第4話─人間界2─

霊斗が神社の前で何かを願うのが目に見えた

端末は常に観測対象を表示する。主のもそうだ

後輩•雪菜を見る目はどこか、妹を見るかのように暖かい



「…せめて、せめて夜斗の遺体だけでも見つかれば…!」



見つかることはない

何故ならここにいるからだ

きさらぎ駅に紛れ込むと人間界における肉体は崩壊する

ここにきた時点で死ぬことは確定しているようなものだ



「…霊斗さん」


「…!か、神崎さん…」



どうやらここで雪菜と出会ったようだ

何を思い、願いにきたのかはわからぬが、大方予想はつく



「霊斗さんも、冬風先輩の無事を祈って…?」


「…いや。無事じゃないだろうとは思ってる」



無事…と言っていいのかはわからぬが元気ではある

端末を見ることを放棄して人間界のコンテンツを視聴しているくらいには

主の最近のトレンドは都市伝説らしく、動画サイトで見漁っている



「…そう、ですよね」


「何かあった?」


「…はい。手紙が届きました」


「なんだって!?」


「ち、ちかいです霊斗さん!」


「あ…ご、ごめん!」



手紙を送ったのだろうか?

だとすればこの世界からどうやって送ったのだろう?

その答えはすぐに得られた



「予約郵便で送られてきたんです。郵便局に友人がいたようで、その人に「毎日連絡する。途絶えたら送ってくれ」と頼んでいたみたいで…」


「…あいつがやりそうだな」



人間界は進んだものだな

否、これに関しては主の人脈なのかもしれぬ



「内容としては…その、「これが届いたということは俺が死んだか崩壊したのだろう。お前には2つ言い残したことがある」とはじまっていまして…」



霊斗が手紙を借りた

端末を操作して霊斗の視点に変更すると、内容を読むことができた


つまるところ、主が死神であることと、霊斗が吸血鬼であることを記述してあるものだ

そして最後に「何かあれば霊斗を頼れ。あいつは役に立つ。この俺が太鼓判を押してもいい」と書いてあった

視点を戻して様子を見守る



「…あいつ」


「なんで隠したんですか?」


「…それは…。信じてもらえないと思って…」


「こんなこと信じますよ!私だって魂を司る死神なんですから!」



これは驚いた

雪菜は自分が死神であることを自覚していたらしい

どうりで怪我をしてもすぐ回復していたわけだ



「死神…?雪菜さんが…?」


「私だって冬風先輩の同族です!やろうと思えば霊斗さんの魂を弄ることも、冬風先輩の妹さんを死神化することもできるんですよ!」



ほう。主には妹がいたのか

妹よりこの2人の観測を選択したのは妹への信頼か、はたまた思うところがあるのか

それはわからぬ。未だ、主の思考を読めない事柄があるのだ



「こんな…こんなのって、あんまりですよ…」


「それは…ごめん」


「だから代わりに、ちょっと買い物に付き合ってください」


「荷物持ちってこと?」


「はい。重いものを買うので」


「…わかったよ。それで気が紛れるならいくらでも付き合う」


「では明日の午前9時半に沼津駅にお願いします」


「わかったよ。…送るから、願い事あるならお祈りしていったら?」



霊斗は存外紳士だな

毎度会うたびに送り届けることを約束している

まぁ、霊斗の感情は視覚化されてるから理解できるのだが



「ありがとう、ございます…」



雪菜の方は読めない。観測対象の感情しかわからないのだ

霊斗は主を失う前からこの感情を持っていたのだろう。だが今は抑えておけ

まだ、時はきていないのだろう










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