第13話─人間界6─

ゆっくりと海岸線を歩き、堤防に腰を下ろす霊斗

手に持っているのは紙タバコだ

そこから一本取り出して火をつけ、口に咥える



「ふぅ…。ちょっと前まで2人やら3人できたところに1人で来るなんてな」



主が死亡判定となってから1ヶ月半ほど経過し、霊斗も多少は立ち直りを見せていた

雪菜の方も少しばかり塞ぎ込んでいたらしいが、それでも霊斗ほどではない

所詮失ったものの大きさが異なるのだ



「はぁああ…」


「ため息つくと幸せが逃げるとは言うけど、実際には君に幸せは残ってるのか?」


「…!天津風あまつかぜ…」


煉河れんがでいいと言ったろ。久しぶりだな、緋月」



…こいつは誰だ?

今まで影も形も出てこなかったが…



「久しぶり、だな…」


「聞いたぞ、夜斗が死んだんだってな」


「…まだわかんねーよ。捜索願が出されてからしばらくすると死亡扱いになるんだ」


「知っている。これでも警察だからな」



…ほう。此奴は国家公務員というやつなのか

にしては大胆な性格に見えないこともないが…



「…本当に死んだのかはまだわからない」


「そうだな。逆に、生きてるとも限らない」


「…」



黙る霊斗

言い返したいのだろう。けど間違ったことは言っていない

ただ、主はここにいる。生と死の狭間に揺られ、人間界を観測している



「死亡の痕跡はない。それに、捜索願も嘘だ」


「…!じゃあなんで死亡判定が…」


「…おそらく、紗奈ちゃんが出したものを揉み消した奴がいる。そしてそいつは今夜斗の居場所を知ってると見て間違いない。結論を言おう。夜斗は誰かに隠されていてかつ、本当は死亡判定は出ていない」



…これは驚いた

まさかもみ消した者がいるとは…。否、それはつまり警察の中に主が死ぬと困る者がいるということになる

何らかの抑止力か、それともただの希望的観測なのかはわからぬが



「死亡判定は郵便かなんかで通知されるのか?」


「されない。警察に聞きにきたら答えるだけで、こちらから知らせる義務はない」


「だからか…!」



霊斗は主が生きてることを願っていた

しかしそれが現実となった───と思っている

だがここにいる以上、あとは消滅を待つのみだ

随分と可哀想ではあるが、俺から伝える手段はない



「…それを言いに来たのか、天津風」


「それとは別件だ」


「…?」


「白鷺が動いた」


「なっ…!」


「夜斗がいないこの隙を狙って、お前の彼女を襲おうとしている。こんなところで油を売っていていいのか?」


「…なんで、警察は動かないんだ!?」


「政府高官の息子に手を出す警官はいない。俺も、逮捕したが謹慎処分になった。だからここにいる」


「っ…!」



霊斗は走り出した

しかし煉河に止められ振り返る



「なんだよ!」


「夜斗からこれを預かっている」



煉河が投げたのは…俺の観測用端末と同じもの…?

あれは死神の技術だったはずだ



「それは君の役に立つだろう。持っとけ」


「…ああ、サンキュー」



冷静さを取り戻した霊斗が、端末を掲げた

そして数字を入力し、エンターを押す

急に周囲の景色が変わり、霊斗のバイト先の景色に切り替わった



「空間転移…本当に、実現したんだな」



空間転移は高位の魔女が使う瞬間移動だ

本来なら、魔女以外は知り得ない

ならどこで知ったというのだろうか、この主は

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