飲み会

「本当に大丈夫? 遅くならないようにするから」

「こっちの事は気にしないでリフレッシュしてきて!」

「ありがとう。何かあったら連絡してね」

「うん。楽しんできてね」


 他県に住んでいる高校時代の友人から、実家に帰るタイミングで都合が合えば飲み会をしよう、とグループトークに連絡が入った。

 しばらく参加出来ていなくて、今回も断ろうと思っていたけれど、旭が行ってきなよと言ってくれた。


 夜出かけることなんて無かったから心配で悩んでいれば、旭が梨華と悠真に、あーちゃんとお留守番できる人ー? と聞いていて、2人とも元気にはーい!! と揃って返事をしていた。


 懐いているのは嬉しいけれど、あまりにも簡単にOKされるからちょっと複雑な気持ちになった。

 私の表情から気づいた旭に満面の笑みで愛でられたけど、私の方が歳上なんですけど??



「まま、いってらっしゃい」

「しゃい!」

「うん。行ってきます。旭の言うことちゃんと聞いてね」

「「はーい」」

「気をつけてね。帰り危ないから、タクシー使ってね?」

「うん」


 3人に見送られて家を出た。ご飯も食べさせたし、お風呂にも3人で入ってもらったし、後は寝るだけの状態だけれど、なんだか落ち着かない。

 途中で連絡を入れてみよう、とまだ家を出たばかりなのに考えてしまった。



「ねぇ、唯華のとこどうなってんの?」

「そうそう! 今日はそれ聞きたかった」

「義理の妹が見てくれる、って旭ちゃんだよね??」


 参加する、と返事をした時に、子供たちは大丈夫? と聞かれたから、義理の妹が見てくれるから大丈夫、と返信をした。

 3人は昔旭と付き合っていたことを知っているし、結婚式でも旭と会っているから拓真の妹が旭だった、という事も知っている。


 詳しくは会った時に、と伝えていたから真っ先に話題になった。


「そう。別れてからも拓真の実家に住んでるのは知ってるよね?」

「「「うん」」」

「で、旭が海外勤務を終えて帰ってきて、告白されて付き合ってる」

「いつから!?」


 正面に座っている祐奈と紗羅が身を乗り出してくる。


「1か月前くらいから」

「今、幸せ?」

「うん」

「そっか。うん。良かったね。本当に良かった」


 真理が優しくそう言ってくれて、ジーンとした。毎回、帰省の度に連絡をくれていたけれど拓真に預けて夜出かける、という事が不安でいつも断っていた。離婚してからも、義両親に預けて夜出かける、なんて出来なかったしね。


 今日、旭に2人を見ていてもらうことの不安は全くなかったな。今頃は寝室で絵本でも読んでいる頃だろうか?


「よし、今日はとことん飲もう!」

「いや、そんなに飲まないから」

「祐奈は飲みたいだけでしょ」

「どうせ寝るんでしょ? 連れて帰るの大変だから程々にしてよ?」

「……みんな冷たくない!?」


 久しぶりのこの雰囲気、やっぱりいいな。



 お酒も進んで、それぞれの近況を聞いたりと盛り上がっていれば、メッセージが届いた。開けば、旭から2人の寝顔が送られてきた。


「旭ちゃん?」

「うん。2人とも寝たって」

「写真??」

「え、見たい見たい」

「うわ、可愛い……癒される。うちもこんな時あったな……」


 保存した写真を表示させてスマホを真理に渡せば、しみじみ呟いている。


「真理の子供は何歳だっけ?」

「もう10歳。あっという間だよ~!」

「え、そんなになるんだ」

「そっか、20歳で産んだんだもんね」


 10歳か。梨華と悠真もあっという間に大きくなるんだろうな。


「旭ちゃんの写真はないの?」

「え、あるけど……」

「見たい!!」


 スマホを受け取ってカメラロールを見れば、こんなに撮ってたんだ、ってくらい子供たちと旭の写真で溢れていて驚いた。


「なんかさ……似てるね?」

「うん。家族感凄い」

「2人とも懐いてるんだなって分かる」


 3人の言葉が嬉しい。帰ったら旭にも伝えよう。



 場所を変えて時間が経つと、お酒が好きだけれど弱い祐奈は机に突っ伏して寝てしまって、紗羅がやっぱり寝た、と苦笑している。


「で、そんな甘々な旭ちゃんはまだ起きてるの?」

「待ってる、って言ってたから多分起きてると思うけど」


 旭が昔とは別人みたい、という話から、色々聞き出されて余計なことまで話してしまった気がする。


「会いたい~! 帰りのタクシー、唯華の家からにしたら会えないかな?」

「旭ちゃん外に出てこられたりする? 子供たち寝てるし無理かな?」

「子供たちは滅多に起きないから少しなら大丈夫だけど、旭次第かな……」


 会いたい!! と2人から望まれて、旭にメッセージを送ってみた。会わせたら余計なこと言いそうだし、寝ててくれていいんだけど……


「あ、返事来た。外まで迎えに来てくれるって」

「うわー、楽しみ!」

「よし、祐奈起こそ! ゆうなー! 帰るよー!」

「んぁ?」

「旭ちゃんに会いに行くよ!!」

「……旭ちゃん?? どゆこと?」


 紗羅に起こされて、旭に会いに行くと言われて何の話? と首を傾げていたけれど、説明されて目を輝かせた。



 家の前に着いてタクシーを降りれば、玄関が開いて旭が出てきてくれた。


「唯華ちゃん、お帰り。梨華と悠真はよく寝てるよ」

「ありがとう」

「結構飲んだ? 顔赤い。気持ち悪かったりしない?」


 頬にそっと手が添えられて心配そうに見てくるけど、そんなに赤いかな?


「大丈夫。久しぶりだから弱くなったかも」

「そっか。家でもそんなに飲まないもんね」


 優しく笑って、タクシーから降りてきた3人に目を向けた。


「先輩方、こんばんは。お久しぶりです」

「こんばんは。聞いてたとおり、本当昔とは大違い」

「何を聞いたのかちょっと怖いですね……」

「昔とは違って甘々だって」

「あー、そうですね。今は昔の反省からちゃんと伝えるようにしてます。不安にさせたくないですし。まぁ、色々不満はあるかもしれませんが……それは定期的に先輩方に話して発散してもらえれば」

「不満? そんなの全然。惚気話なら沢山聞いたけど」

「今じゃすっかり逆転してるんだって? 昔は唯華に押されっぱなしだったのにねぇ」

「唯華でれっでれだったよ? 子供たちと笑ってる旭ちゃんが可愛い、とか」

「ちょっと!! 言わなくていいから! 運転手さん待ってるよ!」


 これ以上余計な話をされないように、早く帰さないと。


「分かった分かった。今度は、昼間に会おうね。旭ちゃんも一緒に」

「はい、是非。お気をつけて」

「今日は楽しかった。気をつけてね。タクシー代後で教えて。送金する」

「りょうかーい! 私が最後だし、みんなの分立て替えておく!」

「祐奈、私たち居なくても寝ないで起きてられる?」

「起きてられるし!!」


 祐奈と紗羅が騒ぎながら先に乗り込んで、後に真理も続いた。窓越しに少し話して、タクシーが見えなくなるまで見送った。



「旭、今日はありがとう。2人ともいい子にしてた?」

「うん。いい子だったよ。唯華ちゃん、こっち来て」

「うん」


 子供たちの寝顔を見に行って、シャワーを浴びてからリビングに戻れば、ソファに腰かけた旭に呼ばれた。


「唯華ちゃん、色っぽい」

「え? そう? お酒のせいかな?」

「お風呂上がりってだけでドキドキするのに」


 腰に抱きついて、お腹に顔を埋めた旭が可愛くて頭を撫でれば、じっと見上げられた。

 口付けを落とせば、照れたように笑うから何だか昔を思い出してしまった。


「ねぇ、旭。今日は私がシてもいい?」

「えっ!?」

「嫌?」

「嫌ってことはないけど、されるのなんて久しぶりすぎて……」

「久しぶりってどのくらい?」

「最後は唯華ちゃんと付き合ってた時」


 私と付き合ってた時? そうなんだ……それはちょっと、いや、かなり嬉しいかもしれない。



「ねぇ、唯華ちゃんは脱がないの?」

「うん。昔脱ごうとしたら、裸なんて見れない、って旭が止めたんだよ?」

「今は見たいのに」

「見るだけじゃなくて触るでしょ? 今日は私がするの」


 唇を塞いで素肌に触れれば、抗議するように背中を叩かれたけれど、昔話をしたせいもあって止められなかった。



「旭、寝室行ける?」

「行けるけど、行かない」

「ん? えっ、ちょっと……」


 あっという間に組み敷かれて、服に手がかけられた。これは、もしかして……?


「今度は私の番。まだまだ寝かせないよ?」

「んっ……」

「声かわいい」


 首筋を撫でられて声が漏れれば、旭が嬉しそうに笑った。

 さっきまでの可愛い旭も好きだけど、こっちの旭も好き。首の後ろに手を回して引き寄せれば、優しくキスをしてくれた。


「ちゃんと梨華と悠真のお世話はするから、安心して抱かれてね」


 旭ちゃん、それって安心できないんじゃ?

 手加減してくれるつもりはないってことね、と思わず遠い目をしてしまったけれど、旭が嬉しそうだからいいかな、と身を委ねた。

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