如月さんは知っている

さむがりなひと

第1話─駅のホーム1─

どうも。俺は如月

簡単に言うと、きさらぎ駅という都市伝説が霊体を得て具現化した存在だ

俺の隣でぼーっと海を眺めているのは、この体を構成する霊力をくれる主•夜斗

俺は夜斗の命令で人間界のとある人物を観測している



「…いつまで続ける気だ、主よ」


「いつまでも、だよ。あいつらが死ぬまで」


「…吸血鬼が死なぬのはわかりきっていることだろう?」



俺がここで見ているのは吸血鬼の青年•霊斗

彼奴は主が人間界にいた頃、同じ釜の飯を食らったと言っても過言ではない親友だったという

なら何故主がここにいるのかは後述することにしよう



「だから言ったろ。ずっとだ。あいつが結婚して子供を作って、幸せになったら俺たちは俺たちの仕事を再開しよう」


「…人間の恋人を作る意味はなかろう?俺たちからすれば瞬き程度の時間だ」


「だから面白いんだろ。ま、俺的には後輩ちゃんがあいつの彼女になれば1番いいと思うけどな」



主はそう言って端末を取り出した

そこに映るのは1人の少女だ。とはいえ映る物は俺の端末と同じ景色。つまり同じ場所にいる、ということになる

その少女は雪菜というらしい。主の人間界での後輩に当たるようだ



「…その小娘が何か都合いいと?」


「ああ」



霊斗は吸血鬼だと聞いた

本来伝承上の存在ではあるものの、実情として存在しているのだから人間界は面白い

かくいう俺自身、伝承にしか存在しないことになっていたのだがな



「…主はよくわからないことを言う」


「そうか?って言ってなかったか。雪菜も俺と同じだよ」


「死神、ということか」



死神には2系統の存在定義があるとされる

魂を司る能力を得た後天性の死神と、死を取り扱う先天性の死神だ

死を扱う死神は死者の中から選出され、冥府の元で働かされるようだが魂を司る死神はそうもいかない

冥府に嫌われ、魂の消失までを人間界にて過ごすことになる



「後天性だから魂を司る死神だよ。そんな能力あると気付いてないだろうけど」


「気づく方がおかしいのだ。事実、魂を司る死神は自身の能力を自覚することはほとんどない」



というのも、魂を改造するなどという大掛かりな魔術はそう簡単に行えるものではない

単独で行えるほど簡単なものではなく、本来であれば100人の死神が三日三晩行うレベルの術式だ

それを単体でやってのけた主の方がおかしいのだ。最も、成功例は霊斗のみらしい



「そんなこと言ってもなぁ…。まぁ、それはどうでもいいんだよ。雪菜は不老不死で霊斗は吸血鬼。最適解じゃねぇか?」


「…かもしれぬな。同時に、苦難には2人で立ち向かわねばならぬ。他を頼ることは許されん。その環境でどれほど恋人関係が続くか見ものだな」


「…お前ちょいちょい卑屈な物の見方するよな。損するぞ」


「人間界であれば損の一つするだろうが、ここなら問題なかろう」



ここは俺自身。きさらぎ駅のホーム

何人たりとも来ることは叶わぬ、人類唯一の未踏の地

ここからであれば、全てを見ることができる。全てを知ることができる

故に、彼らを観測するのに不足はない

見させてもらうとしよう。吸血鬼と死神が織りなす壮大な恋愛オーケストラ










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