第16話 ─人間界7─
久遠に乗り移った主が、白鷺の腕を折ったのは見えた
おっとりした目が、主と同じ鋭いものに変わっている
立ち振る舞いも、少し少女っぽいところがあった久遠に対して主と同じ強気なものに変わっていた
「な、なんだお前は!」
「忘れたなんて言わせねぇぞ、白鷺」
「…!冬風…!」
「せん、ぱい…?」
「ここからは俺のステージだ」
久遠…いや、主と呼んでおくか
主は雪菜に目を向け、フッと笑い久遠の太ももにつけられた特殊警棒を取り出した
伸縮するそれは、岩をも砕く特注品らしい。側面に主のデザインしたロゴが記載されている
「く、来るな!この女がどうなってもいいのか!?」
「人質か。まぁ、お前が考えそうなことではあるな。だからこそ、対応済みだ」
ゆっくりと歩み寄る主
白鷺は主が1歩踏み出すごとに2歩後退していく
「…なんで、何で生きてるんだよ!」
「言っただろう。死神は死なないと。それを妄言と捉えたお前の負けだ」
白鷺の背が壁にぶつかる
後ろを振り返り、また主に目を向けたその刹那
「がっ…!?」
「眼前の敵から目を逸らすとは、愚かだな」
主の特殊警棒が白鷺の手を的確に突いた
雪菜は白鷺から解放され主の背後に移動し、様子を伺う
「お前の負けだ、白鷺」
「ふ…ふはははは!俺を捕まえたところでどうする!親父は警視総監、俺の罪はもみ消される!」
「…そうだな。昔っからお前はそうだったよ」
主は警棒を縮めて太もものホルスターに差し込んだ
そして、髪を耳にかけて白鷺に蔑みの目線を向ける
「な、なんだよ…そんな目で、憐れむような目で俺を見るなぁ!」
「憐れみではない。蔑みだ。如月、どうせ見ているんだろう?駅を開けろ」
突如俺に声がかかった
その言葉で俺は意図を読み、駅長室へと向かった
そして、快速電車を発進させた
俺はこの駅そのもの。であれば、電車は何なのか?という問いが生まれることだろう
それは単純。それ専用に怪異がいる
「さぁ白鷺。お前をいいところに案内してやろう。曲がりなりにも美少女がお前を待っている」
喜びの顔を浮かべる白鷺
しかし真横に停車した電車から出てきたのは、白鷺が殺し罪を隠した被害者たち
彼らが白鷺を電車内に引きずり込んだ
「到着したところでまた会おう。なに、美少女が待ってるのは事実だ」
電車が発進した
あれはじきに俺の元へと来る
雪菜が主に恐る恐る近づき、肩に触れる
「先輩…?」
「おう。なんだ、元気ねぇな。霊斗とカップルになったんだろ?そんな泣きそうな顔でいつも会ってんのか?」
主が少しでも気を紛らわそうと腑抜けたことを言いつつ雪菜を撫でる
「この手つきは…本物、ですね…」
「まぁこの体は借り物だから、俺はまた向こうに戻らなきゃならんのだがな。また閻魔に怒られちまう」
「なら本当に、亡くなった…んですか…」
「対外的に見ればな。肉体さえ復活できれば蘇ることもできる。けどもう必要ないだろ、白鷺が消えたことだし」
主はそう言ってスカートを翻した
久遠はどうやら女装潜入員というもので、ロングスカートでいることが常らしい
「まだ、まだたくさんありますよ…。だって、いきなり消えちゃうから…!」
「それは悪かったと思ってるぜ?まぁけど、お前らなら大丈夫だ。次会う時には子を見せてもらうことにしよう」
「そ、それは…霊くん、次第ですけど…」
「…っと、刻限だな。体を返さなきゃならん」
「ま、待ってください!まだ話したいことが…。霊くんも先輩と話したいはずなのに!」
「…そうだとしても、死者が生きてる人に会うのは避けた方がいい。だから今度…お前らが結婚するとなったら、それまでには生き返るから案ずるな。霊斗には、まぁこのことは言うな」
「でも…!」
「あいつは強い。今俺に会えば弱さが垣間見えるだろう。だから会わない方がいい。お前の中でしまっておけ。いいな?お前は俺の後輩であり、霊斗の彼女だ。期待している」
ふっと体の力が抜け後ろに倒れ込む主
その体を支えたのは、別の女だ
「起きなさい、久遠」
「ん…あっ
「片付いたわ。とりあえず事務所に帰ってくるように指示があったから帰るわよ」
「おっけー。じゃあね、雪菜ちゃん」
突如空気が変わった主…いや、久遠
主が帰ったことを認識して、雪菜は顔を伏せた
しかしすぐに顔をあげ、久遠に問いかける
「先輩とのご関係は、なんですか?」
「実家が冬風に仕える一族でね。その関係で従者として働いてたの」
「そう、だったんですね」
雪菜はこの機を逃すまいと情報を引き出そうとしたが、久遠はのらりくらりとかわしていく
そして雪菜は最後に1つ尋ねた
「貴方は…何者ですか?」
「私?私は桜坂久遠。探偵だよ!」
それを言い残して、久遠と莉琉と呼ばれた少女の姿は霧となって消えた
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