第8話─人間界4─
ただひたすらに愛を語るというのも、人間の恋愛としてはありなのかもしれぬな
俺は画面から目を離し、電車から降りてきた死者を眺めていた
主に言われて画面を見るとコトが終わっており、ようやくマトモに観測を続けられる
「…」
「…」
2人の間に会話はない
ここはホテルだ。時間貸し、と言われればピンとくるものもいるだろう
墓での一件が終わり翌々日。霊斗が告白して付き合い始めた初々しいカップルの初夜だ、見ていて気持ちのいいものではない
「…そ、そういえば、今日は冬風先輩の誕生日でしたね」
「そ、そうだったな。久しぶりに墓参り行こうか」
来るな、と呟く主だったがその願いは叶わない
主の車を譲り受けた霊斗が雪菜を乗せ墓場へと向かう
車とは便利なものだな。まぁ、この駅にくる電車は世界中から繋がっているから考え方次第ではある
なにせ、ここに来る電車には帰りの電車というものは存在しない単線式だ
「…夜斗。お前のおかげ?で彼女できたよ」
「そればっかりは霊くんの努力だけど…。冬風先輩は向こうで彼女できましたか?」
できるか!と叫ぶ主を横目に観測を続ける
ふと端末にノイズが走った
どうやら主のものにもノイズが出たようで、少し眉をしかめた
曰く、これにノイズが出るということは近くに死神がいるらしい
「あら…珍しいですね、緋月さんと神崎さん」
「君は…
「お久しぶりです。お兄様のお墓参りですか?」
「あ、ああ…紗奈さんも…?」
「えぇ、もちろん。2日に1回来てます」
「そう、だったんだ…ですね」
「今更敬語とか気にしますか、緋月さん」
優しげに笑う少女
主を兄と呼んだため、おそらく主の妹だろう
なるほど、聞いた話通り美人という言葉を具現化させたような容姿だ
黒髪は腰まで伸びており、着る服はどこかの高校のものだという
「…言えてなかった、な。ご愁傷様です、って」
「必要ありませんよ。お兄様はちゃんと、私たちを見てくださってますから」
ふむ、謎に鋭いな
こういったところは主譲りなのだろう
「それに、あの子もついてますしね」
「…マキナって子のことですか?」
雪菜が問いかける
マキナ?それは俺も知らん。死神の隠語か?
「はい。マキナはご都合主義なので、仮にお兄様が死を目前にしたとしてもなんらかの手段で覆せます。もし今この世界にお兄様がいないのならば、それはお兄様が望んだことです」
「…そう、だな」
霊斗はマキナを知っているようだ
あとで聞いた話だが、マキナというのは主が従える眷属のことらしい
機械を見にまとう少女の姿をしており、まさしくご都合主義という言葉が似合うほど超常的な力を持つようだ
「…そういえば、緋月さんと神崎さんはお付き合いを始めたんでしたね。そろそろ私もお名前で呼んだ方がいいかもしれません」
「「え?」」
「だって、お二人とも苗字で呼んでしまうとどちらかわからなくなりますから」
顔を赤らめる雪菜と理解が遅れた霊斗
つまりは結婚することまで見越しているのだろう
紗奈には先見の明、というものがあるらしい
要するに予言だ
「…お兄様にそのような方がいなくてよかった。いたらおそらく1番悲しむのはその方なので」
「そうだな…いや、意外と死後の世界でハーレムかも…」
「さすがにないと思うけどね、あの先輩」
馬鹿にしてんのか!と怒鳴る主
事実いないだろうに何故強がる
強いて言うのなら鏡華と唯利が主を狙っているのだが気づいていない朴念仁だ
「…お兄様が手塩にかけた神崎さんがこんなに大きく…」
「手塩にかけられてないですよ!?」
「後輩というより妹だったみたいですね。正妹の立場が危ぶまれてましたよ」
「正妹とは」
どうやら紗奈はツッコミどころが多い天然系のようだ
というよりこのバカ主が多分に甘やかしてきたのだろう。少々ワガママな淑女である
「それはそれとして、最近お兄様から手紙が届きました」
「…また?」
「緋月さんにも届いてたんですね」
「…いや正確にはユキに届いてた…と思ったんだけど」
「どちらに届いたかは別にどうでもいいんですけど…。緋月さん、車の鍵をお借りしていいですか?」
「え?い、いいっすけど」
3人が車に向かう
紗奈は鍵を開けるとおもむろにトランクを開き、床下収納を開けた
そして中から取り出したのは1つのすまーとふぉんとかいうやつだ
「やはりこんなとこにいたんですね」
「…!それ、夜斗が使ってた…!」
「オリジナルOSを使用した端末です。銘は「Eyes」。起きてください」
『システムアクティベート。おはようございます、妹様』
「「喋った!?」」
『む、失礼ですね。機械が喋ってはいけませんか?』
あれは…チラッと聞いたな
主の生活をサポートしていたという人工知能だ
…待て。もし主が予期せず死んでいたなら、あんなところに端末を仕込めないはずだ
ならば何故、あんなところに入っていたんだ?
そして何故、霊斗は気づかなかったんだ?
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