第7話─駅のホーム4─

「主よ」


「なんだよ」


「雪菜とやらが死神を自覚していたぞ」


「想定外の想定内だ」


「…成程。自覚すること自体は想定内だが、既に気づいているということは想定外ということか」


「さすが。…む、少し散歩してくる」



主は唐突に虚空を見上げ、誘われるように散歩に向かう

よほど暇なのか、もしくは何か俺にすら見えない何かが見えているのかはわからぬ

自分で言うのも少し疎ましく思われるかもしれないが、俺は高位の都市伝説だ

都市伝説は伝承が長く残ればそれだけ力が増していく

そんな俺に見えないとすれば相当高位の何かか、はたまたイマジナリーフレンドというやつなのか



「…人間はどこ?」


「…さとり…」


「今は鏡華きょうかが名前。あの人間にもらった名前だから、貴方くらいは呼んでくれてもいいんじゃないの?」



いきなり駅のホームに来たのは女だ

悟り妖怪とも呼ばれる、心を読む種族

実際にはメンタリズムとかいうやつが得意な小娘だったのだが、それが数百年を経て都市伝説のようなものになり妖怪化した



「…すまなかった」


「謝られると割と困る」



駅の中では心を読む能力は使えない

それどころかあらゆる妖怪は本来俺に入れないようになっているし、怪異とてホームで能力を使うことはできない

だからこそ、俺だけはこの妖怪とまともに話せる



「主は散歩だ」


「…また?」


「ああ。どうやら、俺には見えない何かが見えているようだ」


「本当にそうなら、それは神か何か」


「マトモに受け取るな。素直か」



この妖怪、普段は心を読みながら魑魅魍魎と話をしているため嘘というものを知らない

誰も悟り妖怪相手に嘘をつこうとしないからだ



「…私の弱点は貴方と夜斗くらい。夜斗の心も、読んだことないし」


「それはついていけば読めるだろう。俺はお前と同格だから防壁で読めないようにできるだけだ」



実際のところ、悟り妖怪クラスの妖は俺と同格なのだ

悟り妖怪は自分より低いランクの妖の心は問答無用で読むが、同ランク以上であれば相手の防御を破れない限り読むことが叶わぬ

とはいえ俺と同格であるものは覚…ではなく鏡華と、唯利という小娘くらいだ



「…む、そろそろ主が戻るだろう。話して行くのか?」


「…うん。ちょっと待つ」



遠くから踏切の音が聞こえる

今日も誰かが死に、ここに来るのだろう

死者はこの駅を出る時に有金を全て置いて行く。それがルールだ

ホームに入ってきたのは、見慣れぬ電車だった

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