第2話─人間界1─

主は元々人間界にいた。本来魂を司る死神は死ぬことがないのだが、何故か駅にきていた

本来死者を迎えるためのホームだというのに生きている者が来てしまったのだ

あらゆる手で追い返そうとしたのだがそれも叶わず、体を与える代わりに見守る手伝いをしろと言ってきた

変な奴だと思った。だからこそ、少しだけ

変な奴が見守る存在の人生が気になったのだ



「…夜斗」「冬風先輩…」



行方不明により捜索願いが出されていた主に死亡判定が出たのは昨日のことだ

もう半年か、と思うかまだ半年か、と思うかは人によるだろう

彼らはもう半年、と思うのだろうか



「…急にいなくなりやがって…」


「ほんとですよ…。まさか、本当に亡くなって…」


「あいつが死ぬわけないだろ…。多分、どっかで俺らを見てるんだ。そう思わなきゃ、やってられっか」



凄まじい勘である

横で主が驚いているのだから想定外なのだろう

彼らがいるのは墓場だ。それも主の墓として置かれた石

そこに線香を立て哀悼している。まさかこんなところで笑って見ているなど予想もつかないはずだ



「…神崎さん、家まで送るよ。夜斗と違って車ないけどさ」



主はよく、彼らを乗せていろいろな土地を見て回ったと言う

嫌がる霊斗を押し込み、雪菜を呼びつけてドライブし、景色を見せて2人を写真に収めていた

その写真も彼らの目に入ることはないのかと思うと少し歯痒く思うが



「…お願いします」



少なからずこの2人には多少慕われていたということだろうか?

人間の心理は読めん。特に、20歳前後は思考が入り乱れていて判断がなお難しい



「…死神、かぁ」


「…?」


「いや、夜斗が口癖みたいに言ってたんだよ。[俺は死神としてお前を死なせはせん。俺が死んでもお前は死なないようにしてやる]って。あいつが死んだなら、どうすんだかな」



見守っている。しかもわりと安全圏から

きさらぎ駅は人間界における神の手が届かない場所だ

冥界の者たちも近寄ろうとしない。近づけば八つ裂きだ



「…さぁ…?私にもよく、[死神は死神であることを自覚したらだめだ。自覚すれば永劫の時を生きることになる]と言っていました。でも、亡くなった…んですよね」



厳密には死んでいない。ここで見ている

何なら少し笑ってすらいる

死神を自覚しなければ死ぬ。業を得なければ冥府に嫌われない

ならば何故主は、業を背負ってまで霊斗を吸血鬼に変えたのだろう?と

聞いても答えないはずだ。まだ半年しか時を同じくしていないが、その程度なら俺でも理解できた

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