第12話─駅のホーム6─
「と、そのようなことがあったのだ」
「はーん、純恋がねぇ…」
レーションを口にしながら呟く主
場合によっては対応を迫られるのだが…
「放置でいいだろ。悪魔だろうがなんだろうが、本当に必要な用があるなら来るのは勝手だ。どうせ帰れなくなるんだしな」
「まぁそうだが…あの女は主を嫌っているのか?」
「知らん。そもそも霊斗と純恋が別れてから5年経ってるし、その間一回も会ってないから名前くらいしか記憶にない」
「…ふむ」
「当時から小悪魔的感覚はしていたが、まさか悪魔そのものとはな」
主の交友はよくわからぬ
主自身の元カノが霊斗と相対したこともあった
雪菜とは別の後輩が現れたこともあった
全ての人が人間ではない何らかの種族だ
なら主は自分が思うより人間を知らないのではなかろうか?
「そういえば閻魔には何を言われた?」
「…聞きたいか?」
「ああ。苦楽を共にすると決めた以上知っておくべきだろう」
「…求婚された」
「…は?」
理解できない
冥府の王とされる閻魔が女であるというところから、冥府が嫌う主に求婚するという全てが謎だ
「まぁまて、最初から話そう。裁判所についたらもうなんかよくわからないまま結婚の誓約を立てられそうになったんだ」
「最初が既に謎なのだが…?」
「俺もそう思う。で、なんとか止めたんだ。要件を聞いたら、結婚してくださいって言われた」
「早いな。最初が結婚式、次が求婚か」
「順序おかしいよな。ちなみに見た目は可愛かったぞ。黒髪ロングストレートに黒い和服。ただ誘惑の仕方はサキュバスだった」
「ほう?」
「和服の胸元をチラチラ見せつけられた」
「サキュバスだな」
否、サキュバス見たことないが、俺が持つ本はあらゆる本を写し読むことができる
その本で見たサキュバスの伝承にそっくりだ
ただ、タイトルが「淫魔物語─僕の嫁はサキュバス─」と書いてあってやけに肌色が多い書物だったが
「で、指輪を嵌めた時点で受領扱いだと言われたのを、如月がつけなきゃ殺すと言ったからつけたと切り抜けてきた」
「待て、俺を引き合いに出したのか」
「仕方ないだろ、あんま間違ってないんだし」
殺すとまで言ってない…はずだ
そもそも俺は閻魔の管理下にないため、あの文書を無視することもできたのだがこれは黙っておこう
「…で、どうなったんだ?」
「定期的に落としにくるらしい」
「傍迷惑な王だな…」
「早速きましたよ夜斗さん!」
「ぎゃああ!こっちくんな疫病神!」
「失敬な!誰が疫病神ですか!」
「オメーだよ!!」
主にも苦手という概念があるのだな
その辺りは普通に人間のような感覚がして少し安心した
と同時に、主が閻魔の庇護下に置かれたことで、とやかく文句を言う奴は減りそうだ
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