第3話─駅のホーム2─
ところでこれを見ている人はきさらぎ駅の伝承を知っているのだろうか
どこぞの駅から特定の条件が重なったときにくる電車に乗る、というのが通説なのだろう
しかし実はその条件は死を扱う死神が流した嘘だ
実際にはもう廃線になったとある駅の跡地で、4時44分44秒にちょっとした詠唱をするだけで来ることは可能だ
ただし、帰ることはできない。そればかりは伝承に間違いはない
「あいつら、俺が死んだって思ってんのかな」
「…さてな。事実、ここにいるのなら死んでるのと相違ない。そう言った意味では間違った認識をしているわけではなかろう」
「…かもな」
少し寂しげに笑う主
端末から顔を上げ、空を眺める
見上げたところで真っ黒な空だ。月など存在しないし、星など見えるわけもない
そもそも時間の概念すらなく常に夜だ
「アレに混ざりたかったのか?」
「…いや。簡単に死ぬと思われてたんだなって」
「…人間であればそう思うのも致し方あるまい」
「霊斗の魂魄が吸血鬼であることは教えた。だからちょくちょく身体強化してるだろ?」
吸血鬼の能力として数えられる常軌を逸した筋力は、霊斗も使うことができる
ただし制御ができていないようで、稀にバイト先の備品を破壊してるのを見かけていた
「魂の改造如きでああまで身体強化を使えるのなら逸材だな」
「だろ。魂を司る死神は割と見極める力もあるんだぜ」
誇らしげに見える
俺が褒めたのは霊斗の素質のことなのだが、とやかく言うと面倒だ。言わないでおこう
「そういやここってお前しかいないのか?」
「…まぁ、人数そこまで要らぬしな。稀に死神が人を乗せてくるから暇ではないが」
「乗せてこなきゃ暇なのか」
「否定できぬな。娯楽もない故に、虚な意思の中運用していたところだ」
思えばこのように誰かと話すのは初めてだったような気がする
何千何万年と前から付喪神として生きてきたが、話しかけようとする者はいなかった
そんな俺に目を向けた唯一の存在が主なのだから
「…ま、少し俺の暇つぶしに付き合ってくれよ。有無を言わせる気はないけどな」
「それくらい理解している。体を得た以上、暇を潰す手段は必要だ」
少し気恥ずかしく思い顔を逸らす
後ろでは主が笑っているような気配がした
たまには…。いや、今まで1人ここを維持していたのだ
少しくらい、この娯楽に縋っても許されるだろうと、俺は思っている
俺は初めて、悠久の時を共にしようと願えたのだ
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