みを進める

目的のものは化粧品と…あれ線香だな。しかもその店結構高級店だな

…え?一束5000円しますけども??



「…先輩ならこれくらいで満足してくれるかな。でももう少し高くても良かったような…」



要らん要らん要らん!

持て余すわそんな高い線香!

つかまだ冥府入りしてないから完全に死んだわけじゃないんですけど!?



「……あ。御供物買ってない…」



なんなん!?まだ俺に金かけるの!?

死んだ人に金かけるのやめてもろて!

雪菜はまた同じ店…の隣にある供物の店に歩いて行った

え?つか今ほとんど南区画にきてたよね?戻ってまで買うん?

後輩から慕われてんのかこれ。むしろ安いと怒るとかって印象持たれてね?



「…二万円くらいで許してくれるかな」



許します!いやむしろ逆に許しません!

安いのでいいんだよむしろ高すぎて持て余すわ!(2回目)



「…よし。お墓参りいこ」



即日実行!?

つかあそこまでまずまずの距離あるぞ…?

俺の墓ってことになってる場所まで、このショッピングモールから徒歩で2時間。車でも30分はかかる



「…タクシーでいっか」



俺の墓参りにタクシーを使うなよ!

金銭感覚どうなってんだこいつ…



「あ、すみません。メモリアルガーデンまでお願いします」


「はいよー。お嬢ちゃん墓参りかい?」



ドアが閉まり走り始めたタクシー

タクシー運転手というものは何故か話好きで、客に対して話が止まらない

俺も昔伊豆に向かうまでの道中質問責めにされた記憶がある



「はい。お世話になった先輩があそこで眠っているので」


「あれ、会社員なの?」


「いえ、元は学校の先輩です。色々と相談に乗ってもらったり、お願いを聞いていただいたりしたので…」


「なるほどねー。どんな人だったの?」



これは俺も気になる。すごく

後輩からの評価はわりとその人の人物像を象る要素ファクターとなりうるからな



「私以外からは怖がられてました。掴みどころがない、とか。あとは近づいたら何らかの力で殺されそうとか」


「お、おお…強烈な先輩だったんだね」



俺の評価酷い!

そんなに威圧感あったかなぁ!?



「でも、優しい方でした。昔からずっと、助けてもらってましたし」


「…そっか。特定の人にしか優しさを見せない不器用男子だったんだね」


「はい。兄のような、親のような人でした」



雪菜からの評価は異常に高いなぁ!?

君子危うきに近寄れ。という座右の銘を持つ俺

その意味は「近づいてくるなら助けてやる。来ないのなら突き放す」だった

つまり、歩み寄ってきた雪菜にはかなりフランクに接していた

だから歪んだんかなこの子



「先輩が亡くなった理由わかってないんですけどね…」


「え?」


「見つかってないんです。行方不明で、死亡扱いになっただけで…」


「それはまた…」



そもそも俺が何でここにきたのかわかんないしなぁ

それさえわかりゃ多少なりともやりようがあるんだけど



「着いたよ。料金は…ありゃ、メーターセットし忘れてた…。行きはタダでいいよ。待ってるからゆっくりしておいで」


「あ…。ありがとうございます」



同情からか、運転手はわざとメーターを切っていた

雪菜はゆっくりと俺の墓に向けて歩みを進める



「先輩…おはようございます。大体この時間でしたよね、起きるのは」



何故知ってるし

ってそうか、大体霊斗と同じタイミングだもんな

深夜まで起きてて昼に起きるなんてザラにあった



「これで満足してもらえるかわかりませんが、是非食べ…て…ください…」



涙ぐみながら供物を墓石に載せる雪菜

と同時にきさらぎ駅の宅配ボックスへとそれが投函されていた

物は届かない。想いが供物になって届くのだ



「…もう、会えないんですか?また撫ではしてくれないんですか?…私、誰に相談したらいいんですか?…教えてくださいよ…」



崩れ落ちる雪菜

あっれ、ここまで信用されてたのびっくりなんだけど

だから俺は、供物とは逆のことをした

供物を食らうことで、ほんの少しの間供物が置かれた場所に繋がる

それを使えば、雪菜を撫でてやれる



「先輩!?…気のせい、ですよね…」



これを見ていた俺は、そこで一度端末を閉じてしまった

如月に声をかけられたのと、見ていられなくなったのだ

つまりここからは、俺も知らない記録



「こんにちは」


「…こんにちは」


「夜斗の知り合い?」


「あ…はい。後輩にあたります」



現れたのは黒いローブを着た誰か

声は何らかの方法で加工されているのかはたまた知らんやつなのか、聞き覚えはない



「じゃあ、あなたが雪菜ちゃん?」


「そ、そうです」


「ありがとね、夜斗といてくれて」


「…後輩、ですから」



理由になっとんのかそれ

この誰かは顔が見えない。体格的には女だしとりあえず女って呼称するか



「…あなた、死神なのね」


「…え?」


「夜斗と同じ、魂を司る死神の力を感じる。しかも夜斗とそっくり」


「…死神…?」


「そう。知らないのね」



その女は話を始めた

死神には2種類いること。俺が魂を改変する能力を有していたこと

そして、雪菜が不老不死になったこと

それを聞いて雪菜は顔を伏せた



「どう?これが、夜斗があなたに隠してきたこと」


「…隠すのも無理ないですよ。私、死神だって言うのを冗談だと思ってましたし。本当だとしても、今じゃなきゃ信じられません」


「逆になんで今なら信じれるの?初めて会った私の言葉なのに」


「…わかりません。ただ、あなたは恐らく私の知らない先輩を知ってるから…。それに」


「それに?」


「…いえ、なんでもありません。ありがとうございました」


「そう。じゃあ、



女は歩き去っていく

途中でローブのフードをとり、肩越しに振り返ったその女は

純恋だった

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